2話 幼なじみの女の子
「まあ、状況的に考えたら原因はアレだね」
飲み干したジュースの缶をゴミ箱に捨てながら、僕は冷静に結論を下した。
通りがかった人が聞いたら、なんの話をしてんだって思われるよね。だって「結論はアレ」なんて、意味わかんないもんね。
でも、目の前にいる背の低い幼なじみは、それを聞いてふっかーいため息をついた。
姶良凛(あいら りん)は友達を作らない僕にあって唯一の幼なじみだ。……友達じゃないのって? いや、幼なじみと友達は違くない? その証拠に、凛はかなりかわいい? らしく、その背の低さも相まって学校の男どもに人気らしいけど、僕にはその理由がさっぱり分からない。
まあ、その違いはともかくとして、先生を除けば僕が学校で言葉をかわす唯一の存在だ。その凛が、最近切りそろえたらしいショートカットの髪をいじりながら、ふっかーいため息をついたのだ。
「だよね……やっぱアレだよね?」
こんな感じで、凛もアレというのがどれ、と説明するまでもなく分かってた。
「アレしかないでしょ。こんなことが起こる理由なんて」
「だよね……」
凛はまたふっかーいため息をついて、腰を下ろしてるブランコをキコキコと揺らした。
ここは、僕と凛との家(メンドくさいことに隣同士だ)から少し離れた、けっこう大きめの公園だ。
最新式的な遊具もそれなりにあって、普段ならカラダのおっきな子どもたちが、やれスケボーだのやれストリートダンスだのでリア充をかましてるのがみられるけど、今日にかぎっては誰もいず、僕と凛りんの貸切状態だった。
ただ。
今の僕と凛には、このだれも来ない公園がおあつらえ向きなんだ。今の僕らにはね。
しばらく黙ってた凛が、ブランコを止める。
「あのときの、教室いっぱいに浮かんでたのって、やっぱり……己慧琉から借りてたアニメとかに出てた、魔法陣……てやつだよね」
僕が貸したアニメとは、去年の秋から放送してた『異世界でチートを手に入れたが稲を育てることにした』というやつだ。
稲を育てる、とはたんなる比喩で実際には、異世界転移した主人公が一つの村を開墾し都市にまで発展させるというストーリーだ。泥くさい題名と裏腹に美少女キャラが満載で、無駄にほどよく軽いエロも混ざってるので妙におもしろく、DVDに焼いて凛りんにあげたのた。
貸した翌日には「なんなのよあの超ムダなエ……よけいなシーンは!」と殴られたけど、なんだかんだでもちゃんと観続けてるのが凛らしい。
異世界ものなので、1話目で主人公は当然ながら異世界に飛ばされるわけだけど、そのシーンでド派手な魔法陣が展開される。凛が思い出してるのは、その魔法陣だ。
僕は凛に頷いてやる。
「まあ、そうだね。魔法陣だね。でもまあ、マヌケな話といえばマヌケだよね。あんなことがあったのに、地震ですっかり忘れちゃうって」
僕は、僕も含めたクラス全員に対して笑ってしまう。
そうなんだ。
ちょうど、朝のホームルームのチャイムがなろうとした、そんなタイミングで、あれは起こったんだ。
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