第2話 特別監視生徒


「特監生...ですか。」

改めて自分が特監生と認定されたことに対し、ごくりと唾を飲んだ。


「聞いておこう。自覚は?」

「まあ、問題はよくよく起こしてたんで、少なからずないことはないなーとは思って...ました?」

「なんで疑問形なんだ...。」


実際、頭の隅には置いていたんだ。それでも、いざ自分がなったとなると実感が無さすぎる。

それに、特監生。それこそ名前こそ聞いたことはあるが、何をやってるか、というのは全く知らなかった。


「あー...因みに、これを拒否することは...」

「できんな。嫌なら退学。...まあ、ここら辺は人によるが君の場合は退学になるだろう。」

「えぇ...断らざるを得ないんですか...。」

「当然の結果だな。」


はははっと先生は薄く笑う。

俺もとりあえず感情そっちのけで乾いた笑いを飛ばすことにした。


はははっ...。

...はぁ。


お前なにわろてんねん。


「というわけでついてこい。君、特監生がどういうものか知らないだろ?折角だ。もう早速今日からお世話になる部屋を案内しよう。」

「えっ、まさか寮っすか?」

「いや?旧校舎の部室棟だ。行ったことないだろ?」

「そういえば...確かに...。」


うちの校舎は比較的新しい。

新造の校舎、部室棟は立てて10年ほどだろうか。グラウンドの向きも昔と逆になったらしい。

それ故に、元部室棟が現校舎の隣にある訳だ。しかし、本当に誰も行ったことがない。


「しかし...寮か...そうだな...」


俺が考えているあいだに何やら先生がぶつくさ言っていた。

「先生?」

「あっ?...ああ、悪い。準備できたか?」

「ええ、まあ。」

「うし、じゃあ行こうか。」


かくして俺は、新しい場所、学校の檻に連れていかれることになった...。




---


「ここだ。」

1度校舎を出て、渡り廊下を渡った先に、それはあった。

俺と先生はその入口の前で足を止める。


特監生の待機場所である、旧部室棟。

かなり昔から使われていたであろう木造二階建ての建物は、思いのほか綺麗だった。


「意外と綺麗ですね...。誰かいるんですか?」

「ああ。君より先に特監生になったやつが1人な。...そうだな。確か君のひとつ上の学年に1人くらい居たが、今いる奴と入れ違いで解除されたな。」

「解除...ってことは、特監生から抜け出すことも出来るんすか?」

「できるけど君はまず無理だな。もう大分評価が低い。まあ、詳しいことは後で話すから、ほら、入った入った。」


促されて、俺は建物の中に入る。

1階の廊下に着くと、1つの部屋から明かりが溢れてるのが分かった。


「おーい、そっちじゃない。こっちだこっち。」

その光をぼーっと眺めていた俺を先生が呼び止める。案内された部屋に行くと、こちらにもデスクが置いてあった。


「んじゃ、そこ座れ。」

指で示されたパイプ椅子へ座る。

俺が座ると先生は胸ポケットからタバコを取り出した。よく見れば、デスクの上に灰皿が...。


おい、先公。何してんだ。

「タバコって...不味くないですか?」

「なんだ?吸ったことあるのか?」

「違いますよ!学校的にです!てか、吸ってたら俺こんな猶予も無いでしょうが!」

「まあまあ、そんな怒るなって。...ふぅ、それより、書類、もう一度ちゃんと見とけ。ここのルールが書いてある紙があるだろ?」


先生は俺を軽くあしらってタバコで一服。右手に先端が燃えているタバコを持ちながら、その手で俺の封筒を指した。


「ちょっと待ってください...。」

もう一度封筒をガサゴソと。今度は先程と違う紙を引き当てた。


「えっと...特別監視生徒規約...これですか?」

「そうそれ。ちょっと読んでみろ。黙読でいいから。」


えーっと...?


・学校指定の下校時間まで下校禁止

・特例の場合で下校するなら、特例監視生徒以外との下校が条件

・学校から依頼された事は是非を問わず行う

・尚、これらが破られる場合は、厳重な処罰を下す



とな。...なるほど。

「って先生!なんすかこれ!」

「なんすかって言われても...私が決めたことじゃないしな。」

ポンポンと灰を落として先生が冷静に答える。


「えーっと...つまり勝手に帰るな、仕事には逆らうなって事ですかこれ。」

「まあ、そういうことだな。」

「...意味あるんすか?これ。」


帰らせないだけとか、本当にその存在意義を疑ってしまう。それが問題を起こさないのと関係あるのかと。


「大ありだろう。特に君は、学校外での問題が多いからな。しかもそれは、だいたい街の方に行った時が多い。時間がなければ、そっちにも行くことは無いだろう?」


そういえばそうだ。寧ろここで大人しくしてれば自分を抑えれるなら...悪い話ではない。


「休日は?」

「勝手に出歩くのは構わんよ。ただし、君はあまり休日に動く人間では無いって聞いたが?」


あれ?おかしい。

俺この人と話したことも無いし、他の先生に街にいるところをあまり見られたことも無い。なのに何故、俺の休日の実態を?


「そうですけど...誰に?」


先生はふっと微笑む。もうタバコは手から無くなっていた。

「まあ、じき会える。」

「はぁ...。」


なんだか合点が行ったのか行かなかったのか。少し不思議な感覚に見舞われる。

「まあ、要するにだな。」


先生は俺の方を向き直して、真剣な顔で話しだした。


「学校の方針としては、あくまで問題がある生徒を監視下に置くことを最優先としている。当然、君みたいなタイプ以外の問題児もいるだろう。そういうのを引っ括めてここで監視されるのが、特別監視生徒、と言うわけだ。だから改めて言おう。ようこそ、特監生の世界へ。」


最後はやはりドヤ顔だった。

ほんと、この人こういうところがダサすぎる...。


まあ、でも真実を知って悪い気分にはならなかった。

かと言って、肯定的な訳でもない。

とりあえず、俺が今やりたいことはといえば...。


「先生。今1人、特監生がいるんですよね?どこですか?」

「会いに行くのか。というか、そこが今日から君の活動場所にもなるしな。さっき君が見ていた光の所、あるだろう。あそこだ。」


はーん、道理で気になったわけだ。

「じゃあ、失礼します。...先生は向こうへ?」

「ああ、もうじき戻るよ。まあ、早く行きなよ。」


俺は先生用の部屋から出ると、先程のドアの前に立った。

目の前には、鉄の円型のドアノブ。窓があるが、少なくともこちらから中の様子は見えない。


「...よし。」

ひとつ呼吸を整えて、俺はドアノブを右へ回し、力強くドアを押した。


「失礼しまー...あ?」

目の前にいた人に空いた口は塞がらなかった。







「おぉ?よ!今日からお前もここなんだな!」

中にいたのは、向洋陽太。俺の親友だった。

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