第27話 どたばたお掃除


埃っぽい部屋を手にかけること10分。

作業は完全に難航していた。無理もない、分別不可能なものがいろいろとあるんだから。

古のエロ本なんて可愛いもんだ。まとめて焼却するかお持ち帰りするかどちらかで済むが、何か原形をとどめてないものだとか形なんてとうにない布キレだったりとかが散乱しているわけだから。ちなみに置いてあるエロ本的に数年前まで使われていたようなそうでないようなみたいな状況だということが確認できた。うん、どんな確認の仕方だ。

まあ、漫画だったら後ろにC90だとかいろいろ書いてあるわけだからそれから逆算すればいいんだけど、まず大体の一般ぴーぷるはコミケを知らないか。


まあ、そんなことはどうでもよく、俺と陽太は無残に廊下に寝転んでいた。

「おわんねー...。なんだここ、廃屋のほうがまだましなんじゃないのか?」

「ここまでとは思ってなかったわ。すまん。」

陽太も少しばかり舐めてかかっていたみたいで、流石にやられてしまったみたいだ。まあ別に陽太の責任ではないので怒ったりはしない。


「それで?お宝はあったか?」

「ぐふふ...お気に召す本がわんさか...。」

「お、おう...?お前そんなやつだったっけ?」

変人ではあるがこいつ、オタクって訳でもないはずなんだけどなぁ...。ひょっとして片づけ中に読んで何か変なのに引っかかってしまった説が十分あって怖い。どうしようか、現実世界に引き戻すために一度愛の篭ったビンタでもお見舞いしてやったほうがいいだろか。


「...陽太、歯ぁ食いしばれ?」

俺は思い切り右腕を振りかぶる。

「はっ...?おいおいなんでだよ!」

「おっとあぶねえ。」

俺は動きかかっていた右腕をなんとか反対の腕で押さえる。

幸いちゃんと止まったようで、俺、陽太共に胸を撫で下ろす。


「ったく、何だよほんと。」

「悪い悪い。...にしても片付かねぇな。」

「そりゃさっきから手を止めてるしな。」

「それもそうか。」


さて、さっきからこのくだりを何度やったことだろうか。

流石に飽き飽きしたとこなんだが...。


そんな中、一人分の階段を上る足音が聞こえてきた。トントンと流れてくるその音はどこか重たさを感じる。ということは...


「よお、調子はどうだ?」

「あらちはやちゃん、茶化しにでも来たんですか?」

「様子を見に来ただけだぞ。」

少し貫禄のある大人立ちでちはやちゃんが俺たちの前に現われた。腕を組んで片づけ中の部屋を覗く。

そして何か言うところがあったのか口をもごもごさせる。


「ふむ...。その、なんだ。悪いな、私がもう少し綺麗に管理できればこんな風に働かせることはなかったんだがな...。」

「あ、そうそう。聞いておきたかったんですが、ここって昔使われていたんですか?」

「ん?」


ちはやちゃんは組んでいた腕を解き、どうだったかなと天を仰ぐ。

「ああ、確かな、使ってたよ。というか、昔は今向洋が使ってる部屋のほうが使われてなくてな、ここにある部屋らがよく使われていたんだ。まあ、いわば個室状態といったところか。...言ったろ?今の代ほど昔は仲良くなかったって。」

「そういえばそうでしたね...。」

「だろ?それでもって二階から脱出することがあまり出来ない状態な訳だから、治安の悪かった当時を考えると二階にいさせるほうが全然よかったわけだ。...まあ、今は下でわいわいしてるほうが楽しいだろ?」

「それは...そうですねぇ。」


実際嘘ではないのだからそう返すしかない。陽太はどこか引っかかるところがあるのかうーんと悩んでいるのが見受けられる。


「まあ、それも五年位前にほとんど特監生がいなくなってから下を使い始めるようになったんだがな。向洋が来る前も一人だったわけだ。」

「そう、前からそういってましたよね。誰か教えてくれませんか?」

「あ、俺も知りたいです。何だかんだ言ってここに入ってきたときには誰もいなかったんで、全く前の事知らないんですよね。一応管理者なんでそこのところは知っておきたいといったところでしょうか。」

珍しく陽太も話に食いつく。これが決め手となったのかちはやちゃんはおずおずと話し出した。


「あれだよあれ、生徒会長。あれが向洋が来る前の最後の特監生だ。」



その名前を聞いて、俺が反応するまで約五秒。

そして俺は口を開く。

「生徒会長って、確かあの人ですよね?あのふんわりしてる人っていうか、つかみどころがないって言うかっていうあの人。」

「...まあ、あってるな。一応。それで?流石に名前までは覚えてないか。」

「そういえば...。」


学校あるあるなんだが、生徒会長の名前とかは意外と知られていない。

それこそ中学生のときは俺自身も生徒会に入っていたからそこのは知っていたが、この学校に入ってからはそんなことへの興味意欲が無くなってしまっていた為名前を知らないのだ。

