第28話 感染者が居るという事は、感染源の人が居るよね?

 お義母様を部屋に送ろうとしたら、少し言い辛そうにしながら俺に訴えてきた。

 なんだろう? 流石にもっと居たいとかはダメだよ?


「ルーク殿下、お願いがございます。あなた様の回復魔法がとても貴重だと分かっていて申し上げます。大国の王子様にお願いするようなことではないのですが、わたくしの看病をしてくれた使用人にうつってしまい、現在離れで2名の者が療養中とのことです。どうか彼女たちも診て頂けないでしょうか?」


 めっちゃへりくだって丁寧な言葉遣いで訴えてきたので緊張したが、大したお願いではなかった。むしろそういうことに配慮がなかったと反省しなきゃだね。


 結核はかつて日本でもヤバい病の一つとされ、法律によって発病者は現在でも感染拡散予防のために隔離されてしまう病なのだ。その患者が1人ここに居るってことは、発病していないとしても感染している者が他にもいると思った方が良い事案だった。


「サーシャ、気持ちは分かるが、流石にそれはダメだ」


 えっ? おっさん、なんでダメなんだよ?


「どうしてダメなのですか? 気にするほどのことではないですよ? まぁ、あの人もこの人もと次から次に言われたら僕にもやりたいことがあるので困りますが、手の空いている時に診るくらいなら良いですよ」


「そういうことではないのだ……」


 どうにも歯切れが悪い。


『♪ なるほど。その対象者が使用人だからですね。使用人と言っても公爵家には沢山いますが、その中でも一番身分の低い者。危険な病がうつるかもしれない彼女の看病をさせるためだけに、奴隷商で買った娘です。つまり終身奴隷の娘です。本来なら公爵家では存在しないほど身分が低い者たちです』


『それで、なにがダメなのだ?』

『♪ 大国の王子に奴隷の診察をさせたとあっては、公爵家の威信にかかわるってことです』


 くだらない!


『♪ マスターからすればくだらないことですが、貴族家としては問題な案件です。この家には他家から貴族見習いとして預かっている息女たちが沢山います。その者たちに示しがつかなくなります』


「まぁ、事情はなんとなく分かります。その者の身分が低いからって理由でしょ? ですが、この病は発病していなくても、既にうつっている可能性のある病なのです。念のために、明日全員診ることにします」


 うつっていても潜伏期間とかもあるし、中には発病しない者もいるからね。


「全員とは借金奴隷や契約奴隷も含めてってことか?」


 契約奴隷? 王子のルーク君にそのような知識は全くない。王族に接することができる者は、家格がそれなりに高い貴族家の者たちだけだから知らないのも当然だ。


「全員です。既に病がうつっているかもしれないと不安な貴族見習いの息女もいるでしょうし、僕が診ていない者から広まる危険性もあります。全員検診しておけば安心でしょ?」


「ルーク殿下、ご配慮ありがとうございます」

「お義母様、僕のことはルークで良いですよ。堅苦しいのは好きではないですし、婿入りする者に対して他人行儀でしょ?」


「そうですわね。では、これからはルークさんと呼ばせてもらいますわ」


 ゲッ! 姫様がめっちゃこっち見てる!


『♪ 馬車で言ったことと違う態度をとっていたら変な目で見るでしょう』

『王城でいた時みたいに居辛いより、心証は良くしておいた方がいいだろ』


「ルーク? お前が診察したらうつっているかどうかが正確に分かるのか?」


 どうしよう。姫がめっちゃ見てる。弱視で部屋の中だとほとんど見えないって言ってたのに、その目で違うものが見えているんだろうな。


「兄様、僕は医者としての知識はあまりないですが、鑑定魔法に似た魔法があるので、うつっているかどうかぐらいなら診断できます」


 よし嘘は言ってない! 女神様から頂いたチート3点セットの1つの【詳細鑑定】を使えば判別できるだろう。


「そんなスキルを持っていたのか、お前は本当に色々秘密が多いな。本気を出せば俺なんかよりずっと優秀なのに……。お父様も馬鹿な判断をしたものだ。属国とはいえ他国に婿にやるなんてなんて勿体ないことを」


