第50話 お風呂上りにマッサージ!
皆が帰った後お風呂に入る。
毎日お風呂に入る習慣のある日本人としては寮の個室にお風呂が付いているのは有り難い。この世界では上位貴族や大商人でもなければ毎日入浴しないのだそうだ。
「ルーク様は本当にお風呂好きですね?」
「うん。俺は夏でもシャワーではなく、ちゃんと湯船にお湯を張って入りたいんだよね~」
「はい。この寮には魔道具があるので、それほど手間ではないですから大丈夫ですよ」
「イリスも冷める前に入っておいで」
「はい。お気遣いありがとうございます」
イリスはお風呂上りの俺に冷たいレモン水を出してくれてからお風呂に向かった。
彼女はあまり長風呂をしない。おそらく俺に気遣っているのだろう。
30分ほどで出てきたイリスに声を掛ける。
「イリスちょっといいか?」
「は、はい! な、何でしょうか?」
お風呂上りに声を掛けたので少し警戒しているみたいだ―――
両手で胸を隠すようにしながら俺の視線から逃れようとしている。
「別にエッチなお願いとかしないから!」
「そ、そうですか……何か御用ですか?」
「うん。実は先日イリスと買い物で町中を歩いただろ? 今日の授業のランニングもそうだけど、筋肉痛で足がかなり痛いんだ。回復魔法を自分で掛けたので、これでもマシになっているんだけどね」
「あ~、私もちょっと痛いですね。マッサージをすればいいのでしょうか?」
「うん。そうだけど、普通のヤツじゃなく、俺の師匠直伝のマッサージをイリスにも覚えてもらおうかなと思って」
「そ、そうです! ルーク様のお師匠様って、あの大賢者エドワード様なのですか⁉」
「うん、まぁそうだね」
「どうして教えてくれなかったのですか⁉ もうびっくりです!」
「師匠との約束で、皆には内緒なんだ」
「どうして内緒なのでしょう?」
「師匠は基本人族の弟子は取らないと公言しているから、人族の俺を弟子にしたと知った者たちが、『俺も私も』としつこく付きまとうことになるかもしれないからね」
「なるほど……それはありそうです。エドワード様はどうして人族の弟子はお取りにならないのですか?」
「すぐ死ぬからだって」
「………………えっ!?」
「長寿のエルフからすれば、何年もかけて一生懸命教えたのに、たった50年ほどで亡くなっちゃうからやってられないってのは分かるんだ」
「そう言われればそうかもしれません。ではルーク様はどうして弟子にしていただけたのですか?」
「その辺の事情はまた今度ね。とにかく今は足が痛いので、マッサージ治療を覚えてくれない?」
実は国王がイリスを追い出そうとした理由に、回復剤や師匠の話が含まれていたからなのだ。それを聞いていたイリスの反応がこれだ。
「すっごくその辺の事情が知りたいですが、マッサージ治療っていうのも学びたいので、お暇なときにエドワード様のこともお話しくださいね?」
「俺からすれば、癖の強い庭師のジーさんなんだけどなぁ。まぁ師匠の話はそのうちね。俺は師匠の腰痛改善の為にマッサージ治療の技を教え込まれたんだよ」
「普通のマッサージとは違うのですか?」
「うん。師匠のマッサージはスキルを使ったマッサージなんだ」
師匠のスキルに、ナビーに調べてもらった指圧治療やリンパマッサージ、カイロプラクティックなどの整体治療を併用すれば凄いことになりそうなんだよね。
「大賢者様のスキル治療! お、教えてください! 教えてくだされば毎日して差し上げます!」
「毎日はしなくて良いけど、疲れが溜まった時はお願いするよ。でも、この施術は服の上からでは駄目なので、悪いけど体操着のようなものに着替えてきてくれるかな?」
「地肌に直接でないとダメってことですか?」
「うん。地肌というより直接患部に触れないと効果が出ない」
「分かりました」
うわ~、細くて綺麗な足だ。
そっか、この世界では無駄毛がないから、スベスベのツルツルした肌理の細やかな肌をした娘が多いんだね。
「あまりジロジロ見ないでください……恥ずかしいです」
