第29話 一人の夏

「ただいまー……」


俺はひなたが帰って来るより先に自分の部屋に帰りつき、電気をつけ、買ってきたビールを片手にテレビの電気をつける。


ひなたと知り合うまでは、こんな生活が日常だった。酒とつまみだけ飲んで一人で寝る。ただそれだけだった。


最初は違和感でしかなかったが、だんだんとそれに慣れてきて、何も思わなくなったしまっていた。


ひなたが来てから本当に生活が変わった、家に帰れば夕ごはんが用意されていて、酒なんて飲まなくても楽しい話し相手もいる。ここまで色々あり過ぎて忘れていたが、かなりありがたいことだった。


だから、久々にこんな生活を送る自分を振り返り、自然と言葉に出てしまう


「寂しいなぁ……」


呟いて、スマホを見てみると一件のメッセージと写真が届いている。ひなたからだ


『もう帰りましたか?

しばらくしたら急いで帰るので、待っていてくださいね!』


写真を開くと、夢の国独特なカチューシャを付けてあかりさんと自撮りをしている写真だった。


『こっちは大丈夫だか、楽しんできなよ!お土産話待ってるね』


打って送信ボタンを押そうとして、あかりさんに言われたことを思い出す。


そう……歳なんて関係ないから、遠慮などする必要ない。


『うん、待ってます』


結局どっちつかずの返信になってしまったが、こちらの方がマシだと思った。


しばらくすると、メッセージが返ってきた。


『お土産いっぱい買ってきます!』


既読をつけて、スマホを閉じる。ふと思えば、大阪旅行も、海に遊びに行くのもすぐそこになっていた。


「今年は用事が多いなぁ」


去年の休みなんて漫画喫茶で漫画を読みふけっていた思い出しかない。

この歳になって海に行くのは抵抗があるが、同時に楽しみでもあった。


「水着買わなきゃな……」


気がつけば、子どものようなわくわく感が湧き上がっていた。

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