第49話「VS魔王 その3」

 バーサスは一通り傷の応急処置を済ませると、ドニーを手伝うべく、動物の救助を始めた。

 しかし、ドニーほどの求心力はなく、火や倒木から逃げ惑う動物たちはバーサスに助けを求めることなく、散り散りに走り去っていく。


「やはり、ドニーのようにはいかぬか。ならば、我は我の出来ることをしよう」


 バーサスは燃えている樹を見つけると、倒木する前にその樹を切り裂きバラバラにする。

 その際、剣圧で炎は消え去り、安全な木材として地面へ並ぶ。


「これで、少しはマシか」


 この作業を続けていると、ドニーが、ビニールの上からでも分かるほど嬉しそうな表情をしながら現れた。


「バーサス。ありがとう。助かった」


「ド、ドニーか?」


 バーサスがいぶかしむのも無理はなく、ドニーのビニールの顔以外、頭、肩、背中に足、両手に至るまで、保護された様々な種族の動物で溢れかえっていた。


 バーサスの働きにより、明確にセーフエリアが出来上がっており、この動物たちを避難させるのにうってつけの場所になっていた。

 ドニーは動物たちを降ろし、一息ついた。



 そこから数十分後、エリザベスとユキエが戻る。

 ユキエは明らかに落ち込んでおり、一方エリザベスは何かを考えているような小難しい顔をしていた。


「どうだった?」


 なんとなく予想はついたが、バーサスは尋ねた。


「アタシのおうちは全焼だった……。アタシが不在とはいえ、それなりのガードはしてあったはずなのに……」


 幾度となく壊される危機を乗り越えてきた呪いの家ではあったが、どうやら魔王の攻撃には耐えられなかったようであった。


「こっちは設備は辛うじて生きていたが、あの攻撃でデータは全て吹っ飛んでいたよ。証拠を残さない為にバックアップを取っていなかったことが裏目に出たね」


 どこか投げやりな感じのエリザベスを不審に思い、バーサスは再び問いかける。


「で、どうする?」


「そりゃあ!! もちろん――」


 ユキエが語気を強めて応えようとすると、まるで鈴の音のような清涼な笑い声によって中断される。


「ふっ、ふふっ。どうするかだって? どうするかと聞いたのかい? そんなの決まっているじゃあないか。あ、いや、すまない、私としたことが冷静さを欠いていたよ。どうするって、こういう事を聞きたかったんだろ?」


 エリザベスは、口角だけ上がった不気味な笑みを浮かべながら、饒舌多弁じょうぜつたべんに語りだす。


「斬殺、撲殺、絞殺、刺殺、欧殺、暗殺、毒殺、轢殺、爆殺、圧殺、焼殺、抉殺、溺殺、射殺、どれで殺すかって事だろ? ああ、もちろん、惨殺や鏖殺は大前提だ」


 エリザベスの言葉に、バーサスだけではなく、ユキエ、ドニーも唾を飲む。


「ところで、考えたんだが、普通、部下の不始末は上司の責任だよな? その社会の理論からいえば、魔王とやらも部下の責任を取るべきだと思うんだが、違うかい? もちろん、さっき私が実害はまだないと言ったのを忘れた訳ではない。その言葉は私が間違っていた。これは素直に謝ろう。で、どう思う?」


 エリザベスの圧に一瞬押されるが、すぐに、バーサスから返事を返していった。


「我は好敵手となるものがいるなら、戦う。それだけだ」


「アタシはエリザベスの意見に賛成よ! 大賛成!! だいたい、あいつらどんだけアタシのものを壊せば気が済むのよ!! 弁償したって許してあげないんだからね!!」


 ユキエは一番エリザベスの近くにいるのだが、特にひるんだ様子もなく、告げる。


 最後にドニーは周囲で怯える動物たちを見てから、ゆっくり答えた。


「動物、いじめた。責任、取らせる!」


 エリザベスの顔に張り付いた不気味な笑みから、不敵ないつもの表情になると、


「OK! それでは、魔王を殺そうか」


 こうして、魔王を殺すという共通の目的で4人の殺人鬼キラーが動き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る