第42話「VSゴブリン・ロード」
ゴブリン・ロードはオーガがその場から離れるのを見届けると、キッと樹上を睨んだ。
「ワシはオーガさまの部隊最強のゴブリン。ロードを冠したワシを他の者共と同じだと思うなよ! 喰らえっ、ファイヤーボール!」
王錫を振るうと魔法陣が生まれ、そこから火球が樹を襲う。
ガササッ!
火球が当たる前に何かが飛び出し、別の樹へと飛び移った。
「チッ。避けおったか」
ロードは何発も火球を放ち、周囲を燃やしていく。
そして、とうとう飛び移れる樹がなくなると、バーサスは地面へと降り立った。
「仲間を逃がし、自分は正々堂々、知略を巡らせて戦う、か、お前、なかなかいいな」
好敵手を見つけたバーサスはニタリと笑みを浮かべたが、
「でも、バーサスは
ユキエから掛けられた言葉を聞くと、とたんに不機嫌そうになり、ロードに対し、とぼとぼと背を向けて歩き出した。
「貴様、なんのつもりだ!?」
ロードが再び王錫を振るい火球を飛ばそうとしたそのとき、
ブブブッブブゥ~~。
虫の羽音のような音がすぐ隣で聞こえた。
ゆっくりとその音源を確かめると、小さな機械が羽根を羽ばたかせ飛んでいる。
「な、なんじゃ、これ?」
ロードが疑問を口にすると同時に、綺麗な声が不吉な擬音をロードの耳に届けた。
「ぼ~んっ!」
小さな機械、ドローンは爆ぜると、ロードの爆傷を負わせる。
「くっ、ううぅ」
周囲には煙が立ち込め、バーサスの姿はいつの間にか見えなくなっていた。
チクッ。
ロードは首筋に痛みを感じ咄嗟に手でおさえる。
そして火球を足元へ撃つと、自身にダメージはありながらも、その場から脱出し尚且つ煙も払いのけることに成功した。
「さっきのヤツか! この煙に乗じて、攻撃する魂胆だったようだが――」
しかし、ロードの目に映ったのは、先ほどのバケモノのような戦士ではなく、コートを羽織った美女だった。
周囲をきょろきょろと見回すが、バーサスの姿はなかった。
「たまたま、迷い込んだ人間か? えらく上玉だなぁ」
爆発で負った痛みも忘れ、舌舐めずりする。
「このキズじゃあ、先に行ったであろうヤツには追いつけまい。ここはオーガさまの祝勝の為に、女を捕まえておく方がいいのぉ」
あわよくば先に味見をしてしまおうと考え、一歩近づこうと、足を前に出そうとしたそのとき、急に天地がひっくり返り、いつの間にか地面へ倒れている。起き上がろうと思っても体が言う事を聞かず、全く動けなくなる。
美女、エリザベスはロードの頭を踏みしめると、心底楽しそうな笑みを見せた。
「やぁ、異世界のモンスターもやはり心臓で血液を送っているようで安心したよ」
「き、貴様、何を……」
「いや、なに、ちょっとした好奇心から酸素を入れてみただけさ。人間は一定量の酸素が血液内に入ると、心臓に到達し血流を塞ぐんだ。その結果、体に血が行き渡らなくなり死ぬんだけど、そっちも同じかな~って。いままで死体しかなかったから、初めて生きているモンスターに試せたよ」
「さ、酸素?」
「ああ、息をするときに空気を体に取り入れるだろ、それさ。まぁ厳密には窒素とか二酸化炭素とか色々混ざっているんだが、説明しても分からないし、死ぬから無駄だろ?」
エリザベスは肩を竦めてみせる。
「本当は他にもいろいろ薬はあったんだが、まったくコストも掛からないし簡単に手に入るもので殺された方が、より屈辱的だろ?」
「こ、この、バケ、モノ……」
エリザベスは悔しそうに最後の言葉を述べるゴブリン・ロードをじっくりと笑顔で観察し、ロードが息を引き取ると、興味を失ったのか真顔に戻る。
「さてと、これで邪魔な奴らを一人一殺で排除してあげた訳だ。あとは楽しんで殺してくるといいさ」
エリザベスは体についた土埃を払いながら、呟いた。
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