第7話「VSシルバーウルフ その3」
バーサスは薄暗い森の中、ウルフたちの攻撃を捌きながら疾駆していた。
「いいぞ。バーサス。次は右前方から待ち伏せだ」
まるでチェスでも楽しむかのように、溌剌としたエリザベスの声がバーサスの左手に握られる携帯電話から漏れる。
バーサスは指示を聞いて、方向を変えつつ、肩のビデオカメラに視線を向ける。
「なぜ、こんなことに……」
エリザベスより出された作戦の内容をバーサスは反芻する。
※
「さて、次の作戦だ。まず、この弓の主だが、これまでの傾向から言えば、エルフと言われる種族だろう」
「あっ、そうそう。アタシが見たのも、褐色のエルフって感じだったわ。あれはたぶん、ダークエルフね!」
「エルフ?」
一人だけピンとこないバーサスは首を捻った。
「まぁ、人間離れしたイケメン弓使いだと思って差し支えないね。さて、話を戻すと、そいつがウルフたちを指揮していると考えられる。それを殺すのが目的だが、弓使いに今の私たちの装備では分が悪い」
その意見にバーサスも同意見な為、頷いてみせる。
「そこで、ユキエの力だ。彼女は携帯電話で呪い殺すことができる。ただし相手が出てくれればだ。だが、相手は携帯電話自体知らない可能性が高い。つまり、まずはその有用性を見せる必要があるわけだ。という訳で、指示を携帯で送るから、バーサスはちょっと見せしめに行って来てくれたまえ」
「我がウルフに襲われる可能性は?」
「え? キミ、あれくらいの相手なら100匹くらい余裕だろ?」
バーサスは作戦の雑さに顔をしかめるが、すぐにこの女はそんな作戦は立てないと思いなおし、話の続きを促すように顎を上げる。
「もちろん、冗談だよ。冗談。実はユキエには超有能な索敵能力もあってね。ビデオカメラで取っているところなら、死角も見ることができるんだよ」
試しにエリザベスは窓の外の風景を撮影する。
ビデオカメラのディスプレイには見たままの木々が多く、死角がいくつもある風景が映し出されている。
バーサスがなんの変哲もないと思っていると、画面の中で白い何かがチラついた。
「これは……」
とある木の後ろから、白いワンピースの女性がうっすらとこちらを覗く。
バッと顔を上げて窓の外を見るが、その様な女性は見えない。
そして、携帯に着信が掛かる。
バーサスは一瞬、僅かに驚き、携帯電話に向かって構えるが、エリザベスは事も無げに電話に出る。
――やっほ~。どう見えてる? 聞こえてる?
「ああ、良好だ。ところで、ここから死角になるところに何かバーサスに信じてもらえるような目印はあるかい?」
――そうねぇ、あっ、この釘で刺されている藁人形なんかいいかな!
※
そして現在、肩にビデオカメラを取り付け、携帯電話をバールを持って走ることになっていた。
「確かに、どこに潜んでいるのか分かるのはありがたい。思った以上にユキエは有用だな」
エリザベスが映像確認と連絡を一手に引き受け、ユキエ、バーサスにそれぞれ指示を出すことによって、もはや、完全に待ち伏せを封じられたウルフたち。
1対1ではまず勝てないバーサス相手の唯一の勝ち筋の集団で襲うことも出来ず、どこにいるのかも分からなくなったバーサスをシルバーウルフが倒すのは絶望的となっていた。そんなとき――。
「ッ!?」
なんの気配も感じることなく飛んで来た弓矢をバーサスは目視と同時に動き、ギリギリでバールで弾くことができた。
「ほぉ、なかなかの腕だ」
バーサスは続けざまに降り注ぐ矢をかわしながら、手に持つ携帯電話をあえて落とす。
さらに、矢をギリギリで避けたように装い、肩のビデオカメラもその場に残してきた。
(これであとは逃げ帰ったように見せればいいな)
バーサスは矢の雨に耐え切れず、逃げたように見せかけながらその場を去った。
1つ重要なことを忘れて。
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