第17話

 私は先輩に聞いた。


「私を探すだなんて、カロール殿下のお相手のリリーナさんはいないの?」

「あーリリーナ様か……いることには、いるんだがな」


「いるのならなぜ? 私を探す必要が……あっ」


 まさか、あの子。

 次期の王妃になるための教育が大変で、やりたくないと投げ出した?


 王妃になる為には社交、教会関係、謁見など国に関わることや覚えることが多い。


 隠しキャラ、イベント、フラグと叫んでいたし、リリーナさんが転生者で、王子との結婚、その先まで考えていなかったとしたら……? 


 貴族や大臣達が黙っていないわ。


 それに較べて、小さい頃から王妃になるべく厳しい教育を受けた私。

 カロール殿下は私を見つけ出して、リリーナさんの代わりにして大臣達に結婚を認めさせたい。


 私はそのための使えるコマ。だから必死に探すの? 


「ルー、心配しなくいい」

「先輩?」


「あいつは自分のことしか考えない、自分勝手、自己中で身勝手な男だ。ルーほんとうに気をつけて欲しい……俺もできるだけ見守るから」


 先輩が? 


「だったら安心だね」

「おい、だからって気を抜くなよ。ルー」


 私は先輩の目を見て頷く、それを見て先輩の手が伸びて頭を撫でてくれた。


 懐かしい、学園でも先輩はよく撫でてくれた。ルーと私の名前を呼んで赤い瞳を細めた。


「残念だな。楽しい時間は早く過ぎて困る。ルー、遅くなったし帰るよ」


 はい、と頷く。帰ろうと立ち上がる。先輩にまた会えると聞こうとした。


「そうだ、帰る前にルーに渡す物があったんだ」


 そう言い、先輩はローブの袖からジャラッと、沢山の鍵の付いたキーリングを取り出した。その中から一つ外して。


「この鍵にはまだ登録してないな」


 登録? もしかして先輩が魔法を使う?


『アセール・クレ・ポルタ』


 魔法を先輩が詠唱すると、合わさった手の間に、魔方陣が現れそして消えていった。


「うむ、これでいいだろう。ルーにこの鍵を渡す」

「先輩、まさかこれって魔法の鍵?」


 鍵を受け取りマジマジ見ると、先輩は頷き口角を上げだ。


「そうだ、それは魔法の鍵だ。この部屋の壁と魔法屋の扉をつなげた」


「じゃー、外に出なくても魔法屋さんに行けるの?」


「そうだ、壁にこの鍵を近づけると魔法屋に繋がる扉が現れる、後は鍵で開ければすぐに着くから」


 それだけ言うと先輩は手をパンと鳴らすと、先輩が用意してくれたティーセットが一瞬で消えた。


「俺は帰る。絶対にその鍵をなくすなよ、大切にしてくれ」


「わかりました。大切にします先輩」


 先輩から貰った鍵をきつく握りしめた。


「またな、ルー」

「あ、待って」


 作った唐揚げ入りのおにぎりを二つ、お皿に乗せで先輩の前に出した。


「先輩の夜食にしてください」

「ルーのご飯……俺が貰ってもいいのか?」


「はい、食べてください」


 どうぞと頷くと、先輩はおにぎりを乗せた、お皿を受け取ってくれた。


「ありがとう、あとでいただくよ。それではお礼に、もう一つ魔法を見せよう」


 先輩が壁に手をかざして魔法を詠唱すると、壁に波紋が広がった。その波紋が消えるとそこには豪華な茶色の扉が現れた。


 あ、この扉は見覚えがあった、王城の個室の扉だ。この先は先輩の部屋?


 先輩はキーリングから鍵を一つ手に取ると、現れた扉の鍵穴に鍵を差し込み扉を開けた。


 その開かれた扉かの先から、薬品の匂いがした。


「よし、繋がったな」


 先輩は帰る前にこちらに振り向き、私を見ると呆れた顔した。


「くっく。まったくお前は、魔法のことになると瞳が輝くな。おやすみ、ルー」

「おやすみなさい、先輩」


 先輩が戻る前に、切れ長の赤い目が私をじっと見た。でも、先輩は何も言わずに扉の中へと消える。


 それと同時に扉も消えて、薬品の匂いも消えていった。



 ♢



 それから数日が経ちガリタ食堂の定休日。日課の福ちゃんとの挨拶もしたし。

 照り焼きチキン、生姜焼き、甘い卵焼き入りのお弁当と鍵を持ち、部屋の壁の前にいた。    


 先輩に貰った魔法の鍵。


 時刻は十時過ぎこの鍵を使って、魔法屋さんに行き、店内をゆっくり見せてもらおうと思ってる。


 そのお礼にとお弁当も作った。魔法屋さんの好きなものは知らないから……先輩の好きなおかずをたくさん詰めた。


「子犬ちゃん、魔法屋さんに行くわよ」

「キュン」


 この前に先輩がやった通り鍵を壁に近づけた。波紋が広がり部屋の壁に扉が現れた。


「この先が魔法屋さんなんだよね」


 ドキドキする、鍵穴に鍵をさして回した。

 ガチャッと鍵の開く音がした、私はドアノブを回して扉の中へ……。


(うっ、眩しい⁉︎)


 扉が光り強い光に目を瞑る。後ろでパタンと扉の閉まる音が聞こえた。

 ツーンと強い薬品の匂いがする。私は恐る恐る目を開けた……。


「研究室?」


 目の前には本や書類が散らばる研究室があった。


 中を見ようとしてカサっと何を踏んだ。


 紙? 拾うと、複雑な紋様が描かれた魔法陣が描かれている。他にもたくさん魔法陣の紙が床に散らばっていた。

 それを拾い近くの机に置く。

 

「ねぇ、子犬ちゃん。ここって魔法屋さんの研究室かな?」


 いつもなら「キュン」と鳴く、子犬ちゃんの返事がない? 足元にいるはずの子犬ちゃんがいない。


「子犬ちゃん?」


 探してる研究室の中を歩くと、本が溢れた本棚の近くのソファーには、シャツにズボンの黒髪の男性が、紙に埋もれて寝ていた。

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