第11話 魂の5番勝負


「それで、勝負ったって、何を基準に決めるんだ?」

がやがやと子供連れから学生友達だの何だので賑わいをみせるゲーセン店内、俺たちは端のほうにあるベンチに腰掛けていた。


「5番勝負って言っている以上、奇数ですからね。お互い得意そうなのを2つ上げて、ラスト1つは互いの合意ってことで。」

「まあ、それなら不平等ではないよな。」

「ですです。じゃあ先輩、ちゃっちゃと選んじゃってください。」

「了解。」


そうして俺は一人先にベンチを立った。そのまま店内を右往左往。

とはいえ、普段自分が何に手をつけてるかってのは自分が一番分かってるし、きっと得意なものって言うのならその中にあるのだろう。


ふむふむ...。

しかしこうして店内を見てみると、今更になって興味が湧くものもある。


角の方には太鼓が二台、その近辺にはカードゲーム類、クレーンゲーム、レース類、奥のほうへ入れば俗に音ゲーと呼ばれる部類のものとスロット、反対側にメダルゲームで、最奥がネット対戦系のゲームか。


俺はだいたいひととおりの音ゲーは出来る。だから向こうが選んでくれたらちょっとラッキーなまである。

しかし、相手はいかにもTHE 女子といわんばかりの人間だ。どの手のものを選んでくるのか分からない。


...いや待て。

ダンスだったら確定で死ぬな俺。

あれよく見るけど俺あそこまで出来る自信が全くない。


というわけで、無難に自分の得意そうなものを二つほど選んで俺は先ほどのベンチに戻った。



「あ、どうすか先輩、決まりました?」

先ほどいた場所に戻るとペットボトルを片手に秋乃が座っていた。ここから近い自販機にあるラインナップだからおそらく俺がいない間に買ったのだろう。

「まあな。というかそもそも俺も得意なものって指折り数えるくらいしかなかったからな。」

「ふーん。あ、ところで先輩は音感ってありますか?」

「何、カラオケでもあんの?ここ。」


音感あるって何だよ。あまり使わない区系で言葉を遣うのはやめて?

そういう部分で馬鹿がばれるってよく言われるからなぁ...。


「いやそれはないですけど。あ、じゃああれです!リズム感っていうか...」

「あーそういう?...あるようなないようななんだよなそれが。選ばれるものによるな。ま、そこは自分で当ててみろ?」


俺が淡々とそう返すと秋乃は「げっ」、と小さく声をあげて驚き、乾いた笑いを発した。

「あはは...苦手なもの探ってるのばれちゃいました?」


俺は勝ち誇ったように笑みを浮かべて自信満々に答えた。

「そりゃあな。それに乗っかって手の内晒したら元取れねえじゃねえか。」

「やっぱり狙ってた!?なんたる守銭奴...。」

「うるせえ。カツカツなんだよこっちも。」


因みに言うと本当は途中まで何言ってんだこいつ状態だったが、それは今となってはどうでもいい話だ。

なかなか先に進まない話に俺は一度くぁと小さくあくびをした。...いかんいかん、食後の眠たさだな。

学校でもよく5限は寝てるしなぁ...。まあ、5限に理系科目がよく回ってるというのも原因の一環だろうけど。


そして浮かんだ涙を軽く拭うと、何かを思い出しあっ、と俺はつぶやいた。

「じゃあ逆に聞くけどさ、お前、ここってよく来るの?」

「え、私っすか?」

「えらく自信たっぷりで挑戦状叩きつけられたらそりゃ少しは気になるだろ。」

すると秋乃は今日何度目かの自信たっぷりな笑みを浮かべて腕を組んだ。


「ふっふーん。聞いて驚け?」

「驚かない。」

「なんでですか!...まあいいです。先輩ノリ悪いのは知ってますから。」

「うるせぇ。んな事より本題はよ。」

「うー...。やっぱり先輩嫌いですぅ。...本題戻りますよ?」


だから戻れって言ってるじゃん。確認する必要ないし。

「私、結構ここ来てますよ?店員さんにも顔覚えられてるくらいですしね。」

「えっ?...あー、そういう?」


ここで俺はこいつのことをすごく残念に思ってしまった。



はっきり言っておこう。こいつはドジだ。いや、そんな言葉でくくれないほどやばい時もある。


生徒会してたときだってよく問題があった。

こいつは書記だったけど、まじめに仕事をしてるのになぜか、どこか、必ずといっていいほどミスが出ていた。

しかもそのミスというものが意外とやっかいなもので、山積みになってる書類に手が当たって廊下にこぼしたりだとか、印刷部数間違えてえらいことになったりとか。まあ、それこそ人数多かった分そこのところはフォローできてたけど。


