第24話 藤田あかり

私の友人、堺ひなたには、好きな人がいるようです。

私は付き合ってきた人はいるけれど、どっちかと言うとテニスが一番だったから、恋人なんて必要なかったけど。


だからこの間聞いてみたの。ひなたは何もしてないから暇じゃないのかーって。

そしたらなんて言ったと思う?


「暇だけど、料理とか趣味だから家では料理本読んでたりするかな。食べてくれる人もいるし」


んー?って思っちゃったよ。

百歩譲ってひなたに彼氏がいた事は許す。でもそれを私に言わなかったのは少し悲しかったな。だからお返しに考えに考えて


『明日ひなたの部屋に泊まりに行くからよろしく!彼氏くんにも合わせてね!』


こーなったら、私が直々に彼氏くんを見てやろうというわけ。


その日の夕方。ひなたからメッセージが返ってきて


『大輔さんからも許可貰ったよー!じゃあ明日来てね』


ほほう、大輔というのかそいつは。


ふふふ、明日が楽しみだ。



次の日、昼からひなたと会って、カラオケに行って遊んでから家に帰ってきた。


「大輔さんは夜になったら帰ってくるからご飯作って待ってよーよ」

「よーし!私が料理の腕をふるってやるよ!」

「え!あかり料理するの?」

「ん?全く」


あはは、と上品に笑うひなた。大輔という男は仕事をしているらしい


「で、その大輔とやらは高卒で働いてるの?」

「え?なんで?」

「働いてるんでしょ?だったら先に就職してるとか……」

「あー、なるほど。大輔さんはちゃんと大学出て就職してる」

「え?じゃあ何年上なの?」

「うん、あれ?言ってなかったっけ?」


初耳だった。私たちは1年だから、最低でも三、四歳離れている、または、それ以上……


「え、何歳差なん?」

「えー……秘密!」


おう、まじかい。

ひなたの誤魔化すような笑みに、不安が煽られる。もしかして、十歳差とか……?


ピンポーン


アパート特有の、安っぽいインターホンのベルが鳴る。


「あ、大輔さんだ。じゃあ行ってくるね」

「う、うん」


動揺して、軽い返事しか返せなくなってしまう。

ひなたが玄関を開ける音が聞こえてくる。何回か会話をして、こっちに歩いてくる音が聞こえる。


「あ、こんばんは」


落ち着きのある声で、こちらに向かって挨拶をかけてくる。大輔だ。


「こ、こんばん……えっ」


振り向いて顔を見て、衝撃をうけた。

確かに見た目は若いようには見えるが、二十前半には見えない。


「あかり!こちらが大輔さん。で、この子があかり。大学の友達です」

「初めまして。いつもひなたがお世話になっています。」

「いや、保護者かよ!」


反射的に突っ込んでしまって、微妙な空気になってしまった


「いや、ご、ごめんなさい!私、結構思ったこと口に出ちゃう人で……!」

「あはは、大丈夫だよ!よろしく」


さすが社会人。懐が深い。


3人で夜ご飯を食べながら、私から話始める。


「で、大輔さんとひなたはいつから付き合ってるんですか?」

「うーーん、……どのくらいだろ。2ヶ月とか?」

「この前で2ヶ月です!」


少しいじけたように、大輔さんの顔を見ながらいうひなた。大輔に向けるひなたの表情は、私が見た事のない、彼氏に向ける表情だった。

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