第43話
先輩の……ぬくもりは心地いい。
静かな部屋に聞こえるチュッ、チュッと、リップ音だけ聞こえる……。
「ん……ふっ、はぁ……」
「はぁ、ルー可愛い」
先輩のぐいぐい押してくる力強いキス。
これは、小鳥の様な可愛いキスじゃない。
先輩激しい!
足元はふらつき、何かに足を取られて、視界が反転する。
「わぁ、きゃっ!」
「おっ!」
倒れた先はベッドの上、二人分の重さにボフンとベッドは揺れて、音を出した。
下から見上げた驚き顔の先輩。いつもの薬品の香り、先輩の香りだ。
この、どくんどくんと早い鼓動は、どちらのものかわからない。
「先輩、大丈夫?」
「「わ、悪い! ……ルー、直ぐに退くな」」
慌てて、上から退こうとする先輩の背中に、手を回して捕まえた。
「ルー?」
「ダメ! もう少し、このままいて先輩」
「ダメだ。俺がルーを抱きしめたい」
(えっ⁉︎)
くるんと体を回されて、今度は先輩が下で私が先輩の上になる。
これって王城の時と同じ、前も思ったのだけど……
「重くない? 先輩」
「軽い、軽い……。なぁ、ルー。俺はかなりの変わり者で、気難しい」
「……先輩?」
先輩の赤い瞳が揺れていた。
まだ私を連れて行くか、行かないかを迷っているの? それとも?
「嫉妬も深くて、情けなくて……魔法しかない男だ」
(もう、先輩は自分の自己評価が低すぎだよ)
これ以上言わせないと手を伸ばして、先輩の口元を手のひらで覆った。
「ぐー?」
「先輩は言わなくていいの、これからゆっくり知りたい。先輩だって知らない、私を知りたいでしょう」
先輩はコクンと頷き「そうだな」と、口元を覆う手を掴み。
手の甲にキスを何度も落とした。
くすぐったく感じるのとは、別に背中がぞくりした。
「んっ、せん…ぱ、い……やっ…」
「この艶っぽい声……もっと聞きたい、俺の知らないルーを教えてくれ」
初めてみる欲情を含んだ先輩の瞳。
強引に引き寄せられて、首筋に当てられた先輩の唇。
熱い舌に、吐息。
「あっ……ん、先輩、待って……んんっ、ラエルさん達が魔法屋で待ってるんじゃ……ない? ……? え、ええっ、あれ、先輩⁉︎」
先輩の体の力がいきなり抜けて、耳元ですーすーと寝息が聞こえてきた。
「嘘っ、先輩……寝ちゃったの?」
嘘、揺すっても起きない、だんだんと温かくなる先輩の体温。
その気持ちのよい微睡み、まぶたがしだいに落ちて。
深い眠りへと誘われていった。
♢
二時間後。カチャッと部屋の扉が開く。
「もう、起きたっすか?」
「そりゃ、起きてるだろう」
「そうだよね、兄貴」
魔法屋からやって来た僕達が見たものは。
ベットで眠るルーチェさんを脇に座り、愛おしそうに見つめて、髪を撫でる兄貴の姿だった。
さっき来た時、ベッドで一緒に眠る、兄貴の姿にも驚いた。
(そんなに気を許せる相手。僕にはまだわからない感情だ)
それを知ったら、僕も兄貴のように変わるれるのかな?
扉の前で立ち尽くす俺達に。
「悪いなラエル、ベルーガ、ガット二度も来てもらって、ルーが起きるまで、もう少しだけ待ってくれないか?」
なんだ、兄貴は気づいてたのか……。
「「えーっ!」」
「わかったよ、兄貴。ベルーガ、ガット帰ろう」
そう言っても動こうとしない二人。
ガットはルーチェさんに抱っこして、もらおうと思っていたんだね。
残念だけど、兄貴は許さないと思うよ。
「はいはい、二人共帰るよ」
「嫌だ!」「抱っこ!」 と、文句を言う二人を、脇に抱えて魔法屋に戻った。
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