「いや~綺麗な足だと思って。じゃあ、とりあえずコツを先に説明するね。この施術に必要なのは水か聖属性の初級回復魔法と【魔力操作】のレベルが3以上必要になる」
「レベル3ですか? 結構難しそうですね」
「俺は【詳細鑑定】というオリジナル魔法があるのでこれで患部がすぐ調べられる。今回はこの魔法を使うけど、普通は圧したり触ったり本人から聞いたりして患部を特定する。イリスはふくらはぎが筋疲労で軽く炎症を起こしているみたいだね。ほらここ」
「イタッ!」
「普通はこうやって押して調べるといい。で、ここからどうするかというと、指圧する際に圧している指先から回復魔法が発動して癒しているイメージを強く持ってから指圧するんだ。こんな感じにね……」
「いたっ……いけど気持ち良いです! 何これ! 痛みがス~ッと消えていくようです! あ~~気持ちいいです♪」
「普通のヒールだと1回発動したら効果も1回分だけだけど、1回の魔力量でヒールを小出しで少しずつ流し込む? 練り込むってイメージでゆっくりこうやって指圧して、疲れの成分を散らして消すイメージをするんだけど……分かるかな? 【魔力感知】で感じてみて」
「なんとなく理解はできましたが、実際やるのは難しそうですね」
ふくらはぎを中心に、足裏も施術した。
「足の裏にはツボと呼ばれる体の状態を良くする場所が沢山あるんだよ。例えばここは肝臓と繋がっている場所」
「あ、気持ちいいです♪」
「肝臓が悪いと結構痛みを感じるそうだよ。どう? 随分楽になったんじゃない?」
「ほんとだ! 足の痛かったところが全部治っています! 凄いです!」
「同じ要領で腰や肩にも効くから、俺にやってくれるかな」
「はい! 頑張ります!」
「う~ん、気持ち良いんだけど、ヒールが練り込まれていないんだよね。これでは、最初に発動した部位だけにヒールが入った状態だ。1度のヒール魔法をゆっくり小出しできてないんだよ。【魔力操作】レベル3が最低いるってのが分かるでしょ」
「はい。難しいです」
「1回で治すやつに慣れちゃってるから、小出しで放出するイメージが難しいんだろうね」
「1回のヒールで筋肉痛は治らないのでしょうか?」
「炎症が治まるので筋肉痛は一時的に治るけど、疲労物質は溜まったままなので完治には至らないんだ。そうだ、イリスはお風呂上りに【ウィンド】で髪を乾かしているだろ? あれと同じなんだよ。【ウィンド】で風を一瞬出すのではなく、一度の魔力量で10分ぐらい風が持続して出せているだろ? 使い方はあの感覚と一緒なんだよ。強い風は出せないけど、弱い風を持続できる感じ? それを【アクアヒール】でやるんだ」
「なるほど! 今の説明でなんとなく理解できました!」
だが、結局この日は習得できなかった。
「ごめんなさい。せっかく教えて頂いたのにお役に立てなくて」
「そんなすぐには無理だよ。俺だってコツをつかむのに暫くかかったんだから。でもこれも【魔力操作】の練習になるから、頑張って明日も続けようか? これを覚えて熟練度が上がれば、細胞レベルでの治療ができるようになるよ。そうなったら、ちぎれた腕や足もこの施術法でくっつけて治すことが可能になる」
「本当ですか⁉ 頑張ります!」
「うん、頑張って覚えよう」
「ところでルーク様、このまま少し筋トレしましょう。腕立てと腹筋30回です! 頑張って痩せましょうね!」
「お風呂入ったのに?」
「汗をかいたらまた入ればいいじゃないですか?」
「俺、腹筋1回もできないんだ……」
「えっ?」
「いやマジで……ほら」
寝転んで上半身を起こそうとすると、足の方が上がるのだ。上半身が重すぎて、起き上がることができない。
「私が足を押さえておけばどうでしょうか?」
イリスが俺の足首を持って体重を掛けてきた。
「あ! できた! 足を持っていてくれたらできそうだね」
でも、イリスさん! 俺が起き上がる度に胸が顔の近くに来るのですが! しかも割と体にフィットした体操服なので揺れる揺れる……ちょっと刺激が強すぎます!
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