第6話「VSシルバーウルフ その2」

「さて、無事にこの呪われた別荘に辿り着いた訳だが。ユキエはどこかな?」


 エリザベスはウルフを引きずりながら、室内を捜索する。


「呪われた?」


「ああ、何、心配することはないさ。ここにいるユキエが悪霊と言われている存在で、出会った人はかなりの高確率で死んでるだけだから」


「そうか。それなら問題ないな」


「いやいやいや、問題あるでしょ!! なぜか呪いとか平気なエリザベスがオカシイだけだから!! 普通なら死んでるはずなのよ!!」


 床に転がっている携帯電話から、突然女性の声が流れる。


「ああ、そこにいたのか。だが、どうして携帯に?」


「それがね! ちょっと聞いてよ!!」


 携帯電話からにゅるんと白いワンピース姿に黒髪の女性、ユキエが現れる。

 

 ユキエは携帯を持つとそれをエリザベスに突きつける。


「見てよこれ!」


 そこには矢で射抜かれ、ぽっかりと穴の開いた携帯があった。


「ずいぶん、しっかり壊されたね」


「でしょう!! 今までも怖がられて、投げ捨てられたり、叩き折られたりはあったけど、矢で射抜かれたのは初めてよ!! 電話はすぐに直してできるようにしたけど、ディスプレイが穴開いて、誰から掛かってきたかも、電話帳も使えなくて超不便なのよ!」


「ああ、あの折っても電話がずっとなるのはユキエが直していたのか。なかなか手先が器用なんだな」


「そんな、褒められてもうれしくないんだからね!」


 存外、ユキエは嬉しそうに体をくねらせる。


 そんな様子を冷めた目で眺めるバーサスは、そんなやりとりの間に周囲に殺意を持った気配が増えていく。


(仲間を取り戻しにきたのか? 戦力的に我だけではキビしいかもしれないな。果たしてこの女は使えるのか?)

 

 バーサスは悪霊のユキエを値踏みするように見ていると、彼女らの話題はようやく本題に入ったようだった。


「で、エリザベス。そこの人……、人でいいのかな? は、誰?」


「ああ、そういえばお互い紹介がまだだったな。じゃ、簡単に私が説明しよう」


 エリザベスはまずユキエを指さすと、


「まず、こっちの白のワンピースが劇的に似合う女性がユキエだ。彼女は死んで悪霊になったことで、相手を呪う力を手にいれている。呪うのに条件があるが、その界隈ではトップクラスの呪いらしいぞ。まぁ、私には効かなかったがね!」


 エリザベスは無駄に誇らしげにユキエを紹介したあと、今度はバーサスの説明を始める。


「で、こっちの異星人か改造人間か突然変異にしか見えない異形はバーサス。詳しいところは知らないし教えてくれないが、武器の扱いにおいては右に出るものはいない! 身体能力も高いから、矛としても盾としても活躍してくれるな」


 エリザベスの盾になる気は毛頭ないのだが、バーサスは細かいことは気にせず、そのまま流した。


 バーサスとユキエはお互い視線をあわせ、それぞれの思いが錯綜する。


(呪いでもなんでも、戦力になるのなら是非もないな。あと――)


(えぇ!? これって完全に未確認生物よね! こんなん友達にいたら絶対SNSで有名になれるじゃない! しかも一緒にあいつら倒してくれるとかプラスしかないわね! あと――)


((エリザベスと1対1じゃないのはでかい!!))


 しばしの無言のあと、2人は固く頷いた。


「だが、肝心のその武器がない。ここには何か武器になりそうなものはあるのか?」


「あっ、なぜかそこの首吊り死体の男が護身用にバールを持ってきていたけど、武器になる?」


 バーサスはなぜバールが護身用になるのか理解出来なかったが、エリザベスは得心いったように頷いているのだから、そういった界隈では護身用なのだろうと無理矢理納得しバールを受け取ると、まじまじと眺め、木の棒よりは数段マシだと思い、そのまま収める。


「で、エリザベス。囲まれているが、策はあるんだろうな?」


「え、えぇ! 囲まれてるの!! いつのまに!?」


 ユキエはオロオロと周囲を歩きまわる。


「ふふっ、もちろん、あるに決まっているさ。まずはとりあえず、人質を使ってみよう! さぁ、ユキエ可愛がってやれ!!」


「あぁ、アタシ、エリザベスのそういうところ好きじゃないのよね。アタシがめちゃくちゃ動物に嫌われるの知っているくせに……。まぁ、モフモフは触りたいから可愛がるけどさぁ」


 そう言いつつ、ユキエがシルバーウルフの頭を優しく撫でると、


「ッ!? ギャウン!! ギャウン!! クゥ~ン!!」


 傍から見ても可哀相なほど怯えている。


「いやいや、そんな怯えなくていいから! 大丈夫よ~! お~、よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」


 まるで動物王国の主のように可愛がるが、完全に逆効果で、叫び声と涙まで流す始末だった。


 バーサスは狂気のよしよしに目を背け、同情の念だけ密かにウルフに送った。

 

 あまりに追い詰められすぎて、ウルフはユキエに噛み付くが、幽霊ゆえ、その牙が届くことなくすり抜ける。


「くっ! 肉体されあれば、噛まれても敵意を見せず、落ち着かせることで信頼を得ることが出来たかもしれないのにッ! 死んでいるこの姿が憎い!」


 そして、絶望しきったウルフはとうとう、怯えも敵意も見せなくなり、死んだ目で、ユキエの撫で撫でを受け入れる。


「おおっ! 自害しなかったぞ! 珍しい! 良かったなユキエ! さて、これでどう出るかな?」


 エリザベスは興味深々の様子で、外の様子を伺う。


「むぅ、特に動きなしか。意外に統率が取れているな。やはり弓を放った司令塔を潰さないとダメか」


 ぶつぶつと呟きながらもその顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。


「良し! じゃあ、次はこの作戦でいこう!」

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