多分こいつ、本当にここよく来るのだろうけど毎回ポカやらかすんだろうな。その都度対処してくれる店員さんに顔を覚えられてるというわけだ。

...おいおい今回もこいつ来たのかよ見たいな目で見られたらかわいそうに思えるんだが。多分本人気にしないだろうけど。


頼むから機体は破壊しないでくれよ...頼むから。


「なんすかそんな哀れんだような目をして。疑ってるんですか?」

「いやぁ?別にぃ?」

そんな軽いことだったらよかったんだけどな。



「まあいいです。それより、どっちのからいきます?」

「何が?」

「一戦目!です。」

「そっちからどうぞ?」

「分かりました。」

そうして、俺と秋乃の熱い(?)5番勝負が始まった。



---



1戦目。

なにやら胡散臭いBGMがチャカチャカ鳴る機体の前に俺らは立っていた。

そして秋乃が片手を横に広げてバックの機体を示して説明を始める。


「1戦目はこれ!クイズゲームです!2人モードもあるし、いいんじゃないですか?」

ほーん、クイズか。正直意外なところから飛んできたなぁと思っているが、あとは内容次第、捨て勝負ではないな。


「なるほど。正直想定外だったけどこれなら大丈夫そうだな。」

「いいんですか?そんな甘い考えで?」

「なん...だと...?」


秋乃は勝ったわこれと言わんばかりにニヤニヤして俺に説明を続けた。

「このゲームはいわば私のフィールド。何度もやってる分私はその答えを知ってるんですよ?どんなパターンの問題が出るか、それの答えが何か。経験者のアドバンテージってでかいんですよ?」

「ずるくない?それ。まあいいけど...。それで、何の問題だ?」

「うちの県についての問題です!」


その内容の渋さに思わずぶっと思わず吹いてしまった。

というかなんだよそれ、県庁推奨不可避じゃねえか!


「しっぶ!まじか!?そんなゲームあったのか!」

「まじっす!私も最初は笑うしかなかったですよ!」

「製作者誰だよ...くそ笑えるんだけど。」


めちゃくちゃ興味があるので今度陽太に作ってもらおう。


「...まあいいや。あー笑った笑った。んで、どうやって始めるんだ?」

「先輩は私と反対の席座ってください。そしたらまた説明します。」

「分かった。」


そう促されて所定の位置に座る。ここからだとどうやら対戦相手の表情が見えるようだ。外とは区切りがあり、いかにも二人だけの空間って感じを出していた。

「それで?」

「100円入れて近隣の機体とマッチを選んでください。そしたら勝負開始です。」「了解。」


100円を入れて...お、始まった。

安っちいBGMとともにゲーム内で指示が始まる。

それが終わるとゲームが始まった。


よし来い!




---




「なんで先輩が勝つんですか!」

ゲーム終了後、秋乃はぶーぶー喚いて俺を非難した。なんだよ、真剣勝負じゃねえのかよ。

「いやー、あの程度の問題だったらうちの県の知識豊富な俺が勝つだろ。」

「ていうか!なんですかあのスピード!ちょっと引きましたよ!」

「うるせえ。アイラブ自県の何が悪い。」


というか地方の特産物とか興味がないと分からねえ問題もあったしな。作者もきっと俺と同じくらい自県が好きなんだろう。

自分の住む場所が好きだとか...あらやだ、私模範生?


