第39話「VSゴブリン その2」
「ダメだ。思いつかないっ!」
エリザベスはブロンドの髪を掻き乱しながら、珍しく弱音を吐く。
「くっ、私ともあろうものが、真っ当で、合理的で、効率的で、皆が安全な策しか思いつかないなんてっ!!」
心底悔しそうに歯噛みするのだが、他のメンバーからは、
「それでいい」
「いや、むしろそれでいいじゃん。なんでわざわざ陥れようとするのよ!」
「大丈夫。エリザベス。スゴイ」
概ね肯定的に取られたのが、さらにエリザベスの悔しさを掻き立てた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ! それじゃあ、私が楽しくないだろっ!!」
堂々と宣言する姿にいっそ敬意すら覚える。
「ちゃんとした作戦なら、あとで借りは返す」
バーサスの言葉で、仕方なく、貸しを1つ作れるならと、エリザベスはしぶしぶ作戦を説明する。
※
「まずはドニー。出来るだけ目立ちながらゴブリンを集めて来てくれ」
エリザベスの指示に従い、ドニーは森の中を歌いながら歩いていた。
その歌声は澄んだ河のせせらぎのように美しく。本来ならその美声に酔いしれた動物たちが集まる。
しかし、今集まるのは異世界からの醜悪なモンスター、ゴブリンだけであった。
ドニーの歌につられ、集まったゴブリンは、歌声の主が敵だと判断すると、各々の武器でもって襲い掛かった。
武器は鈍い音を立てて、ドニーへとめり込むが、当のドニーはさして気にした様子もなく、襲ってきたゴブリンを殴り殺す。
そして、また歌を唄いながら、歩く。
ドニーの通った道にはまるで道標のようにゴブリンの死体が並んでいった。
※
「ユキエはゴブリンが、ここに集まったら、起爆スイッチを押して、一気に爆破させてくれ」
エリザベスはそういうと、2~3mくらいの高さの崖の下に爆弾を仕掛け、その近くの樹へとユキエ入りのスマホを括りつけた。
「なるほど。アタシの能力で、最大限集まったタイミングを見極めて、スマホを操作して爆破させればいい訳ね。うん、すごくマトモ過ぎて、逆に不安しかないわね……」
ユキエは恐る恐るといった様子だったが、せっせと準備するエリザベスの覇気のない表情に、「あっ。これ、まじに真っ当な策しか思いつかなかったやつだ」と思い、安堵の息を漏らした。
※
「さて、そろそろ、ドニーが戻ってくるころかな」
エリザベスは崖の上から、ドニーの動向を予測しつつ呟いた。
その予想通り、ドニーはしばらくすると崖下へと現れる。
「予想通り、後ろにたくさんゴブリンを連れているね」
死体が道標となり、歌が犯人をつまびらかにする。
仲間の仇か、それとも命令か、はたまた何か別の理由かはともかく、ゴブリンはドニーを追って来ていた。
ドニーが約束の場所まで来ると、エリザベスはニタリと笑みを浮かべた。
なんの狙いがあってか、ドニーとの約束の場所は、先ほど、爆弾を仕掛けた崖下であり、そこでうろうろするドニーと後ろのゴブリンたちを見ながらエリザベスは呟いた。
「さて、逃げるか」
エリザベスはドニーやゴブリンから、逃げ出す為、くるりと180度回転し、走り出した。
次の瞬間、後ろから爆音が轟き、熱風がエリザベスの背中を押す。
「ふぅ、ドニーを囮にしてのおびき寄せは上手くいったみたいだ。とりあえず第一段階はクリアかな。お疲れ、ドニー」
その言葉と視線は、斜め後ろに注がれる。
「ありがと。でも、疲れてない。余裕」
「いやいや、逃げる相手の場所までワープするのは常人には不可能だからね。ドニーあってこその作戦さ。労いの言葉の1つや2つは当然だよ。さて、あとはバーサスの出番だね」
※
バーサスはプスプスと黒い煙をあげる、大量のゴブリンの死体を崖の上から見下ろしていた。
大音量の爆発音、居場所を知らせる狼煙のような黒煙。
それだけのものがあれば、何が起こったか確かめに来るだろう。
実際、ゴブリンたちも、好奇心からか、200~300匹程それを見に押し寄せた。
「今のところ完全にエリザベスの読み通りだな」
バーサスはほぼゴブリンが集まったことをユキエから通信で受け、知ると、小型の爆弾を1つ投げた。
急に物が飛んできて、何事かと上をゴブリンが向いたとき、爆発が起き、10匹程が肉塊となり、宙を舞う。
上に敵がいる。そして今、自分たちが襲われていると認識したゴブリンたちはバーサスを殺す為、崖へとへばりつく。
「愚かな。それじゃあ絶好の的だ」
バーサスは2丁のライフルを構えると、その引き金を引いた。
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