あなたを知らない私

Mr.Arann

第1話 出会い

私は…あなたのことを知りたい…

        それだけだったのに…


    【あなたを知らない私】


ある冬の遅い時間…雪こそ降ってはいないが日も沈み星もきれいに見える時間帯、駅のベンチに私は本を読んで座っていた。手袋もしないで手はかじかんでいて真っ赤だったそれでもその本を読み続けていた…

―きっかけは、小学三年のころ学校に読書の時間というのができた時だった。本なんて特に興味はなかった。しかし読み始めたら止まることはなく自分の世界に入り込んでいた。そのとき私は“読書”というものにはまった…

 そんなこんなでなぜか駅のベンチで読書をしている私は水上葵。去年から高校に通っている高校二年生だ。なぜこんな時間にこんな場所で本を読んでいるかというと、親が喧嘩をして静かに本を読める場所を探していたところ良いところがここしかなかったためである。

 「ガタン・ゴトン」

と次の電車が来たようなのでちらりとそちらを見た。時間帯的にも降りてくるほとんどの人が社会人ばかりであった。しかし、そのなかに一人だけ学生がいた。

私はその人を知っていた。柄野彰、同じ学校に通うクラスは違うが“有名人”だ。有名人といっても良い意味ではない。いつもクラスでは一人ずっと読書をしている、友達というものいないのかはわからないがすっと一人、そういう意味での有名人だ。

 私は、その面識も何もない興味すらない彼のことを目で追うことすらなかった、すぐに読書に戻ると、スマホが鳴った。親からだった

 『喧嘩は仲直りして終わったから帰ってきてね』

いつもより長かったなと思いながら『わかった』とだけ返信し本を閉じようとしたその刹那だった。目の前に彼がいたのに気づいたのは…

 彼とはさっき言っていた柄野彰だった。駅の沈黙の中彼はじっと私のほうを見ていた…

 「何か用ですか?」

と私は初めて出会ったその彼に言った。しかし返事は帰ってくることはなく私は少し困惑してしまった。返事がなかったのでもう一度声をかけようと、

 「あn…」

そこで言葉は遮られた、彼が発言したためである。

 「小説」

 「え?」

急に放った彼の言葉はさらに私を困惑させた…この人ちゃんと私のこと認識しているのかさえ疑問に思った私に追い打ちをかけるように彼は言った。

 「その小説、俺だから…書いたの…俺だから」

と小さな声で言った彼は、その言葉を言ってすぐに駅の改札のほうへ行き姿を消してしまった…

 一人残された私はその場で立ち尽くしていた。彼の言った謎の言動その中で最後に言った言葉になぜか心を打たれていたのだ

「あの小説を書いたのが…柄野彰…」

その場でぼーっと立っていた彼女の姿は初恋に似た、だけど少し違う何か…

                      一話 完

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