第28話 CFC襲来

 あたし達は猫達に別れを告げ、シャトルを飛び立たせた。

「サーシャ。状況は?」

「今のところ、開いたのは調査用ワームホール。とりあえず、第一波はキラー衛星が撃退したわ」

「そう」

「まあ、撃退したと言っても、なんも準備もしないでノコノコやってきた奴らだからね。次はそうは行かないでしょうね」

「そうね」

 あたしは時計を見た。

 《リゲタネル》の時空穿孔機が使えるまでまだ一時間かかる。

「せめて一時間、持ちこたえられないかしら?」

「それはCFC次第ね」

 あたし達はワームホールまで帰りついた。

 《リゲタネル》の操縦室に戻ると、メインディスプレイにプローブから送られてきたロシア側のワームホールが映っている。

 円盤タイプが果敢にワームホール内部にレーザーを打ち込んでいる様子が映っていた。

 第二波が来たんだ。

「慧。ちょっと一緒に来てくれる」

 慧が振り向く。

「どこへ?」

「《オオトリ》よ。サーシャ、ちょっとここをお願い」

「いいわ」

 あたしと慧は操縦室を離れた。

 《オオトリ》と《リゲタネル》のそれぞれのエアロックを連結した通路を通り《オオトリ》のブリッジへ入る。

 ブリッジの人達が一斉に振り向いた。

「あら、美陽ちゃん。どうかしたの?」

 あたしは慧のお母さんの方を向く。

「全員を集めてください。皆さんにお話があります」

 程なくして十名の乗組員が集まった。

 みんな不安そうな表情を浮かべている。

 正直、こんな事を話すのは辛い。でも黙っているわけにも……

 あたしは意を決して口を開いた。

「先ほど、ロシア側のワームホールが開きました。今はキラー衛星が交戦中ですが、向こうの恒星系がCFCの手に落ちるのは時間の問題です。そこであたしはこのワームホールを閉じようと思います」

 ブリッジ内に動揺が走った。

「でも安心してください。今はマーカーという装備があります。エキゾチック物質の細い棒です。これを挟んでおけばもう一度同じワームホールは開けます」

 技師の一人が手を上げて発言を求めた。

「どうしても閉じなきゃ駄目なのか?」

「ワームホールが開いたままだと、いずれは発見されます。そうなるとカペラ恒星系まで奴らが入ってくるか、あるいはマーカーを挟まないままワームホールを破壊され、二度と開けなくなる恐れがあります。そうなる前にマーカーを挟んで閉じようと思います」

「そういう事じゃ仕方ないか」「奴らに入ってこられちゃたまらんしな」

「三名だけなら《リゲタネル》に乗せることができます。誰かあたし達と一緒に来たい人はいますか?」

 乗組員達はしばらく話し合った。

 これは言うべきじゃなかったかもしれない。

 誰がこっちへ来るかで揉め事になるかもしれない。

 本当言うと、慧のお母さんだけでも一緒に来て欲しいと思って言ってしまった。

 このことで《オオトリ》の乗組員に亀裂ができなければいいが。

 結局、誰も名乗り出る人はいなかった。

 慧のお母さんがみんなの気持ちを代表して言う。

「美陽ちゃん。あなたの気持ちは嬉しいけど、私達は全員ここに残ります」

「本当にそれでいいんですか?」

「ええ。マーカーというのを入れておけば、またワームホールは開けるんですね?」

「ええ」

「それなら、私達はあなた達を信じて待ちます」

 お母さんは慧の方を向く。

「必ず、お母さんを迎に来てね」

 慧は頷いて答える。

 あたし達は《オオトリ》の乗組員一人一人と握手を交わして別れを告げ《リゲタネル》に戻った。

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