「兄様、買い被り過ぎですよ。僕は学んでこなかったので、馬鹿なんです。とりあえず、ここに居る人だけでも診ておきましょう。お義母様にうつした者がいるはずですが、心当たりはないですか?」


「おそらくその者は既に亡くなっている……」

「あなた? ひょっとして?」


「そうだ。お前の開催していたお茶会に良く来ていた、伯爵家のエルダ夫人だ。他にも彼女が出席していたお茶会にきていた奥方や侍女が3名亡くなっている」


「エルダさんが……お優しい方でしたのに、残念ですわ」


 お茶会参加者か、仲良しグループなら長時間くっちゃべっていたんだろうな。

 よほど仲が良かったのか、涙を流してとても悲しそうだ。



「ララちゃんおいで!」

「はい、ルークお兄様!」


 クッ! 可愛すぎる!


「【詳細鑑定】……」


『♪ スキルレベルが足らないようですね。【カスタマイズ】を使って熟練レベルを1つ上げてみてください』


【詳細鑑定】を再度無詠唱で発動してみる……よし、診られるようになった。


「うん! ララちゃんは健康優良児だね! どこも悪くなさそうだよ」

「やったー!」


 両手を上げて喜んでいる……めっちゃ可愛い!


 どんどん診ていく……アンナちゃんも問題なし……ミーファ姫・エリカちゃん・ジェイル兄様、……ん? ガイル公爵アウト!


「ガイル公爵……感染しています」

「「えっ⁉ 嘘でしょ!」」


 アンナちゃんとサーシャさんが驚いている。


「そうか……領主として毎日たくさんの人に会うからな……その可能性は考えていた。そういうのもあって婿取りを急いだのだ」


「なにしんみりなっているのですか? 感染していますが、発病はしていないです。兄様やガイル公爵ほど体を鍛えている人は、感染しても抵抗力がとても高いので、発病する前に体の方で抑えつけちゃう場合が多いのですよ。それに僕が治せますしね」


「そ、そうなのか? ルーク君、あまり脅さないでくれ……ちょっと焦ったではないか」


 念のためにガイル公爵に潜伏中の結核菌を排除しておく。


 お義母様を部屋に帰し、まだ魔力に余裕があるので、その看病をしていたという娘の所に向かう。隔離部屋には15~20歳ぐらいの若い娘が3人居た。さっきお義母さまの部屋にいた子もいる。


 うん。1人は末期患者だね。この娘が最初のお義母様の介護者かな。

 3人に、お義母様にしたことと同じ処置を施しておく。 


「あれ? 治った?」

「ほんとだ! 熱がなくなった!」


「1番酷い君はまだ完全には治ってないけど、ちゃんと治してあげるから心配いらないよ。他の2人は完全に治っているから、以降もちゃんと奥方の看病をしてあげてね」


「あの~お医者様? この病気はうつると絶対治らないやつだって噂で聞いたのですが……」


「治るよ。現に調子良くなったでしょ?」

「「「はい! 凄く調子良いです!」」」


「1週間ほどしたらまた来るから、この病に怯える必要はないからね。その娘と、奥方の看病をしっかりよろしくね?」


「「はい! 公爵様、私たちまで凄いお医者様に診せて頂いてありがとうございます!」」


「あ~、彼は医者ではなく、我が公爵家の婿に迎えた者だ。彼に感謝するのだな」


 公爵からすれば複雑な気分だろう。執事の誰かがこの娘たちを買ってきたのだろうが、うつるの前提で使い潰すつもりで買ったのは間違いないからね。


 酷い話だとは思うが、サーシャさんの看病をする人が必ず要るのだ。うつる可能性が高いそこに、大事な使用人や預かっている貴族家の息女たちを付けるわけにはいかない。


「まだ魔力が残っているので、厨房の者たちも連れてきてください」

「そ、そうだな。料理人が感染してたら、最悪全員にうつりかねないな」


 食器などからうつることはないんだけどね……結果は、問題なかった。

 

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