エリザベスVS

第23話「VSゾンビ その1」

「で、最近はビデオもおどろおどろしい描写だけだと最後まで見てもらえない訳よ! だからアタシも色々創意工夫して、見て貰える努力をしているのよ。それなのに頭の固い老人たちは昔っからのやり方に固執する訳! アタシも詳しくないけど、ユーチューブとかっていうのが蔓延はびこっている訳だしもう少しやり方を――」


 ユキエがエリザベスに熱く『呪い論』を語っていると、森の方から人影が現れる。

 エリザベスは森の中から向かってくるその人影を見て、戦いが終ったのだと理解した。


「やぁ、バーサス、お疲れ。その様子だと無事に勝ったようだね」


 バーサスは曖昧に首をかしげた。


「ドニーが追いかけていったから、たぶん大丈夫だと思うが、我が知っている情報だけでは完全勝利とは言えない」


「ふむ。キミが追いつけないほど遠距離からの襲撃だったのか。それならもう少しドニーが戻ってくるのは時間がかかるかな」


 エリザベスは優雅に足を組み直す。

 

「お前は、ドニーのあの能力を知っているようだが、いったい、どういう力だ?」


 エリザベスはやれやれといった風に肩をすくめ、「時間もあることだし説明してあげよう」と前置きしてから、語り出した。


「ドニーの能力は簡単に言えば、瞬間移動と透過だろうね」


「えー。瞬間移動と透過なら、ガンガン使ってれば、そもそもファンガスに負けないんじゃない?」


 会話の内容が分かってきたユキエが率直な感想を述べる。


「それが、能力には制限があって、逃げてる相手しか追えないそうだ」


「何それ、めっちゃホラー!!」


 悪霊という最大のホラーがそう述べるのを尻目にバーサスはある程度得心がいっていた。


「なるほど。それで、ドライアドが逃げていると伝えろと言った訳か」


「ああ、逃げている相手を追っている間は、相手の近くに瞬間移動できるし、物体がドニーに触れることもなくなる。前に一回私のスマホを実験で持たせた時は見事にポケットからすり落ちたから、自分のものしか範囲にならないのだろう」


 その言葉を聞いて、ユキエは、スマホを持ってもらうならバーサスよりはドニーの方が大切に持ってくれるだろうという考えを改めた。


「って、アタシ、もし付いていったら、落とされること確定だった!?」


「だから、足手まといだと言っただろ」


 エリザベスは何度も言わせるなよ。というニュアンスを含ませていた。


「ついでに、ドニーはこの力の事を気に入っているらしいぞ」


「意外だな」

「意外ね」


 2人ともに同じ感想を抱く。


「なんでも逃げている獣をすぐに人間から助けられると言っていたな」


 その理由を聞いて、2人はこれまた同じく『納得』という感想を抱いた。


「おっ、そうこうしている内に噂の人物の帰還だ」


 エリザベスの視線の先には、2つの死体をずりずりと運んでくるドニーの姿が映った。



「敵、倒した。証拠」


 ドニーは持ちやすいように枝葉をそぎ落とし丸太のようになったドライアドを放り投げる。


「それと、これも襲ってきた」


 それは欠損の激しい人間に見えた。


「これってドニーがこうしたの。やるわね!」


 ユキエは驚嘆の声をあげるが、ドニーは静かに首を横に振った。


「はじめから」


「これはゾンビだね」


 その死体を見たエリザベスはニタリと悪魔のような笑みを浮かべた。

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