第15話「VSファンガス その1」

 エリザベスはツタで巻かれたドニーを見ると、1つ、バーサスへと尋ねた。


「ところで、これは本当にドニーかい? 間違って敵を連れて来たなんて笑えないからねぇ」


「……。大丈夫だ。心臓を刺して確認した」


 バーサスは本当のことを言うか悩んだ後、意を決して、真実を述べた。


「ぷはっ!! 本当にその方法で試すなんてね。さすがバーサスだ。私の期待を裏切らない」


 クツクツと笑い、いつまで経っても話が進まないエリザベスに、バーサスは苛立ちながらも極めて冷静に声を放つ。


「こいつは不死身のはずなのに、動かない。どうしてだ?」


 バーサスの問いにエリザベスは真面目な顔に戻り、吟味するようにドニーを眺める。


「ふむ。この状態じゃ、さっぱりわからん。とりあえずバーサス、ツタを取ってくれ」


 言われるがままにツタを千切り取っていくと、


「こいつは……」


 それは一目で動けない原因を示していた。

 

「これはキノコかな。とにかく菌類だ」


 ドニーの体のいたるところに胞子が付着し、まいたけのようなキノコがビッシリと生えている。

 エリザベスはバッグからピンセットと小瓶を取り出し、採取する。


「この世界でも、動物に寄生するキノコはいるが、それと同じような性質と見ていいかもしれないね」


 採取したキノコを観察し、そう言いながら、エリザベスは距離を取る。


「なぜ、離れる?」


「おいおい、私をキミら怪物と一緒にしないでくれ、私はこんなか弱い乙女なんだぞ、そんな菌類がうつったら一発で死ぬに決まっているだろう」


「…………お前なら、なんとかしそうだが」


 それに、殺しても死ななそう。という言葉までは口に出さず、ぐっと堪えた。


「時間があれば大丈夫かもしれないが、すぐにこうなったらいかに、殺しても死ななそうな私でも無理だね」


 思っていたことを言い当てられてバツの悪くなったバーサスは、おもわず視線を逸らし、キノコを注視する。


「こいつはしばらく使い物にならんということか」


 バーサスが呟くと、「いや、それはどうかな?」とエリザベスから否定の声が上がる。


「バーサス、そこの湖に浮かぶ容器を拾ってくれ。あ、それと、それね」


 エリザベスはプラの容器と、2ℓのペットボトルの容器を湖から引き上げるよう指示を出す。


 バーサスは自分で取ればいいのにと思いながらも表情には出さずに、大人しく拾い上げた。


「これでいいのか?」


「そうそう。まったく、こんなキレイな湖にゴミを捨てて行くなんて、罰当たりな奴等だ。まぁ、そのおかげで武器が手に入った訳だが」


 拾ったプラの容器には中身がまだ半分以上も残っており、エリザベスは軽く振って中身を確認する。


「BBQの食器でも洗ったのか? 紙皿を使わないのはエコかもしれないが、洗剤を捨てていったら何にもならんだろ」


 誰へ言うでもなくツッコミを入れながら、ペットボトルに水と洗剤を入れる。


「キノコは石鹸水で枯れるんだが、普通ならそこまで早くは枯れないはずだが、このキノコ一日でここまで成長したことになる。成長が早いということは栄養を取り込むのも早いということ。逆に栄養以外の毒だって取り込むのは早くなるはずだね」


 エリザベスは石鹸水を遠慮なくドニーにぶちまける。

 さらに足り無そうなので、おかわりも何度か行う。


「さて、これで様子を見てみるかな。ダメなら後は燃やすかついた箇所を切除するかだな」


 不死身ゆえの物騒な対処を口にしながら、しばしの時間経過待っていると、少しずつキノコは萎れていき、反対にドニーの体が厚みを得ていくように見えた。


「ふむ。どうやら成功のようだ」


 エリザベスの声と同時に、巨漢の怪物はガッと立ち上がり復活を果たしたのだった。

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