第54話「バーサスVS魔王」

 バーサスは魔王から視線を切らずに、銀の槍を伸ばし、ライフルを構え、肩からレーザーを出す。


 魔王もただの雑魚ではないと感じとると、ロングソードを構え、いつでも魔法が放てるようスマホを手放し片手を空ける。


 ジリジリとすり足でバーサスは間合いを図っていく。

 ライフルの間合いに入ったそのとき、同時に動いた。


 ライフルから火が放たれ、銃弾が飛び交うと、魔王からは光の帯が幾重にも分かれ、バーサスを襲う。

 お互いの攻撃を魔王は見えない障壁を展開し防ぎ、バーサスは光の軌道を見切り全てを避けた。


「ほぉ。今のを避――」

 

 先ほどから崩さない余裕のある態度を持って、相手を称賛しようとした所に、容赦なく隙として弾丸が撃ち込まれる。


 魔王は舌打ちしながら壁を出し防ぐのだが、いつの間にかバーサスの姿が視界から消えていた。


「ん? どこに?」


 油断していた訳ではないが、魔王は自分に敵う者などいないと思っており、相手の姿が見えなくなってもいたずらに障壁を展開し身を守るという、逃げのような行いはしなかった。

 それが裏目に出る結果となり、上空へ跳んでいたバーサスの槍が魔王を襲う。


「上だとっ!?」


 魔王は普通であれば脳天へ直撃であるはずの槍をロングソードでいなし、肩へとギリギリで軌道を変えた。


「ぐぅうっ!!」


 貫かれた肩の痛みで初めてその顔を曇らす。

 痛みに呻いている暇すら与えず、バーサスの攻撃は続く。


 脛当てから射出されたハンドガンを握ると、腹部へ打ち込む。

 魔王はそれもなんとか障壁を出し防御したのだが――。


 レーザーの照射口が魔王の顔へと向く。


「なにか分からんが、まずい!」


 そう叫んだときには時すでに遅く、レーザーは魔王の額を捉えていた。


 ジュッと肉の焼ける音と共に魔王の頭には穴が穿たれた。


「お、の、れ……」


 魔王は倒れながら、手に魔法陣を浮かべると、光がバーサスに向かって放たれた。

 それを間一髪で避けるが、肩にあったレーザーに直撃し、小さな爆破が起きる。

 肩から首にかけ、火傷と裂傷を負うが、バーサスからしたらかすり傷の部類に入る程度であった。


 そのまま魔王は地面へと倒れ身じろぎひとつしない。


「か、勝ったの? 凄い!」


 ユキエは刺された箇所を押さえながら呟く。

 ドニーも首だけになりながらも、表情にはバーサスの勝利を喜んでいた。


 しかし、とうのバーサスは、死んでいるであろう魔王から視線を逸らすことなく、注意深く見つめている。


「エリザベスが言っていた、魔王には必ず第二形態があると」


「確かにっ!!」


 ユキエはバーサスの言葉に食い気味で反応した。


「とりあえず、死んでても生きててもどちらでもいいように、それ撃っておけば?」


 容赦ないユキエの言葉に、バーサスは即断即決し、弾丸を放った。


 しかし、その弾丸が、魔王へと届くことは無かった。


 空中で弾は止まり、塵と化していく。


「余の核を1つ壊すとは……。まさかこんな異世界で真の姿を晒すことになろうとは」


 魔王は一度宙へ浮かんでから地面へと立つ。

 ローブの下の肉体が肥大化し、ローブを破りその姿を露わとする。


 魔王の頭は漆黒の毛を持つ山羊となり、体は筋骨隆々な人間の雄のものに、下半身は再び山羊の脚を持つ。

 背中からは夜の闇よりも黒い羽根が空を覆う。


「この姿、実に100年ぶりよ。ハアッ!!」


 魔王が全身に力を込めると大気が震え、地鳴りが起きる。


 バーサスは魔王の真の姿、真の力を目のあたりにし、震えていた。

 しかし、それは恐怖からではなく、真の好敵手に逢えた喜びからだった。


「余が最強、最悪の魔王となった理外のチートスキルを味合わせてやろう!」


 魔王が叫ぶと、周囲の空気が変わる。


「魔法分解霧散。魔力結集吸収」


 同時に、見えない障壁に止められていた弾丸は地面へと落ち、ユキエの傷が回復に向かい、極めつけはゲートと思しき空間の歪みが消えた。


「これは敵味方問わず周囲の魔法を分解し、魔力として余の中へ取り入れ、身体能力を爆発的に上昇させるチートスキルよ」


 バーサスはすぐさま拳銃を構えるが、すでに照準から魔王の姿は外れていた。

 いつの間にか背後へ立っていた魔王は余裕の表情を湛え、バーサスの肩へ手を置く。


「なぜ、余が自分の能力をぺらぺら喋るか分かるか? それは、どうしようもない現実を突きつけ、絶望の中、相手を殺すためだ」


 ゆっくりと鋭く強い力でバーサスの肩に爪が差し込まれてくる。


「ガァッ!!」


 バーサスが苦悶の表情を浮かべ、圧倒的な実力の差を見せつけられ、敗北を覚悟した。

 そんなとき、まるでその思いを見透かしたように、背後からキレイな女性の声が響き渡る。


「やぁ、相手を絶望させて殺すというのは、実に同意できる意見だね。まぁ、シンパシーなど感じたところで、キミとは敵同士なのだがね」


 エリザベスは、世間話でもするかのような気軽さで、バーサスと魔王の前へ姿を現した。

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