第33話

「親子丼て何?」


 お風呂上がりのラエルさんは始め聞いた、親子丼に興味を持ったみたい。

 それは子犬ちゃんも同じで、カウンター上で「それは何んだ?」と鳴いている。


 二人に親子丼の説明をして、次の私の休みに作りに来るからと、その日は解散することにした。

 先輩はラエルさんに用事があるからと、子犬ちゃんと魔法屋に残ると言った。


「またね、おやすみさい」


 私はみんなに手を振り、魔法の扉を閉めて、自分の部屋に戻った。



 ♢


 

 魔法屋に残った三人はこれからの事を話を始めた。


 それは夜な夜な、ベルーガに訪れる胸の痛みと高熱……やはり直ぐに国に帰り、ナタリーにこの魔法を解かせるしかない。


「兄貴、国へ帰ろう」


 俺は頷く、この話に関してはラエルに賛成しか無い。


「そうだな。いろんな魔法を試したが、この呪いは俺達には解けない。ベルーガのことを考えるなら国に帰るしかない」


 ベルーガはしゅんと頭を下げた。


「ごめん、シエル」

「バカ、謝るな。ルーも大事だけと、お前の命も大事なんだ」


 近々、ルーに国に帰ると話すしかないか。


「次の三日後の休みに、ここでルーに話す。ラエル、ベルーガもし、ルーが付いてきたいと言ったら……連れて行ってもいいか?」


「俺はかまわん、ルーチェちゃんに抱っこしてもらう」


 抜け抜けとこの王子。


「僕もいいよ。彼女に変わった料理を作って、もらいたい」


 くそっ、二人してルーを気に入ったんだな。渡す気はないけど。


「取り敢えず、いつものをベルーガにかけて城に帰るよ。城を出る準備をしなくてはならないから」


 あまり効果が見えないが、ベルーガの呪いの効果を遅くする魔法をかけて、俺は城へと戻る。


「まずは部屋の片付けだな」


 次の日の朝、ラエルの使い魔ガットから報告があった。

 その夜、なぜかベルーガは胸の苦しみも、熱も出ず。

 ぐっすり眠れたという話だ。


 

 まさかな、偶然か?


 俺の胸にあった火傷のあとが消えた日、ベルーガの呪いが一日だが薄まった日。


 どちらにも、ルーが側にいた。



 嫌々、早まるな、これはまだ実証は出来ない。


 しかし、ルーには癒しの力があると、考えた方がしっくりくる。



 それではまずい。

 この事を知られれば益々この国が、ルーを手放さなくなる。


 少し、嫌だがベルーガで実験をするか?


 ラエルに提案をしたら、直ぐにやってみようと、ベルーガと盛り上がりやがる。


「触るな、舐めるな、夢の中には絶対に入るなよ」

「わかってるって、一緒に寝てみればいいんだろ」


 あっけらかんと答えるベルーガに、少しムカついたが、実験だと考えることにした。


 次の日、ベルーガにはルーの部屋に帰って、もらうことにした。



 ♢



 仕事終わりに部屋に戻ると、ベッドの上にちょこんと子犬ちゃんがいた。


「あれっ? 子犬ちゃん帰ってきたの?」

「キャン、キャン」

 

「わかった、今日は泊まってくのね」


 今日の晩ご飯はキノコの炊き込みのおにぎり五個に、汁物をお味噌素汁にして、きゅうりとタコの酢の物を使った。


 メインの肉じゃがが残らなかった。ほくほくジャガイモに、玉ねぎ、にんじん、白滝、豚肉。

 味が程よく染みた、甘辛が食べたかった。


 大きな鍋で多めに作ったのに全て完売した。

 残ったら、カレーに作り替えて、食べても良かったのに残念。


「子犬ちゃん、飲み物はストレートティーでいい?」

「キュン!」


 五徳とアルコールストーブにヤカンを出して、お湯を沸かして紅茶を入れた。


 夕飯は二人であっという間に完食。

 足りない二人は、タンスを開けてお菓子をつまみ始めた。


「相変わらずの食欲だね」

「キャーン」


「まあ、私もだってそりゃ人よりは食べる方だけど、子犬ちゃんには負けるわ」


「キュン、キュン」

「私の方が食べてるですって、それにふとった⁉︎ もう子犬ちゃんまで福ちゃんみたいな事を言うの!」


 

 今日の朝、福ちゃんにまた、太ったと言われた。


「キッ、キューン」

「子犬ちゃん気にしてたのに、笑ったわね。くすぐっちゃうぞ!」


 こちょ、こちょとくすぐり、怒った子犬ちゃんに、ペロペロと頬を舐められた。


「やったな、子犬ちゃん!」


 しばらく戯れ合いが続いた。

 息を切らして、ベッドに寝転ぶ。 


「キューン」

「ふうっ、いい運動になったね」


 汗をかいたとタンスを開けて、汗拭きのタオルを取ると。

 それに気が付き、子犬ちゃんは後ろを向いた。


「向かなくてもいいのに。ほら、子犬ちゃんも拭く? おいで」


 手を広げると飛んできた。

 膝の上で、子犬ちゃんの顔に体を拭いた。


「キューン」 

「気持ちいいの? 可愛い」



 自分の汗も拭い、ベッドに潜り子犬ちゃんを抱っこして眠っていた。



 真夜中、コツコツ、コツコツ窓を叩く、福ちゃんの音。


 こんな夜中に来るのは初めてで、どうしたのと、いつもの窓を開けた。

 暗闇で見えないけど足音がする。


 部屋の下をザッザッと歩く、多くの足音が聞こえてきた。

 その足音はこの部屋に近づいてくる様だ。


「な、なに?」


 横に眠る子犬ちゃんを抱っこして、鍵、先輩に貰った鍵で魔法屋……に。


 人は恐怖すると手が震える。

 私の手も震えてしまい、鍵を落として、鍵はベッドの下に入って入ってしまった。


 足音は直ぐそこ、階段を上がり部屋の前で止まった。


 

 ガチャ、ガチャと扉を開けようとしてる。



「小娘、逃げるぞ!」



 えっ? バリィーンと窓を蹴破り、福ちゃんが部屋に入ってきた。

 私達をくちばしで咥えると、空高く飛び上がった。

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