第22話 日記

夏休みに入ってから、数日が経った。


高校生だった頃の夏休みは、宿題や部活、受験勉強で毎日忙しい日々を過ごしていたが、大学生になってそれらは一切なくなってしまった。あるのは予定のない毎日。


あかりとは夢の国に行く他にも遊ぶ約束を多く入れているが、やはり暇な時間が多い。


部屋の掃除とか毎日してるし、もうやりきった感あるし、なにかすることないかなぁ……


あ、そうだ。と一つの案を思いつく。


次の朝、私は学校はないが、大輔さんを送り出すために、大輔さんとご飯を食べている時、思いついた案を報告してみる。


「大輔さん、私、夏休みで暇なんです」

「うん?そうだね」

「なので、大輔さんの部屋を掃除してきてもいいですか?」

「……!げほっげほっ」

「大丈夫ですか!?」

「いや、いきなり何言い出すのって思って」


どうやら意外だったらしい。と同時に大輔さんの顔を見て、ふと思ったことは大輔さんが今の私の言葉を嫌がっているようにも見えることだ。


「迷惑ならいいんです!見られるの嫌ですよね」

「いやいや、全然いいんだよ!じゃあ鍵渡しとくね」


表情をすぐに笑顔に切りかえ、私に鍵を差し出して来る大輔さんをみて、さっきの私の予想は正しいのか確かめたくなるのをぐっと堪える。


「はい、じゃあ今日掃除しちゃいますね」

「よろしくね。ほんとにありがとう」

「はい!あ、もう時間じゃないですか?」

「そうだね、じゃあ行ってくる。」


そう言ってもう日課になった朝のキスをしてくれる。この瞬間が一日でも幸せな瞬間。不安も消えて無くなる。



大輔さんが出社して、1人取り残された私は、任務を遂行するために、掃除道具を持って大輔さんの部屋に突入します。


「おじゃましまーす……」


部屋に入ると、いつもの大輔さんの匂いが漂ってくる。カーテンは空けられているがまとめられておらず、ベッドも整っていない。

しかし普段は部屋を使わないのか、物が少なく、全体的に整っているようにも見える。


「じゃあ、はじめますかっ!」



部屋自体物が少なかったため、掃除自体は午前中で大半が終了した。


気になったのは……あっち系の本が2冊、道具がひとつ出てきたこと……もあったが、普通のノートにまとめられた日記が何冊も見つかったことだ。


開くと、今まで見たことのなかった大輔さんの男らしい文字で、数行を使い一日に着いての出来事が書かれていた。


「ふふ、大輔さんも意外と少女ですね……」


悪いと思いつつ、ページをめくると、私と出会った日からも日記は続いていた。


『4月4日

お隣さんの堺さんに酔っ払った所を助けてもらい、朝ごはんをご馳走してもらった。何かスイーツでもお返ししよう。』


『5月20日

いつも朝ごはんをご馳走してもらっているお返しに、ひなたさんと遊園地に遊びに行った。楽しかったし、ひなたさんのことが気になりはじめた。』


ここら辺からは毎日私のことと、私に対する気持ちの変化が書かれていて、見ているこっちが恥ずかしくなってきた。


『8月2日

朝から夏休みにどこに旅行に行くかひなたと話し合った。泊まることになるだろう。このままひなたと旅行に行っても大丈夫なのだろうか?』


……ん?

最後の一文で、大輔さんにどんな気持ちがあってこの一文を書いたのか分からなくなってしまった。


「……大丈夫なのだろうか?」


字に勢いがなく、迷いながら書いたように思える。それにしても、なんでこんな文を書くのだろうか?


朝の嫌な予感と重なり、不安が一気に押し寄せてくる。何も考えずに、日記の入った箱だけはその場所にそっと戻して、気を紛らわすように他の場所を整理し始める。


日記の一文が、いつまでも頭から離れない


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