夕焼けの夢

星 霄華

序章

 万雷の拍手って、こういうのを言うんだろうな。


 熱に浮かされて自分も力いっぱい拍手しながら、頭のどこかの冷静な部分で私はそう思った。

 音を響かせることを何よりも重視して設計された、完成して間もない劇場の大ホール。その数千の客席から、惜しみなく音が鳴り響いていた。客席こそが楽器であり、オーケストラであるかのように。


 拍手を向けられてるのは、スポットライトが細部までを照らし出す舞台にいる、ベルリンのオーケストラの団員たちと指揮者。そして彼らからも拍手を贈られている、一人のピアニストだ。

 背が高く、体格がよく、ピアニスト向きの身体だといつ見ても思う。手が大きいし、背丈のぶん腕も長いもの。鍵盤に指を届かせやすい。その気になれば、さっきのよりもっと速い曲だって難なく弾くことができるに違いない。

 そんな体格の上に乗る、無駄に整った顔は男らしく、自信と達成感に満ちている。演奏し終えたばかりだから、当然だけど。仮にこの満員の聴衆の誰一人として拍手をしていなかったとしても、彼は誇りをもって堂々と聴衆に頭を下げると思う。

 本当に、頭のてっぺんから足の爪先まで一流の演奏家だ。奏でることを無上の喜びとする、音楽家という種の中でも稀有な生き物。


 舞台袖に一度引っ込んだ彼は、鳴りやまない拍手に引きずり出されるように再び舞台に現れた。拍手は一層大きくなり、団員たちも暖かく彼を迎える。


「――――では、アンコールにお応えして、僕が得意な曲を」


 そう前置きして、彼は椅子に座る。拍手は止み、誰もが約束された至福の時を待つ。


 そして、ピアノは再び奏でられる。美しい旋律がホール中に響きわたり、聴衆を包み込んで曲の世界へ引き込む。酔わせる。


 ああ、本当にすごい。姿を現すだけ、奏でるだけで人をこんなにも夢中にさせるんだから。私にとっては、一流の芸能人やアスリートにだってひけをとらない。


 さすが私の――――――――

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