なら、全く行事などに興味のない人間ならなおさら知らなくても当然だろう。お礼状に陽太は「?」みたいな顔をしていた。


「えっと、確か名前は...。」

聞いたことがあるはずなのでなんとか記憶の中に残ってないかと探ってみる。

けれど、先にその名前はちはやちゃんの口から発せられた。


「本郷夏希。」

「そうそう、その人です。」

そうして名前を言われてからようやく色々思い出す人間の特性が俺の中で発動する。


本郷夏希。本校の生徒会長でひとつ学年が上の先輩。

容姿のほうは少しパーマがかかりふわふわしている髪がトレードマークとなっていて、性格も似てか前述したとおりどこかつかみどころがなくふわふわしている性格なのだ。

明るいには明るいのだがどこかお昼寝とおふとんがお友達そうな雰囲気。目の開き具合も時々分からないくらい眠たそうなときがあるのだ。そういうときつつきたくなるって事、時々あるよね。

まあ、そんなだけあって学校中であの人のことを嫌いな人はそんなにいないのではないのかなと思う。偏見ではあるが、あのタイプの人は向けられた刃を寝ながら回避できるくらいの器量があるのではと思ってしまうわけだ。


それで、全てを思い出したところで最初の話に戻る。


「それで、なんで生徒会長が特監生なんですか?」

「ああ、その話になるか。...困ったな、こればかりは学校だけの話じゃないからな。あいつの個人情報にまつわる話となるとこちらも伝えるのをためらいかねない。」

「あぁ、そういうタイプの奴ですか。」


俺に返事を返すちはやちゃんの顔があまりに渋かったので、それ以上は聞くことから引いた。それに俺自身も深い責任を問われるところへはあまり進みたくない。

一連の話を退屈そうに聞いていた陽太があくびをし、うんと伸びてようやく起き上がる。


「まあ、女性だとは分かってたんですよね。最後に使われていたであろう部屋が綺麗に整っていたので。どころかちはやちゃんに与えられてる部屋のほうが断然汚れて」


ブンッ!


陽太の言葉を遮るようにまた目の前を何かが通過した。

見るとちはやちゃんは片手に鉈を持っていた。



...鉈ぁ!?


「ちょ、ちはやちゃん!どっから取り出したのその鉈!危ないから引いて!」

「嘘だっ!!」

「何が!?」


一瞬外の木がばさついたり、ちはやちゃんの目がガンギマリしてた気がするけど気にしないで置こう。うん、触れぬが吉。うちやない、カードがそう言っとるんよ。


「というかちはやちゃん、後半絶対それやりたかっただけだよね。」

「うぐっ、...うるさいぞ須波。」

俺は手を横に投げ出してやれやれといった仕草をしながらため息をつく。というか鉈常備とかどこの竜宮さんですかね私ちょっと気になります。


ちはやちゃんは落ち着いたのか鉈をまたどこかにしまいこみ、少しは何かを反省したのかしゅんとしながら話し出した。

「私の部屋が汚れてるのはしかたないだろう。毎日使用してる部屋だからな、掃除も毎日出来るわけじゃないし。そう考えれば少しくらい仕方ないところもあるだろう。」


違った。反省じゃない。ただの言い訳だ。

てかそこ、両手を合わせていじいじしない。そんなことしても歳には勝てないんだから。


「言いたいことは分かるんですけどね。ほら、長期休暇とかあるじゃないですか。そこら辺でするとか考えはなかったんですか?」

「ん?何を言ってるんだ君は。夏休みとかも当然ここに来てもらうぞ?」

「は?」

「ついでに言うと今年の春休みは俺ここに毎日来てたから確定だな。」

「えぇー...。」


須波は激怒した。


「聞いてないですよそんなこと!誰だ!ここの責任者!」

「八つ当たりすんなアホ。」

ちはやちゃんにこつんとグーの拳で殴られる。いたい。

「管理者が俺の名前だけど責任者って言ったら一応ちはやちゃんになるのかな?」

「まあな。生徒に流石に全責任はかけるなと上からも言われたしな。...はぁ、委任したかった。」

「いや、アウトだろ。」

思わず本音で突っ込む。しかしちはやちゃんの落ち込みよう、多分相当嫌なのだろうな。これ見て大人になったらろくなことなさそうだ。


「まあ、そんなわけだ。ここの掃除は頼みっぱなしになるかもしれんが、よろしく頼むよ。」

「あっ、降りるんですか?」

「まあな、上が少しどたどたしているのが気になったから久しぶりに見にいこうと思って動いた次第だ。仕事なんざ全く片付いちゃぁいねよ。」

「じゃあちはやちゃんはそっちの片付けに戻りましょうね~。」

「むっ。...ああ。」


え、何今の間。

しかし、そんなことで戸惑っている俺をよそに時間は進んでいく。

気がつけば、その場には俺と陽太しか残っていなかった。


「さてと、いい感じに休憩したし、そろそろ作業に戻りますかね。」

陽太は重たそうに身体を動かし、再び目の前にあるドアを開けようとする。

けれど待って欲しい。俺たちなんで手を止めてたんだ?


