第21話 夏

「大輔さん!夏休みに入りましたよ!」

「あぁ、そっか今日からか」


ある金曜の夜、ひなたはうきうきした顔で俺に報告してきた。夏休み。そう聞くだけで懐かしさを感じる。


「沢山楽しんでね、あ、あと旅行とか行く日があったら前々から報告しておいてね」

「はい!でも今年は泊まりには行かない予定です」

「え、そうなんだ?近くに遊びに行くの?」

「はい!あそこの、夢の国に行こうかと」


夢の国と言ったら、全国的にも人気な有名なテーマパークだ


「いいね!誰と行くの?」

「えっと、あかり……大学の友達と」

「なんか青春だねぇ……」

「ふふ、大輔さん、おじさんみたいです」


ふふっと冗談のようにかけてきた言葉に少しだけ傷ついてしまう。


「まぁおじさんだからなー?」

「大輔さんはかっこいいです!」


自虐的に自分の年齢をいじると、気持ちを察してくれたのかひなたがすぐにフォローを入れてきた。


「まぁ……うん、ありがとう」

「いえ……まぁ本音なので」


榊原との一件があったあと、ひなたとの距離は前よりさらに近づいた気がする。

ひなたの部屋に泊まる日が増えて、それに比例するように体を求める回数も増えた。

本当に嬉しいし、この楽しい時間がいつまでも続いて欲しいとそう思っている。


でも心の底では、その気持ちを否定する声も挙がっている


相手はまだ学生だ。なんかあったら責任取れるのか?間違えたら犯罪にだってなるかもしれない。


ひなたとの距離が近くなるにつれて、心の底では、この関係に積極的になることができなくなっていた。


「大輔さん……?」

「……あぁ、ごめん、ぼーっとしてた」

「もう、しっかりしてくださいよね!それで、遊びに行く場所についてなんですけど、やっぱり遠出したいんです!」

「え、俺でいいの?その大学生の友達ととか行かなくて……」

「私は大輔さんと行きたいんです!できればまぁ……泊まりとか」

「うーん、そうだね……」

「?大輔さんは乗り気じゃないですか?」

「いやいや!むしろ行きたいくらいだよ!どこがいい?」

「やっぱりこの前話してた近畿の方に行きたいです!」

「やっぱりそうだよね。じゃあそこら辺に行こうか」

「はい!じゃあ新幹線のチケットとか取っておきますね」


俺の心とは裏腹に、夏の準備は着実に進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る