...コホン、調子乗りすぎた。


「で?次は俺の番か?」

「あ、そうですね。行きましょうか。」


そして俺たちは次のバトルへと向かった。




---



「さて先輩...ツッこんでいいですか?」

「いいぞ。」

ついて開口一番、秋乃は呆れていた。


「なんでクレーンゲーム!?100円で終わらないしこれ勝負にならないじゃないですか!」

そう、俺が選んだのはクレーンゲームという、勝負する気にならないほどの沼なゲームだからだ。


「値段のほうは気にするな。俺が勝ったときには100円しか請求しないから。というか、案外勝負にはなるぞ?」

「ほほう、その心は?」

「少ない金でものを取ったほうの勝ち。どうだ?楽だろ?」

「鬼!最低!悪魔!」


秋乃はぷんすか怒って俺の胸を何度もぽこぽこ叩く。

「まあまあ...、流石に上限決めるから。そうだな...500かな?」

「...まあいいです。けど、勝負がつかない場合は?」


その言葉を待っていたといわんばかりに俺はドヤ顔で次の言葉を宣言した。

「...私、失敗しませんから。」

「うーわはずかしい。」

「キャッ」と小声でつぶやいて秋乃は両手で顔を覆った。これには天才外科医も怒り不可避だろう。


「あとは自分のほしいもの探してやりゃいいだけだ。...まあ見てなって。」

そう言って俺は目の前にある機体に100円をつぎ込んだ。そして秋乃に見守られながら1プレイを行う。


「さてと...ここら辺か。」

ポジションを決め、アームを下ろす。しかし、狙ったものは向きを変えるだけで持ち上がらない。


「失敗してるじゃないですか。」

「誰が一回で決めるって言ったよ?500まで使えるんだ。まあ見てなって。」

「それさっきも聞きましたよ。」


ため息をつく秋乃を尻目に200円目を投入する。

因みに、さっきの動作がかなり重要な一手なのだ。あそこで向きを変えることでアームはすんなり入る...!


「貰った!」

俺は高らかに宣言してアームを投下する。そして宣言どおり二手目で狙ったぬいぐるみを獲得した。


落ちていたイルカのぬいぐるみを片手で拾って秋乃に見せ付ける。

「どうだ?狙い通りだろ?」

「...先輩。」

「なんだ?」


すると秋乃はすぅぅと大きく息を吸った。長台詞が飛ぶんだな...。


「なんすか!?そのぬいぐるみ!どちゃ可愛いじゃないすか!ください!」

「えぇ...。そっち?」

そう思ってぬいぐるみの方を見る。


待て...こいつよく見ると...やばいかわいいじゃん。


「そうだな。じゃあお前が取ったら交換してやるよ。勝ち負け関係なく。」

「やったぁ!じゃ、行って来ますね!」

「おい待て!...行ったか。」


様子を見てやってもよかったがすごいスピードで行ったのでそっとしておくことにした。本当にほしいのだろう...。



~数分後~


さてこいつの名前何にしようかなと考えてるとニッコニコしながら秋野が帰ってきた。その右手は後ろに隠れていてとてもいやな予感しかしない。

「せ・ん・ぱ・い?」

「何...やだ...この子怖い。」

「もー、そんなこと言っちゃってー。ところで、はいこれ!」


秋乃は隠してた右手を差し出してきた。そしてその手にはしっかりフィギュアの箱が握られていた。それと、400円と。

「私の完全勝利、です!」

「...まじかぁ。」

まさか1回で取られるとは思っておらず、俺は呆然とした。


ごめんよイルカ君。君は今日からあの子のものなんだ。


ようこそ!CCのフィギュア君!...どこ飾ろうか。


「いやー、ビギナーズラックって言うんですか?天は我に味方せりですよ!」

「まじかぁ。...負けだ負け。はいこれ。大事にしろよ?」

俺はしぶしぶ右手で抱えているぬいぐるみを差し出した。

「ありがとうございます~。」


そしてお互いものを交換すると秋乃は早速ぬいぐるみをギューっと抱きしめた。


「大事にするね。」


優しそうに、目を閉じて。秋乃は返事のないぬいぐるみに語りかける。

その光景がどこか愛らしく、俺は少し頬を赤く染めた。


いかんいかん、何見せられてるんだ俺は。


「...コホン、次そっちだぞ?」

「あ、そうですね。忘れてました!」

自分の世界から帰ってきた秋乃はシャキッと姿勢を正して次の機体へと歩き出し、俺はそれの2、3歩後ろをついていった。





---




はっきり言って、そこから先は順当だった。

第3戦目。

案の定ダンスを選ばれた俺は成す術もなく敗退。どころかこいつ、そのゲームのここのスコア記録持ちだった。そりゃ勝てねえよ。


お返ししたい4戦目。

自分のやりなれている音ゲー、流石にこれは負けなかった。

とはいえ、ほぼ初心者の割には手つきがいいのを見るあたり、うかつに音ゲーを挑むと負けていたかもしれないと終わってみて初めて心から安堵した。





そして、物語は最終局面、第5戦目へと続く...。






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