3話 朝起こったことを思いだす -1
今日の朝。
僕はいつもどおり教室の自分の席、窓際の一番前という最高の座標で、一人気楽にラノベを読んでいた。
窓際の一番前のなにが良いって? この席は、顔をあげても誰も見なくて済むんだ。クラスの連中がわいわいしてるのを眺めたって、僕になんの得もない。見たところで心に浮かぶのは「はいはいリア充最高、ごちそうさま」くらいのものだ。
しかしあれだよな、ついついジャケ買いしてしまったけど、最近のラノベも異世界転生とか転移とか、テンプレなものが多いよな。ま、残念なことにリアルを生きる僕には関係ないけど。興味はハンパないけどね。
二章を読み終わったタイミングで、チャイムが鳴った。もう少しで担任が来てホームルームが始まる。
「よし、じゃあ寝よっと」
「アホかっ!」
「うわぁ!」
僕の額と机のあいだにシャーペンがセットされて、すんでのところで頭を止める。刺さった、シャーペンの先がおでこに少し刺さった!
「な、何すんだよっ!」
刺突箇所をさすりながら顔をあげると、そこには腰に手を当てた少女が肩を怒らせて立ちはだかっていた。やたら背の低い少女で、さっぱりとしたショートカットが背の低さをさらに際立たせてる。これが、いま僕と公園で話してる幼なじみの凛りんだ。
「己慧琉、あんたホームルーム始まる前に寝始めるって正気なの!?」
「なんだ凛か」
「なんだ、じゃない!」
そう言いながら、凛はシャーペンの先を無遠慮にびしりと向けてくる。
まったく、この不肖の幼なじみは……。どこらへんが不肖かというと、こうして僕の安眠を邪魔してる時点で分かるでしょ。まったく、どうしていつもこうして僕の平和な学生せいか…………
「寝るなっ!」
「寝てないっ!」
容赦なく迫ってきたシャーペンの先を、すんでのところでつかむ。
「あっぶな、シャーペンの先が痛いの知らないの!?」
「眠気の気付けになるでしょ」
ざまあみろ、とばかりに凛りんが鼻で笑う。
この少女はいつもこんな感じだ。僕は幼稚園からの腐れ縁だと思ってるけど、凛は僕の保護者かお目付け役か監視員かなにかだと思ってるのか、いつも僕の平穏を邪魔しにくる。まったく、今日からネトゲのギルドバトルが始まるってのに、これで夜中に寝てしまったらどうしてくれるつもりなんだ。
「あんた、まだそんな精神に害しかないもので遊んでんの?」
「あれ? なんで聞こえたんだ?」
「あんた、また口に出てたわよ」
……気をつけよう。たまに出てしまうのだ、思ったことを口にしてしまう癖が。
「とにかくっ! ホームルームなんだから寝ちゃダメだからね」
「は? そんなこと言いに、わざわざ来たの?」
「そうよ、わざわざよ」
そうか、わざわざ来たのか。……来なくていいよ、まったく。だいいち、凛の席は僕の真逆の位置なのに、僕が寝ようとしたことがなんで分かったんだ?
「だてにあんたと一四年も幼なじみしてないわよ、あんたの行動なんか手に取るように分かるんだから」
「知ったようなこと言っちゃって。お前は僕のヨメにでもなるつもり?」
「な、よ、嫁!? あんたの、ヨメ!?」
「は? なんで顔赤くなってんの?」
「……! ううー、このっ!」
「姶良あいらくん」
まるでどこぞの必殺の仕事をしてる人のごとく凛がシャーペンをシュピン! と持ち替えたタイミングで、横から声がかかった。
振り返ると、そこにいたのは国府徹(こくぶとおる)、僕のクラスの学級委員長だった。
「ちょっといいかい」
長身で学年二位の成績、サッカー部の副部長も務めてる学級委員長サマが、毎日ケアしてるのだろう髪をかきあげて、凛を軽く睨みつけてる。こいつ、いつのまにそばへ来てたんだ。
いきなり声をかけられて、凛が少し戸惑ってる。……あまり見たことない反応なので、僕の机まで勝手に近づいてきた学級委員長の無礼を許してやろう。
「そこの万年ぼっちはもういいとして、キミまでチャイムが鳴ったのに席を立つのはあまり褒められた行為じゃないね」
「え……だって、己慧琉が寝ようとしたから……」
「それを注意するのは学級委員長たる僕の役目だ。君は席へ戻って」
くやしそうに凛が国府を睨んで、次に僕を軽く睨んで、それ以上なにも言わずに僕の机から離れていった。あいかわらず気が強いなぁ。
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