第25話「その笑顔は闇の中……」
「それで、雫はどの映画がいいの?」
「もちろん! この超B級ホラー映画『女子トイレの山田くん』よ!」
今日も今日とていつもの放課後、僕と雫はいつもの図書館ではなく前回来たあの映画館にまた来ていた。
「なるほど……
じゃあ、僕は隣のガチホラー映画『残怨【ざんおん】-見てはいけない屋根裏-』でも見ようかな?」
「ちょちょちょ、ちょーっと待ちなさいな!?」
「うおっ! 何……? 雫、どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃないわよ!
歩ってば何を自然に私が選んだ超B級ホラー映画とは別のガチホラー映画なんか見ようとしているのよ!?」
「え、何でって……あ!
雫、心配しなくても大丈夫だよ。
ガチホラー映画の『残怨』を見るのは僕だけだからね?
雫が見る方のチケットはちゃんと『女子トイレの山田くん』を買っておくよ!」
「『買っておくよ!』じゃないわよ! そんなの当然でしょ!
あ、貴方……それこそ前の時みたいに私を騙してガチホラー映画のチケットを渡すなんてことをしたら、今度こそただじゃ置かないんだからね!?
――って、言いたいことはそうじゃなくて!
私が言いたいのは何で二人で映画を見に来たのに、わざわざ別々の映画を見なきゃいけないのかってことを言っているのよ!」
「え……じゃあ、雫も見る? ガチホラー映画の『残怨』?」
「貴方の頭は腐っているのかしら!? 誰がそんなもの見るもんですか!
って……べ、別に、ガチホラー映画が怖いってわけじゃないんだから勘違いしないでよね!?」
ここまで聞くと、まるで僕と雫が放課後の映画館デートをしているみたいに見えるかもしれないが、それはとんだ勘違いである。
では、何かというと……
これは雫が作ってきてくれるお弁当の対価なのだ。
あれから学校がある日は、雫が僕のお弁当を作ってくれるのだが、流石に無償でお弁当を作ってもらうのも気が引けるので、お弁当代を払うと言ったところ雫が――、
「はっ! この『学校一の美少女』改め『学校一の美少女シェフ』が作った手作りお弁当に値段を付けると貴方は言うのかしら?
……フン!
歩ごとき凡人に私の作ったお弁当の価値を計れると思ったら大間違いよ!
だから、貴方は大人しくこの神のごとき才能を持つ『美少女シェフ』である私のお弁当を『美味しい!美味しい!』って、ブタのように涙を流しながら食べていればいいのよ!
え? それでも、何かお返しがしたいですって?
ふ、フン……歩の癖になかなか殊勝なことじゃない?
え、だから感謝のマッサージを千回させてくれって――ちゃっと、待ちなさい!?
その手つきは何! 嫌よ! 絶対にイヤ! だって、その……手つきがいやらしい――、
だから、止めなさいって言っているでしょぉおおおおおお!」
と、言うことがあり、結局は僕が週に一回、雫の好きな映画を見せるということで決着が付いたのだ。
この映画館は高校生は千円で見れるので、僕と雫の二人合わせても毎週二千円の出費で雫がお弁当を作ってくれるのだから安いもんである。
「雫が文句ばっかり言うから、ちゃんと超B級ホラー映画『女子トイレの山田くん』を二枚買ってきたよ……。
はい、これでいいんだよね?」
「何で私がワガママを言ったみたいになっているのかしら!?
も、もう……歩ってば『学校一の美少女』である私と一緒に映画を見るのが恥かしいからって、バレバレな照れ隠しは止めれくれるかしら?」
ふぅ、雫が『学校一の美少女』なのは認めるが、こうも挑発されると何か仕返しをしたくなるなぁ……。
「うん、わかったよ♪
じゃあ、僕は『学校一の美少女』の雫と一緒の映画を見るのは恥かしいから、大人しく僕だけガチホラー映画の方を見て来るね?」
「まま、待って待って! って、待ちなさいよ!
だから、待ってぇえええ!
分かったわ! 謝る! 謝るから!
わ、私を一人にしないで!
た、例えB級ホラー映画でも……
あの暗いスクリーンの中で一人になるのは嫌なのよぉおおお!」
……雫って、一体どれだけの弱点があるんだろう?
「わかったよ……。そろそろ、開演時間だし映画館の中に入ろうか?」
「そ、そうね。歩がそこまで私と一緒に映画を見たいと言うのなら、仕方ないわよね♪」
「はぁーい、お二人様ですねー? チケットを確認しまーす……。
はい! 右奥の4番ゲートへどうぞ~♪」
「雫、席の番号は何番かな?」
「私のはEの17番よ。
ほら! それより、早く座らないと映画が始まっちゃうわよ!」
「うん……そうだね」
しかし、雫ってば最後まで気が付かなかったなぁ……。
一体いつ気づくんだろうかと思って、ガチホラー映画の『残怨』のチケットを二枚買って渡したんだけど……
「超B級ホラー映画は怖くないのが多いから、二人なら安心して見れるわね!
『女子トイレの山田くん』一体どんな超B級ホラーなのか楽しみだわ♪」
そして、雫はガチホラー映画が始まる暗いスクリーンの中へと笑顔のまま消えていった。
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