第45話

 魔法の扉を出してカチャッと扉が開き、先輩と私の部屋から魔法屋へと向かった。

 扉が開くといつものように、ラエルさんが向かい入れてくれる。


「いらっしゃい、兄貴、ルーチェさん」

「よっ、シエル、ルーチェちゃん。もう俺が話せることはもうバレているから、このまましゃべるな!」


 カウンターレジにいた子犬ちゃんは鳴かずに普通に言葉を話した。


「さて、みんなも集まったことだし話を始めよう」

「そうだな、先ずは紅茶を入れてからだな」


 先輩の紅茶が入ってから、話は始まった。

 


 ♢



 先輩達は海を渡った先にある、ストレーガ大国から王命を受けて、ベルーガ王子にあう女性を探しに、この国にやってきたと言った。


「この子犬が、ベルーガ王子なんだ」

「えっ⁉︎」


 ベルーガ王子⁉︎ 


「子犬ちゃんって王子だったの! これは失礼しました、ストレーガ大国のベルーガ王子」


 スカートを持って、カウンターに座る子犬ちゃんに会釈した。

 その姿を見てベルーガ王子は苦笑いをした。


「ルーチェちゃん、いつものように普通に接して、変にかしこまらくていいよ」


「え、でも。私は知らずとはいえ王子に、色々と失礼な事をしてしまって」


 その言葉に黒い霧を纏った先輩に気が付かず。私はベラベラと話してしまう。


「大国の王子を抱っこしたり、お腹に顔を埋めたこともあったし、可愛いお尻も撫でた、それに……」


「まっ!」


 ベルーガ王子は慌てて小さな手を振り、私の言葉を阻止した。


「ルーチェちゃんストップ! それは、もう済んだことだから。シエルもそう怒るなよ」


「別に怒っていない、羨ましいだけだ」

「先輩! それ、本音なの⁉︎」


 互いに顔を見合わせて、頬を赤くしてしまった。

 だって、私が先輩を抱っこ? お腹に、ってそんなのまだ出来ないし、逆にされると恥ずかしい。


「慌てなくていい。俺達は徐々にだな、ルー?」

「え、私は先輩のお腹に顔なんて埋めないから! あっ、ちがっ」


 想像していたことが、スルッと口がら出てしまい、両手で口を覆った。


 驚き表情の先輩と、笑うラエルさんと子犬ちゃん。

 

「気を付けろ! ルーチェちゃんのスキンシップ、結構激しいからな」

「茶化すな、ベルーガ!」

「は、激しくなんかないわ! 子犬になら誰だってするでしょう! しない? するよね先輩」


 三人で見合っていた「ぱん!」とラエルさんが手を叩く。


「ほら、ほらベルーガ、兄貴、夜も遅いんだから話を戻すよ」


「すまん、ラエル」

「ルーチェちゃん、いま僕達の国はベルーガの元婚約者によって、王家の人々、貴族、国民達はみんな、石に変えられてしまったんだ」


 大国の人々が石に変えられた? 


「それにベルーガは元気にしてるけど、その元婚約者に呪いをかけられてる……ん? んん? どうして? あれ、兄貴ベルーガを見て」


 先輩は、ラエルさんに言われてベルーガ王子の体を見た。

 一瞬目を開き、ベルーガ王子の体を何度も角度を変えて確認した。


「あぁ? ここに見えていた呪いの魔法陣が、なにかに雑に拭き取られてるぞ? どういうことだ? ベルーガ?」


「お、俺に聞かれても知らないよ!」


 ベルーガ王子は首を振り、次に先輩は私を見た。


「ルー、お前ベルーガに何かしたか? ほら、体を触るとか、何かで拭くとか?」


 何かで拭く? そういえば。


「この前、泊まりに来た時に二人でじゃれあって汗をかいたから、タオルでベルーガ王子の体は拭いたけど」



「「それだ!」」



 先輩とラエルさんの声がハモった。



 ♢ 



 どうやら私がベルーガ王子の呪いを消した? それもタオルで拭き取ったらしい? そんな事を言われても信じれない。

 魔法が使えるのも、さっき聞いたばかりだ。



 黙っていた、先輩は何か思い付いたかのように笑った。


「あ、そういや、ウルラがルーと子犬がじゃれていたと聞いたな。そのときにタオルで拭き取った後なんだな、そうか、そうか」

「そうなんだ、兄貴」


 なんで? 同じ事を繰り返してるの? 


 先輩は子犬ちゃんの後ろ足を両手で持って、逆さ吊りにしちゃってるし。

 ラエルさんも、うんうん頷くだけ。


「シエル、ごめん。約束を破って悪かった! 最後だと思ったからであって、ごめんて、だから下ろしてください。ラエルもシエルに言ってくれ!」


 謝り、謝りぬいて、ようやく先輩はベルーガ王子を下ろした。


「ベルーガ王子、大丈夫ですか?」

「ルーチェちゃ~ん。見た、見たよね。シエルもラエルも俺の扱い酷いだろ!」


 泣きながらカウンターから、私の胸に飛び込んできた、子犬姿のベルーガ殿下を受け止めた。


「そーやって気安くルーに抱きつくな、ベルーガ!」  

「いいじゃん、ケチ!」

 

 体をガッチリ先輩に掴まれて、胸から強引に引き剥がされる、ベルーガ王子。


「先輩! 乱暴に扱っちゃダメよ」

 


 ーその時


『あーっ、さっきからうるさい。私、気持ちよく寝てるんだから静かにしなさいよ』



 どこかで聞き覚えのある女性の声が聞こえた。この声って鳥籠に捕まっていたときに、イアンと会話をしていた女性の声だ。

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