第4話 残業

俺は毎日数時間は残業をしていく。というのも


「せんぱぁいい……うう、助けてください……」

「はぁ……分かったちょっとお前の分分けてくれ」


榊原を初めとした俺の後輩たちの後始末や手助けをするために会社に残る。剛やほかの同僚たちは皆それぞれやらないといけないことがあるからと少し残業したらすぐに帰ってまい、結局仕事しかない俺に一任される。


「こっちは終わったぞ、ほかなんかあるか?」

「いえ……こっちも終わりました……ありがとうございますぅ……先輩だいすいきぃ」

「うお……!おい、抱きついてくんな」


榊原は昼休みの時のような生意気な部分もあるが、本当の妹みたいのように甘えて来るから、やれやれと結局手伝ってしまう。



「先輩!この後飲みに行きません?私が奢りますよっ!」


しばらくして平常運転に戻った榊原が提案する。

時計は9時半を指している。今帰れば、10時半前には家につくだろう。ひなたさんに弁当を返すため早く帰らないと迷惑になってしまう。


「すまん、榊原、俺今日は帰るよ」

「ええっ!やっぱり……あの大学生ですか……?」

「ああ、弁当返さないと行けないし」

「そうですか……じゃあまた今度行きましょう、約束ですよ?」

「おう、その時は俺が奢るよ」


榊原と会社で別れ、電車に乗りアパートに帰る。帰りの電車は早くも酔っ払ってサラリーマンや塾帰りの学生、まだまだ人は多かった。

結構遅くなったけど大丈夫だろうか……

眠気に襲われながらもひなたさんのことを考える。


「電話できたら便利だな……」


自分の部屋に帰りつき、時計を見たら10時40分。

風呂に入る前にひなたさんを尋ねることにした。


ピンポーン


インターホンを鳴らし、しばらくして


「こんばんは」

「こんばんは、大輔さん。お仕事お疲れ様です」

「うん、ありがとう、これもありがとね、美味しかったよ、唐揚げとか」

「本当ですか!それは良かったです」


朝とは別のパジャマを着ている、それに風呂に入ったばかりだろうか、少し濡れて艶のある髪と赤くなった頬。思わずどきりとしてしまう。


「ごめんね、お風呂上がったばかりだった?」

「あ、はい、ごめんなさいバタバタしてて」

「いや、いいんだよ、こっちこそありがとね、色々」

「はい!……そう言えば夜ご飯まだですか?」

「え……?うん、まだだね」

「じゃ、じゃあ私が何か作ってもいいですか?」

「さすがに悪いよ、近くで何か買って食べるから」

「それなら私に作らせてくれませんか?」


何故か強く主張するひなたさんに疑問が湧きながらも、


「じゃあ、お願いしようかな」

「はい!お任せ下さい!」


ぱぁっと顔を輝かせるひなたさん。


こんな夜遅くに女性の部屋にいた経験がない俺はこの状況にすこし緊張していた。彼女は意識していないのだろうか。この状況に。


「できましたよ!」

「い、ありがとう」

「どうぞー」

「いただきます。」


今日はオムライスだった。レストランで食べるような綺麗な形、ケチャップの量、卵のとろけ具合、どれも完璧だった。

ひなたさんの料理を食べる時、ついつい無言になってしまう。


「ごちそうさま」

「はい!」

「ひなたさんって本当に料理上手だよね」

「そうですかね?ありがとうございます」


本当に正直でいい子だ

ここでさっき疑問に思ったことが蘇った。


「なんで俺に料理を作ってくれるの?」


思わず聞いてしまった。


「そ、それはですね……」


そこで固まってしまう。微妙な沈黙が、彼女と俺の間に流れる。


「いや、やっぱり答えなくていいよ!うん」

「ええっ!あ、はい!」


なんとなくそのままにするのが怖くて、大きくひなたさんとの関係が変わってしまいそうで、咄嗟に誤魔化した。



「それじゃあ帰るね」

「はい、いつも食べに来てくれてありがとうございます」

「こちらこそだよ、ありがとう」

「大輔さんってありがとうってよく言いますよね」

「まぁ、本当にありがとうだしね」


くすくすと上品に笑うひなたさん。


「それじゃあ、またね」

「はい!また明日」


謎な関係だが、今の状態を少し楽しんでいる俺がいた。


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