第2話 反響

 番組は大騒ぎになった。

 その情報バラエティー番組「早く寝まショーね」は、第一テレビ、木曜夜11時50分からの50分間。

 メインMCを関西系人気アイドルグループの話芸達者二人が担当し、用意されたVTRを肴に、ゲストも交えてわいわいトークで盛り上がるという内容である。

 8月頭の放送で、問題のロケのVTRが取り上げられた。

 当初はお蔵入りの予定だった。

 一応編集されたVTRを見たプロデューサーは、

「こんなの使えるか!」

 と怒ってしまった。

 しかし、どうしたことか、他のVTRの編集が器機の不調で遅れに遅れ、スケジュールの厳しい人気アイドルのこと、収録の調整がつかず、仕方なく使用されることになったのだ。

 VTRを見た二人は猿山の暴れっぷりに、


「うわ、これはあかんやろ?」

「なあ、これ流して大丈夫なん? この人、ちゃんと生きてる?」


 と、終始顔をしかめながら退き気味にコメントした。

 番組放送中からネットの掲示板にも、


>生きてるのか、猿山!?

>生きてるに決まってんじゃん。死んでたら放送できるわけねえだろ?

>目立とう精神もここまでやり切ったら立派だわ

>勇気は買う。でもアホだ

>地蔵の祟りなんて信じてる奴いんの?

>猿山スゲー。リスペクトする

>猿山最高! くっだらねえ心霊なんてぶっつぶせ!


 と大いに盛り上がり、ネット使用者たちの間ではおおむね好評のようだった。


 触ると必ず祟りに遭う、と恐れられたO公園の「さわり地蔵」。


 果たして若手お笑い芸人猿山は無事だったのだろうか?




 年が明けて、4月。


「ども。猿山一郎です」


 テレビにはなかなか仕立てのいいスーツを着込んだ猿山の姿があった。

 第一テレビの火曜夜11時50分、猿山がメインのレギュラー番組が始まった。


「猿山の登ってこい!」


 ホストの猿山がジャンルを問わず「自分こそナンバー1だ!」と豪語する大口人間を招き、その道の第一人者に挑戦させようという内容だ。

 猿山は挑戦者を煽りに煽って大口を叩かせ、しかしたいてい口先ばかりで、本物のプロに惨敗して青くなり、それをまた面白おかしくちゃかして、奈落の底に突き落としたり、また頑張れよと励ましたり、猿山はそのさじ加減で視聴者の野次馬根性を大いに満足させ、また嫌みになりすぎない程度にチクリと一言言ってまとめる。なかなか上手いものだった。

 猿山はこのレギュラー番組以外にも、この半年間でバラエティー番組へのゲスト出演が増え、今やすっかり若手人気芸人の仲間入りを果たしていた。

 猿山の持ち味はその喧嘩っ早さと、次々論を展開して相手をとっちめる頭の回転の速さと、そんな勢いで突っ走る自分に照れてニヤニヤ笑っている愛嬌のあるところだ。先輩のベテランタレントにも喧嘩をふっかける危なっかしさだが、本当に危なくなると「ウッキー」とブリキの猿のおもちゃの真似をして誤摩化して、それで「コノヤロ」と殴るポーズで笑って済まされる得なキャラクターをしている。


 猿山のブレイクのきっかけになったのは例の有名心霊スポットでの危なすぎる行動によってだったが、それでこうしているのだから、けっきょく祟りはなかったのだろう。


 しかし、

 今、猿山のとなりに相棒の姿はない。

 あのロケの後、相棒蟹沢は愛想を尽かし、二人のコンビ「サルカニガッセン」は解散したのだった。


 蟹沢も猿山ほどではないにしろ、誠実な人柄で堅実にリポーターなどの仕事をこなし、そこそこお茶の間に顔を覚えてもらえるようになっていた。


 別々の道を歩きながらも上手く行っていて、めでたしめでたしというところだったが、しかし、蟹沢にはあのロケのことで未だにわだかまりがあった。



 オブザーバーを務めてくれた二人の女性霊能師、その師匠格の藤原玉恵が、亡くなっていたのだ。

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