第5話「ツンデレ」



「この私をこんなにも待たせるなんて、一体何をしていたのよ! 時は金なりと言っても、私の時間はお金では買い戻せないんだからね!?」



 前回のあらすじ、雫は『学校一の美少女ぼっち』です。



「えっと……ちょっと、担任の先生がHR長くてさ……。それで来るのが遅くなっちゃった。待たせてゴメンね?」


 とりあえず、彼女を図書室で待たせてしまったのは本当だし、ここは謝っておこう。


「ちょっと……歩? 貴方は少し勘違いをしているんじゃないかしら?」



 しかし、どうやらそれは悪手のようだった……。


 僕の言い方が彼女のプライド (笑)を刺激したのか次の瞬間、彼女口からおなじみのマシンガン的反論が飛んできた。



「歩! 貴方の言い方だと、この『学校一の美少女』であるはずの私が!

 それはまるで、近所のスーパーに一丁39円で売っている豆腐みたいにありふれた存在である『ぼっち』の貴方のことを?

 それはもう恋する乙女のように待っていたみたいに聞こえるけど……

 この状況はあくまでも、そう! あ・く・ま・でも!

 この『学校一の美少女』である私が、学校で誰も話し相手がいない『ぼっち』の貴方を哀れんで、せめて暇な放課後ならと!

 それは道端に咲いていたであろう枯れてしまった花を哀れむかのような気持ちで、図書室で本を読むついでに……

 そう! つ・い・で・に!

 貴方の相手をしてあげようというボランティア精神溢れる女神(私)の施しゆえに生まれている――まさに!

 奇跡のような状況であることを忘れてはいないかしら!?」



 フムフム……。つまり、要約すると――、


『お互いにぼっちで暇なんだから、放課後くらいは相手してあげるわ!

 あ、でも、私はあえて、一人でいるわけであって、貴方とは違うんだからね?

 そこのところは勘違いしないでよね!』


 ――と、言うことである。要約しても長いなぁ……。


 まぁ、雫の場合はその面倒な性格さえなんとかすれば、見た目だけで人は寄ってきそうだとは思うんだけど……。



「えっと、それは本当にごめん……! 僕の言い方が悪かったよ。

 雫は決して僕を待っていたわけじゃないし、そう見えたのは僕の勘違いだもんね。えっと……これでいいかな?」


「フン! そうよ! 分かればいいのよ……」



 僕がそう言うと、雫は少し赤くなった顔を隠すかのようにそっぽを向いた。


 うん、やっぱり、チョロいな……。よし、ここらへんで今日も仕掛けてみよう!



「でもさ、僕がこんな勘違いをしたのは雫にも原因があると思うんだよね?」


「はぁ……なんですって? それはどういう意味かしら!」


「雫は『ツンデレ』って言葉を聞いたことがあるかな?」


「何よそれ?

 歩ってば、私がそんなオタク臭い低俗な言葉を知っているとでも思うのかしら? そんな――、


『特定の男子に表面上はツンツンしてるけど、内面ではデレデレな様子』


 ――を表したかのような言葉をこの私が知っているわけないじゃない!」



 いや、それメチャクチャ知っている反応だよね!?



「そ、そうだよね……。でも、実はツンデレってさっき雫が言った意味と似てて『ツンとした態度を取っていても、別のところではデレる二面性を表した言葉』なんだよ」


「ふ、ふーん……そうなのね。初めて知ったわ。でも、それがどうだって言うのよ?」


「つまり、僕にとってその雫の態度は『ツンデレ』に見えてしまうってことなんだよね」


「は……はぁぁああああああああああ!? ちょっと、歩! 貴方、ふざけたことを――」


「わ、分かっている分かってる!

 もちろん、雫がツンデレなんだと思っているわけじゃないよ?

 でも、考えてみて欲しいんだ……

 雫が言うように、僕はそんじょそこらのスーパーで売っている一袋23円の『もやし』みたいにありふれたような存在だよ。

 でも、そんな『ぼっち』の僕が雫のような『学校一の美少女』にツンツンした態度を取られたら――、


『これはツンデレなんじゃないか?』


 ――なんて妄想をしてしまうのも仕方ないと言うことを……っ!」


「な、なるほど……確かに言われて見ればそ、そうなのかしら……?

 じゃあ、私は歩にどうすれば『ツンデレじゃない』って証明できるのよ?」



 ……よし、引っかかった!



「じゃあ『歩くん、お帰りなさい! 貴方の帰りを待ってたニャン♪』って、言ってくれるかな?」


「…………は?」



 あれ? 少し、反応が鈍いな。もう一度言ってみよう。



「『歩くん、お帰りなさい! 貴方の帰りを待ってたニャン♪』って、言えばいいのさ!」


「んなっ……ば、バッカじゃないの!? ささ、流石の私でもそんなのに騙されたりしないんだからね!?」


「いやいや、違うんだよ!?

 ほら、そうやって雫がツンツンした態度を取るたびに僕は悲しい『ぼっち』だから、ツンデレじゃないのかな?

 ――って勘違いするんだ!

 なら、逆説的に雫がデレデレした態度を取ることで――、

 

『あぁ、本当はツンデレじゃないんだなぁ……』


 ――って、僕も納得することができる気がする!

 みたいに思えないかな?」


「そ、そんなの……」



 十分後



「お、お帰りなさい……」


「ちがぁああーーう! 最初の『歩くん』が入ってなぁーーい!」


「う、うぅ……分かったわよ! やればいいんでしょ!?

 や、やってやるわよ……っ! う、うぅ~~っ!!

 歩くん、お帰りなさい! 貴方の帰りを待ってたニャン♪」



 ……うん。やっぱり、雫は最高のツンデレおもちゃだと思います。



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