これが当たり前だというのなら

ヒトツメ

帰宅ルーティン


18:00

仕事が終わった


今日は疲れた

昨日も疲れた


きっと明日だって疲れる


けれども働く。当たり前だから。



「はあ、今日も混んでるよ」


少し大きめの声を出してしまった

けど誰も聞くことは無い


わたしの帰る時刻の駅は人が多い、とくに。


だから何本も乗る電車を見送ることが多々ある

みんなわたしと同じように今から家に帰るんだ


あ、この人今日は眼鏡してない


あの人今日は違う車両なのかな


いつもの時刻でいつもの電車いつもの人達

自然と、変わったことがあればすぐ気付いてしまう


他人なのにね



あいにく今日は一日雨だ。

車内が雨の匂いでいっぱい、傘から落ちる雨水でキュッキュッと、揺れのせいで動く人の足元から聞こえる


空気が気持ち悪い。大丈夫、もうすぐ着く。もうちょっとだけ我慢だわたし。


___『次は〜○○駅〜〜』


わたしの降りる駅で降りる人はとても少ない。


ドアが開くが誰も退いてくれる気配なんて無い。


「あの、すみません、降ります。すみません。」


いつもの事だ。


半ば無理やり退かない人を押し退けてドアに向かう。

右側から小さな舌打ちが聞こえるが関係無い。

わたしは降りなくてはならないのだ。


「ちょっと、踏まないでよ」


わたしが無理に進むせいでぶつかった男性がよろけ、後ろに居た女性の足を踏んでしまった様子。


その女性は足を踏んだ男性をジリジリと睨んだ後、わたしの顔もついでに、と見て睨む。

まるで、「あんたのせいで踏まれたじゃない」

と言っているかのよう。いや、言ってるな。


「だったら退いてよ、、」

とわたしも心の中で言い返す。




やっと出れた。

空気がおいしい。


乗り換えはなく、1本で着く。

その間に4駅通るのだが、20分ぐらい。


ごく稀に空いている時は、席に座り小説を開く

20分読み続ける。そしたらすぐだ。


が、満員の日が殆ど。そして満員とかいうレベルじゃないぐらいの満員の日なんて、20分が2時間に感じるほど長い。そして辛い。

でもわたしは乗り続ける。

帰らなければいけないから。家に。


わたしの家では無い。

誰の家?


わたしの事を待ってくれている人の家。




最寄り駅を出て目の前の信号を渡る。

すぐ側には誰もいない交番。意味あるのかと通る度に毎回思う。

そう言えば雨が止んでいる。季節は秋。の終わり頃


この時期の雨は嫌だ。


大量の落ち葉に雨が滲みていて歩くのが気持ち悪い。

それにわたしの通る道はとくに木々が沢山ある為、春には桜が、夏には蝉が、秋には落ち葉が、冬は、まだ過ごしていないから分からない。

とにかく季節をしっかりと感じさせてくれる通り道という事だ。

車道を挟んだ向こう側の通りにあるお洒落なテラス。いつもそこで男女達がお酒を飲んでいる。

何を話しているのか知らないが、楽しいんだなと感じるのは確かだ。

それを横目にわたしはマフラーに顔を埋める。


別に羨ましいとかは無い。

だって家に帰れば幸せが待っているんだもの。


そして住宅街に紛れ込んでるデンタルクリニックから出てくる小学二年生の息子とその母。今日は泣いてないんだ。

いつも息子がグズグズ泣いていて母が頭を撫でるんだ。

もう虫歯治ったのかな。

いや、他人のくせになにを思っているんだわたしは。

デンタルクリニックを通り過ぎ右に曲がると、コンビニがある。

その横が家だ。


12階建てのマンション。部屋は8階。


「こんばんは〜」

「あっ、こんばんは」


また言うがここはわたしの家では無い。

が、当たり前のように住人と挨拶を交わす。


ちなみにこの住人とはしょっちゅうすれ違う。

見た目的に、多分ホスト。


お仕事頑張ってください、と目で伝えてからエレベーターに乗る

外の風音が嘘だったかのようにシーーーンと、機械の音だけがする。

「はあ、、」

これは嫌なため息では無い。やっと今日が終わった、という安堵のため息だ。


エレベーターを降り、すぐ隣の801号室の前に立つ。

手がかじかんでしまってなかなかズボンのポケットに手が入らない。


目の前からガチャガチャと音がしたと思ったらドアが開く


「あ、、ごめん、鍵出してるとこだった」

「外寒いでしょ。おかえり。早く入っておいで」

「ただいま。はぁ〜、なに、暖かい」

さっきまで凍っているように寒さで硬直してた顔が、部屋の暖房のおかげで緩んでいく。


「なんでわたしがいるの気づいたの?」


コートを脱ぎながら彼に問う


「なんか玄関先で、「取れないよ〜」「寒いんだけど〜」って、騒いでる人がいるなって思って覗いたら君だった。」


どうやらわたしは一人言を言いながら鍵を出そうとしていたらしい。


「今日とくに電車混んでたよ。雨だし寒いし、大変」


「それなのにわざわざ、ごめんね来てもらって」


「なあに、いつもの事じゃん。あ、ご飯は食べた?」


「ううん、まだ。なにか食べる?」


「食べよう。作るのもあれだし、頼む?」


本当に、今日は一段と疲れた為何も作る気も起きない。出前を頼むか提案した時、昨日スーパーの特売で買いすぎた野菜たちがまだある事を思い出した。


「うん、そうしよっか。なにが食べ「待って待って」、、ん?」


「昨日買いすぎた野菜あるじゃん。ちょうどいいや、鍋食べよう。」


「おぉ〜いいね鍋。賛成。何鍋?」


「うーん、豆乳鍋は?」


「美味そう。それにしよう。」


今夜は豆乳鍋です。

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