「ちょっと待て、そもそも俺たちなんで手を止めてたんだっけ?」

「あれ?そういやどうだっけ...。」

おいおい...それじゃまた手が止まるでしょうが。

えーっと...?確か...。


「ああそう、分別が難しいといって休んでたんだな。中色々入ってるし。」

「ああそれそれ。...んで、どうするんだ?機械のようなものだったら持ち帰って弄繰り回すからいいとして。」

「その基準もうおかしいと思うけどな。...あれだ、ちはやちゃんに分別のポスターかなんかとゴミ袋貰ってきてくれ。その間に少しやっておくから。」

「了解。」


俺はそう指示して陽太を1階に下ろす。そうして独りになった俺はとりあえずどうしたものかとドアを開けて中に入るだけ入ってみた。

中には熱気が篭っている。さっき俺らがいたのもあるし、何よりもう五月だからな。

俺は窓を開けようと部屋の奥のほうへ足場を探して歩いていく。やがて窓辺についたあたりで何かを蹴った。


「ん?」

少し重たいものなのだろうか、足に当たったときに少しばかりの痛みを感じる。

そして足元に目を向ける。そこにはあっていいのか悪いのか分からないものが転がっており、俺は目を丸くした。



「...は?」

ごつんと当たったものの正体。簡単に言えば、マッサージ機器のようなものだった。

ただし、その道具が卑猥な使い方も可能だということを知っていた俺は少しばかり動揺する。


「んーと...あれだ、電気アンマ。」


電マ。うん、電マだ。

略してしまってはよりやばいことになってしまいそうなので一旦しまいこんで、ここは冷静に冷静に...。

「...いられるかバカぁ!!」



というのにも理由があった。

そこには堂々と「西原ちはや」と文字が入っていたのだ。

え、何?この人ってそんな趣味があったの?見たいな目で見てしまうが本人の口から何も語られてない以上定かではないのだなこれが。


そんな中最悪なタイミングで陽太が戻ってくる。

それも、もうひとつ先ほど聞いた足音を引き連れて。


俺はそそくさと持っていた例のぶつを背中の後ろに隠した。


そして再び閉められていたドアが開く。ドアを開いた陽太の奥でジョジョ立ちしている輩がいるがそれどころではない。笑ったらあばら痛いし。


「どう?片付いた?ちはやちゃん連れてきたけど。」

「い、いや...。全然だな。ところで先生はなんで?」

「ん?ああ。ひょっとしたら私の私物もあったかもしれないかなと思って。なんせこの部屋を最後に使ったのが私なまであるからな。」

「そ、そうですか...。」


やばい、気づいてんのかなこの人。

問い詰めるのも野暮だけど聞くのも恥ずかしい。うーん、地獄!!

いっぺん死んでみる!


「あ、俺ちょっとトイレ行ってきます。」

そしてこんな状況の中陽太は図らずとも部屋を退出する。いよいよ厳しい状況となってしまった。


狭い部屋の中男女二人。当然何もおきないはずもなく...。


「しかし懐かしいなぁここも。それでどうだ?何かあったか?」

ちはやちゃんは何も知らないのか軽々しく口を開く。しかし、出口は塞がれているのでもう言うしかない。


「ええ。ありましたよ先生の私物。...これなんですけど。」

そう言って決心した俺はゆっくりと後ろに隠していた電マを差し出す。


「!?そ、それは...。」


ちはやちゃんは一瞬だけ驚き...。懐かしそうにそいつを眺めた。

「いやぁ、ずっとここに置いてたかぁ!結構世話になったからな、高校時代。あの頃は結構凝り性だったからな、使ってたんだよそいつ。」

「は、はぁ...。そうですか。」

ちはやちゃんは割りと胸があるので凝ってもおかしくはないというか...。まあうん、よかったよ。平常運転で。変に動揺してた俺がバカみたいと思えるのが一番いい。


そうしてちはやちゃんはつかつかこちらに歩いて俺が持っている例のやつを手渡せというように手を差し出してきた。

それに乗じて俺は電マを手渡す。その時一瞬だけちはやちゃんの顔が目に入る。



...ん?なんで顔赤らめてんだ?この人。

しかもなんかもじもじしてるし。...え?嘘でしょ?



ちはやちゃんは俺の耳元に口を近づけ、ぽしょりと呟いた。

「くれぐれも他言だけはしないでくれ。...頼むからぁ...。」


顔を赤らめながら懇願する女子の先生がいたら男子はどうしてしまうだろう。

こちらも顔を赤らめるしかない。...ほんっとに恥ずかしい。

しかも最後のほう話し方エロかったし。うん、普通なら死んでしまうな。

「わ、分かってます...。」








そうしてうぶな男子高校生須波悠君は顔を一面真っ赤にしながら電マを手渡すのでした。めでたしめでたし。











「な訳あるかぁ!」

俺は人知れず叫んだ。

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