12

 ──帝国内にある大神殿本殿。

 今わたしは、契約している精霊王達と連れだってここにいます。


「ルーシエ、もうそろそろあの方がお越しになられるそうよ」

「そ、そうね。きちんとお迎えしませんと」


 水の精霊王のアオフェルに言われてわたしは頷きました。

 ……それにしても、ここに参ること自体本当に久しぶりで、なんだかどきどきします。


「だけど、あの馬鹿王子に婚約破棄されて本当によかったね! 万が一にでも、あのアホに足下すくわれることなんてないし」

「まあ、ルキシス言い過ぎよ。でも確かに、最悪あの場で拘束されても、脱出する方法はいくらでもあるわね」


 土の精霊王に本当に嬉しそうに話しかけられて、わたしは頷きました。

 精霊王と契約しているといっても、普段は巫女姫として授かった癒し術ばかり使っているので、もっと暴れたいと主張してくる彼らには常々申し訳ないと思っていたのですが……。でも結局、彼らの出番はなかったですね。


「ああ、そうだな。そもそも巫女姫であるルーシエを拘束しようとする者など、余程の愚か者しかいないしな。そもそも、あのようなくだらない輩にルーシエが関わる必要などなかったんだ。まったく時間を無駄にしたな」


 まあ、バザック様達の所業は確かに酷いものですが……。

 憤慨する火の精霊王アルファンをわたしは宥めました。


「そうでもないわよ。バザック様達のおかげでいい精神修行ができたもの」

「……相変わらずルーシエは楽天的ですね。それがよいところでもあるのですけど」


 アオフェルが少し呆れたような口調で苦笑します。すると、風の精霊王のカリンが思い出したように言いました。


「そういえば、あの王子、マティアスのところに向かったみたいよ? みすみすやられに行くなんて馬鹿だよねえ。せいぜいいたぶられるがいいわ」

「そ、それはちょっと……」


 さすがにいたぶるのはかわいそうです。

 ……ですが、家の者やイスファ国王伯父様達は皆、バザック様にかなり怒ってましたから、ひょっとしてひょっとするかもしれません。


「……なんとか穏便に済ませたらいいのだけど……」


 わたしがそう呟くと、精霊王達が呆れたような顔になりました。


「あんなクズに同情なんかしないほうがいいよ。あれは、それすら利用するタイプだよ」

「ルキシスの言うとおりですね。あれは自分さえよければ他人などどうなっても構わないという人間の典型です」


 ルキシスにアオフェルが頷くと、カリンがさらに言い募ります。


「それに、いろんな人が迷惑をこうむってたみたいだし、あの馬鹿どもが駆逐されれば、それこそ万々歳じゃない? あんなの放っておいたら害にしかならないよ」

「そうだな。あの阿呆は地位だけはあるからな。それを利用して、やりたい放題。自分のやっていることを棚に上げて、よくもまあルーシエに『身分をかさに着て』などと言えたもんだ。オランディア国王から見放されるのも時間の問題だな」


 さらにさらに、アルファンが文句を言います。……これはもしかしなくても、彼らに相当なストレスを今まで与えていたのかもしれません。契約主として非常に申し訳ないです。


「あの……、バザック様のことであなた達に迷惑をかけたみたいでごめんなさい。もっと早く婚約解消すればよかったわね……」


 大神殿もバックにいることですし、お兄様を早々にあの国の王太子位に推すことも可能だったはずですしね。

 すると、慌てたように精霊王達が言ってきました。


「なんでルーシエが謝るの? 悪いのはあの馬鹿なのに!」

「あなたが自責の念に駆られることはことはないのですよ? 第一、あなたを守護することはわたくし達の務めです」

「そうよ! あーんなあんぽんたんのために、ルーシエが心を痛める必要なんかないんだからね!」

「俺達は自分のしたいことをやっているだけだからな。ルーシエは気にするな。……しかし、関わり合いがなくなってもルーシエの心労の元凶であるあの阿呆には殺意が湧くな」


 わたしを慰めてくれるのは嬉しいけど、あなた達バザック様に対して言いたい放題ですね。あの方、一応王太子ですよ? ……でもまあ、精霊王はそういうものには縛られない存在ですし、仕方ないのかもしれません。

 そして、わたしが口を開こうとしたその時、清涼なる空気が辺りに満ちました。

 あ、と思った瞬間に、精霊王達もそれを感じ取ったらしく、おしゃべりをやめてその場にひざまずきこうべを垂れました。そしてわたしもそれに続きます。

 それから大神官様が「あの方がお出でです」とおっしゃられた後に、わたしはかの方にご拝謁することになったのでした。


 あの方──そう、この世界の唯一神である、ヴェンケセシュ様に。

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チート過ぎるご令嬢、国外追放される 舘野寧依 @nei8888

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