第5話 巨乳ぷるんぷるんなんですけど!

 さて、お嬢様のドジ可愛さを十分に堪能したナオ。彼女の性格上か、或いは悩んだところで現状が変わる訳でもないと合理的に考えたのか、兎に角ナオは転生自体些事だととらえていた。

 現状の生活にさして不満がある訳でもない。いや、強いて言えば前世の自分の環境よりも今の方が何倍も良いいといえる。特に大好きな可愛いお嬢様と一緒なのだからナオにとってここは天国だ。


 ただ、全く気にならないかと言えばそうではない。


 転生したこと、前世の記憶が戻ったこと自体は良いのだが、どうにもお嬢様を構っていたナオは、言い方が変ではあるがこの転生が唯の異世界転生でないのでは、と思い始めていた。


 その疑問点が当のお嬢様にある。


(もしかしてだけど・・・・・・それによっては今後を考えないといけない、よね)


 どことなく嫌な予感に胸のざわつきを覚える。前世の記憶が甦ったからこその懸念。


(う~ん、この世界って・・・・・・確認しないと)


 ナオはカティーナが着替え終わったのを見計らい口を開く。


「お嬢様のご学友ってどんな方がいらっしゃるのですか?」

「何ですの唐突に、ナオがそんな事を訊いてくるなんて珍しいですわね」


 そんなナオの唐突な質問にカティーナは怪訝な表情を浮かべた。


 ナオの裏側を探るようにカティーナが視線を巡らせていると、ナオなりの誤魔化しなのか、恥ずかしそうに体を抱きしめたのはご愛敬だろう。


「ほんと気持ち悪いわね」

「ちょ、それ酷くないですかぁ。ただちょっと気になっただけですよ。お嬢様がちゃんと人付き合いが出来るのかどうか」

「失礼ね。わたくしは貴方と違って普通に人と接することなど造作もない事ですわ」


 大分辛辣な事を口にしながらフンと鼻を持ち上げたカティーナは、その後顎に指をあてて「ん~」と考えだす。


「どんな方、てのも抽象的ですわね。そうね、わたくしと同じ学び舎に通われている方は、やはりわたくしと同じような立場の方が多いですわね」


 そして文句をいいながらも素直に答えてくれるあたり、カティーナの為人が良く出ている。そんなカティーナにナオは不安を押しのけて微笑みが浮かびあがっていた。


 カティーナはお嬢様特有の外面を纏っているが根が物凄く素直だ。立場だったり言葉使いなどから誤解を生みやすいが、決して鼻持ちならないお嬢様ではない。

 ただ素直な感情表現が下手な事と極度の恥ずかしがりやであるため、その言動と行動はどうしてもツンツンしている様に感じさせてしまうのが玉に傷ではあるが、それはそれで可愛いとナオは思っている。


「例えば誰ですか?」

「・・・・・本当に何ですの?」

「え、いやだなぁ。そんな身構えないでくださいよぉ。気になっただけで深い意味はないですよぉ」


 そう言っている時点で怪しいとしか思えないのだが、カティーナは一息吐き出すと諦めたようにまた話し出す。


「・・・・・・・・・まぁいいですわ。何名か分かりやすい代表格がおりますわ」


 白く細い指を一本立てる。


「まず一番に上げないといけないのは、この国の王族の方ですわね」

「・・・・・・第二王子」

「あら、知ってますのね。そう、我が国の第二王子であらせられるロバート様ですわ」


 カティーナが王子の名を口にした瞬間、ナオの形の良い細い眉がピクリと持ち上がる。カティーナは第二王子の事を知っていたナオに驚きながらも説明を続ける。


「ロバート様はわたくしが幼い事から知っております、いわば幼馴染に近い感がありますわね。当公爵家と王家では血が近い事もありますし、年齢も同じでしたから幼いころはよく遊んだのよ」


 「それから」と続けて二本目の指を立てた。


「クランデュベル伯爵家のシャリオットさん、彼女は学院からのお付き合いですが、とても愛らしくて仲良くさせていただいてますの。それと同じ公爵家のドランあたりかしらね。もっと多くの貴族の子女が居ますが、特に目立つのはこのお三方ですわね」


 教え子に諭す教師の様に、指を振りながらナオに自分の学友を紹介していくカティーナは、まるで自分に友達がいることを自慢しているよう。


(あぁ、やっぱり・・・・・・これは確定、かな)


 ナオはカティーナの話に時折相槌を打ちながら、自分の予想が当たってしまったことに口を曲げ目を細める。

 どうやらその結果はナオにとってはあまり思わしくないものだったようだ。


 一通り話し終えたカティーナがどや顔をナオに向け胸を逸らせると、ご自慢の双丘がこれでもかと主張される。


 それが悔しかったのか或いは話の内容が面白くなかったのか、ナオは使用人としてはあるまじき蛮行にうってでる。


 突き出たカティーナの胸をペシッと叩く。


 カティーナの胸は極上のプリンの様にぽわんとたわんだ。


「・・・・・・・!!んな!」


 一瞬何をされたのか分からずぽかんとしていたカティーナだが、揺れる自分の胸元を見つめていると次第に羞恥と怒りに顔を赤くしていく。


「あ、貴方なんてことをしますの!!」


 胸を掻き抱くように両手で隠しナオに対して憤慨する。だがナオをカティーナを一笑すると「我儘ボディーがいけないのです」と悪びれた様子もなく吐き捨てた。


 わなわなと震えるカティーナを他所に、マイペースに部屋の扉を開くと深々とお辞儀をし、


「さ、お嬢様、朝食のお時間です」


 と、今までのやり取りがなかったかのように涼やかな声で述べる。


 そんなナオにぎりりと歯を食いしばるカティーナだが、ナオの性格を良く分かったいるのか不満げな顔ではあるが「分かりましたわ!!」と部屋を出ていく。


 ナオはそんなカティーナの姿を見ながら、先程聞いたカティーナの学友たちを思い出しては「まったく厄介なものだ」と深いため息を吐くと、カティーナは振り返り涙目で「そ、それはわたくしの胸をさしていますの!」と半べその声を上げたのだった。

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