第14話「VS植物モンスター その3」

 徐々に迫る大軍を目にすると、ユキエは慌てふためき、叫ぶ。


「ちょっ、これ、まずいわよ! さっさと逃げるわよ!! ほら、早く!」


「まだだ。こいつを連れて行く」


「ええっ! そんな、仲間かどうかもわからないし、とりあえずアタシたちが逃げるのが優先じゃないッ!?」


 バーサスは一瞬いやな表情を浮かべるてから、諦めたように目を伏せてから、手を動かした。


 ザクッ!!


 バーサスの手にあるバールがツタ男の心臓の位置へ突き刺さる。


「ええっ! なにしてんのッ!?」


 バーサスの突然の奇行に驚きの声を上げた。


「生きてるか?」


「え、ええ、そういえば生きてる、わね」


「なら、ドニーだろう」


 バーサスはエリザベスの言った通り、心臓を突き刺してしまった事に若干の敗北感を覚えながらも、ドニーに繋がるツタを切り裂く。

 そして、ドニーの腕が隠している樹を確認すると、そこには一匹の子リスが横たわる。


「何かを守るように見えたが、これか……」


 素早く生死を確認し、生きているのを確かめると、雑に掴んで、ドニーの上に乗せる。


「良し。一時撤退だ」


 バーサスはバールを捨て、両手を開けると、ツタに巻かれたドニーを抱える。


「ぐぐぐっ」


 重量に思わず声が漏れるが、しっかりと抱え上げ、走り出す。


「バーサス、頑張って! あんたが捕まったらアタシまで道連れなんだから、ドニーを捨ててでも、逃げ切りなさいよ!!」


 怪物たちが子リスを守るなか、元人間のユキエは血も涙もない台詞を発した。



 バーサスたちは植物の大軍から完全には補足されていないようで、現場から離れてすぐに隠れてやり過ごす。


「なんとか、逃げ切れそうだな。エリザベスの元へ戻ろう」


 ユキエへ告げ、隠れながら移動していたのだが、


 ピシッ!!


 バーサスの足へとツタのムチが襲った。


「ッ!?」


 バーサスの脛当てが代わりに砕けた為、足は無事だったが、なぜか位置がバレていた。


「見つかった!? そんな、なんで!?」


「ユキエ、落ち着け、敵は1体だけか?」


 バーサスが見る限りでは1体だけだったが、ユキエには続々とここに集まってくるモンスターたちが見えた。


「仕方ない。誰か一人が犠牲になるしかないな」


「そうね。ドニーか、そこのリスでいいんじゃない?」


「いや、こいつらは連れて行く」


「…………えっ?」


 そうなると必然として、ユキエが犠牲になるしかないのは明白だった。


「ちょっ! イヤよ! アタシ、こんな知性の欠片もない植物たちに囲まれるなんてイヤよ!! ちょっと、バーサス、さっき、守ってくれるって言っていたじゃない! あれはウソだったのね!! ヒドイ! この嘘吐き! 女泣かせの外道!!」


 ユキエが恨みつらみを吐き出すと、


「いや、お前でもない。もう一人いるだろ。ずっと楽してるんだ。少しくらい働いてもらう」


 そう言うと、カニバル・フラワーを無視し、走り出す。

 その足取りは隠れて進もうというものは一切なく、どんどん後ろに気配が増えていく。

 ドニーという巨体を抱えながらでも全力で走るバーサスに植物モンスターたちはギリギリで追いつくことが出来ないでいた。


 そのまま走り続けると、森を抜け、湖畔が目の前に広がる。


「エリザベス。あとは任せた!」


 バーサスの背後には5体のカニバル・フラワーが追走しており、それがそのままエリザベスを襲う。


「おいおい。か弱い女性にこんな怪物を押し付けるとか正気かい? キミ、そのうち女泣かせの外道とか呼ばれるぞ」


 つい先ほどユキエ言われていたのをまるで聞いていたかのように、軽口を叩くと、エリザベスはさっとバッグに手を入れるとすぐに、黒い小型の物体を取り出した。


 それは小さな火を5回吐き、瞬く間に5体のカニバル・フラワーを吹き飛ばした。


 朝日に照らされ、怪しく煌くそれは、『ベレッタ・ナノ』女性でも取り扱い易い拳銃であった。


「まぁ、目的は全て果たしたようだし、外道は許してあげよう」


 ニタリとした笑みを浮かべ、エリザベスはバーサスが担ぐ物体を見つめた。

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