第41話「VSゴブリン・チャンピオン」

 オーガ一行はゴブリン・チャンピオンを先頭に森の中を突き進んでいた。


 森の中では遮蔽物が多い為か、銃撃は止み、今は静かに歩を進めている。


「おい、チャンピオン。敵はいつ来るかわからん。充分注意しつつ、急いで進めよ」


 ロードは偉そうにそう指示を出す。


「ええっ、もちろん」


 そう言うもののチャンピオンはあまり警戒した様子もなく、落ち葉や枝があっても気にせずずんずんと踏みしめて行く。


 迂闊な動作にも見えるが、チャンピオンの後ろにいるオーガとロードは、別にチャンピオン自身がどうなろうと知ったことではなかったが、とばっちりを受ける心配だけをしており、2人は少しだけ先頭から距離を置いた。


 湖まで残り半分くらいの距離にまで達すると、次第に気持ちに緩みが生じ始めた。

 チャンピオンは周囲をあまり気にしなくなり、どんどん進む。

 それは後ろの2人が意図して距離を取らずとも自然に離れていってしまうくらいの速度であった。


 そんなとき、ヒュッ! と何か細いものが動いた気配がすると同時にチャンピオンの足に荒縄が巻きついたかと思うと、


「う、うおおぉぉぉぉ!!」


 足が引っ張られ、無理矢理逆さに吊られたチャンピオンは絶叫をあげる。

 そして、吊られた勢いのまま樹上へと連れ去られた。



「まさか、完璧にエリザベスが言ったコースになるとは……。我はあそこで迎撃してくると読んでいたのだが……」


 バーサスの若干沈んだ声がゴブリン・チャンピオンの耳へと届く。


「いや、バーサス、エリザベスに作戦立案とか心理戦とかでは勝てないと思うわよ。というか、アタシたちが勝てるようなら、とっくに死んでると思わない?」


 手に持つスマホから、ユキエの声が響く。


「それもそうだな」


 バーサスは納得の声をあげ、大きく頷いた。


「おいっ! テメーがさっき不意打ち食らわした野郎かっ! おれを吊り上げたからって勝った気になっ――」


 まだ言葉を話している途中だったのだが、バーサスの右手から伸びた刃が、無慈悲にチャンピオンの喉を貫く。


「グッガッガッ……」


 まだ絶命はしておらず、喉を押さえ、苦しそうにうめき声をあげる。


「ユキエ、また頼む」


 バーサスはゴブリン・チャンピオンの体を下へ向かって押すと同時に、スマホを向ける。


「了解! この縄を下へ、つつつぅ~~」


 ビデオカメラでの干渉により、足に巻きついたロープが勝手にゆっくりと下へ降りていく。


「ロープ一本で即席の罠が作れるとは、なかなかやるな」


 スマホでゴブリンを撮影するだけで、ユキエの呪いでロープを絡ませ、樹上へと引き吊り上げ、今、そのロープを降ろす作業までこなす働きにバーサスは素直に感嘆の声を漏らした。


「へへんっ。今頃アタシの凄さがわかったのね!」


 ユキエはすごく嬉しそうに破顔する。


「いや、凄さは認めていた。我が一番殺されたくない相手だ」


「そういえば、そんなこと言っていたわね」


 和やかな雰囲気に包まれる樹上の2人とは対照的に、下では戦慄に震えていた。



「ば、馬鹿な! チャンピオンが一撃で!」


 ゴブリン・ロードが恐れ戦いていると、うめき声が微かに聞こえることに気づく。


「ぅ、ぅぅ……」


「まだ生きているのか? 仕方ない。降ろしてやろう」


 ロードがロープを切ろうと近づくのを、オーガは腕を前に出し、制止する。


「待てっ」


「どうしましたオーガさま?」


 オーガはチャンピオンを見つめる。


「なぜ、トドメを刺さずに降ろした? 何かがオカシイ」


 その瞬間、チャンピオンの体に降ろすときに押し付けられていた爆弾が爆破した!


 轟音と熱風がオーガたちを襲う。


「こ、こいつら、ワシらが助けようとしたら、巻き添えに死ぬようにしていたのか!?」


 ロードは怒りなのか、恐怖なのか、フルフルと振るえながら叫んだ。


「オーガさま、先に行ってください。こいつらはワシが殺してやります!!」

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