バーサスVS

第38話「VSゴブリン その1」

 バーサスは新装備にご機嫌になりながら、ドニーと共に抜け道を通り抜ける。

 出口は夕日に照らされ、血のように赤く染まっている。

 そこに1つの影が落ちた。


「やぁ、バーサス。そっちも無事片付いたようだね」


 エリザベスは夕日の赤を背負い、臙脂えんじ色のコートを風にたなびかせる。


 バーサスは汚れ1つないエリザベスの姿に、感心半分、残念な気持ち半分な複雑な面持ちになった。


「お前を殺せる相手は、この地球上にはいないかもしれないな」


 その言葉を聞いたエリザベスは肩をすくめ、


「その言葉は、ここにいる私以外全員に当てはまると思うけどね」


 皮肉めいた調子で言う。


 バーサスは一瞬考えてから、確かにユキエもドニーも殺せる相手が想像できなかった。しかし、こと自分のことに関しては、すぐに殺せるであろう相手の顔が浮かんだ。


(ふっ、我はあのカップルに殺されそうだからな。やはり、こいつらとは決定的に違うだろう)


 自分は生物としてまともだと認識し、エリザベスたちと合流した。



「次は我の番だな」


 バーサスは3人を見回しながら宣言した。


「そうだね。次はゴブリンだったかな。是非、手伝わせてもらうよ」


 エリザベスの意外な発言に、バーサスは目を見開いて、聞き返した。


「我はてっきり、自分の復讐が終ったら、お前は去るものだと思っていたが、本当に手伝うのか?」


 エリザベスは心外とばかりに、眉を寄せる。


「キミは私のことをなんだと思っているんだい? やられたら倍以上にしてやり返すが、恩もちゃんと返す主義だぜ」


 すごくまともな事を言っているのだが、エリザベスがまともな事を言うという異常事態にバーサスは警戒心を最大にした。


「どんな裏がある?」


「その問いは必要かい? 私にどんな思惑があるとはいえ、戦力が増えるのは歓迎のはずだ。確かに、私はキミを陥れるかもしれないが、モンスター側につく事は絶対にない。キミをたばかるときは、100%私利私欲の為だと誓おう」


 エリザベスは裏切るかもしれないが、裏切り方にも信念があると、暗に述べていた。


「わかった。信用しよう。もうしばらくだが、よろしく頼む」


「ふふっ。良き戦いの為にそういう風に割り切るところは、やはり好感が持てるな」


 エリザベスは不敵な笑みを浮かべ、バーサスを褒める。


「他の者は? ここからは我の戦いだ。協力は助かるが、無理強いはしない」


 その問い掛けに、ドニーは拳を突き出し、協力の意を示し、ユキエはエリザベスを見ながら、逃げられないことを悟り、「アタシも協力するわ」と返した。


「助かる。では、ゴブリン共を駆逐するとしよう」



 バーサスたちは来た道を戻り、森の中へと突入する。

 太陽は姿を隠し始め、うっすらとした明かりのみになる。


「ギギッ! ギギッ!」


 ゴブリンは棍棒や石斧を持ち、目的もなく、歩き回っていた。


「数、多い」


 ドニーの呟き通り、ゴブリンの数は今までのウルフや植物系モンスターの比ではなく、ゾンビよりもさらに多い。


「流石、増殖に定評のあるモンスターだな。そのうち、子宝の縁起物にゴブリンが入ってきても私は驚かないね」


「こいつらを倒さねば、こいつらを率いている者と戦うのは困難だ。エリザベス、お前ならどうする?」


 バーサスはエリザベスに策を求める。


「そうだな。私に1つ、良い作戦があるぞ。ゴブリンとは女と見れば襲う習性がある。そこで、ユキエがビデオでストリップショーを見せれば、動画を全て見せることも容易に行え、皆殺せるぞ」


「ふむ、いいかもしれんな」


 真剣に考える2人に、否定の声が浴びせかけられる。


「ちょっ! 絶対、イヤよ! だいたいその策なら、アタシがエリザベスを撮ってあげるから、それを呪いのビデオにすればいいじゃない!!」


「なるほど。確かにその方法でも同じ効果が見込めるな。良し、この作戦は却下だ」


 エリザベスは新たな作戦を考えようとすると、


「ちょっと。なんで却下するのよ! 自分の身が危険に晒されたから!?」


 エリザベスは不思議なものを見るような、ポカンとした表情を浮かべる。


「何を言っているんだ? ユキエが先にイヤがったのだろう? そんなにやりたければ、ユキエがやってもいいが……」


「あっ。ごめん。そういうつもりで言ったんじゃなくて……、って絶対エリザベス分かって言っているでしょ。ぐぅう~~」


 絶対に安全圏から、相手を陥れるエリザベスの方法に、これ以上文句を言えるはずもなく、行き場のない怒りを抱え、呻き声をあげることしかユキエには出来なかった。


「さて、冗談はここまでにして、本格的にこの大軍を一掃する方法を考えないとね」


 エリザベスは、目を閉じ、考えを巡らせた。

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