第44話「そしてタダシ王国の繁栄は続く」
フロントライン公国とのいざこざもようやく終結し、タダシ王国に平和が返ってきた。
早速、公国側の代表のオージンからはせめてもの
現在は最強硬度を誇る魔鋼鉄しかないためそれで回しているが、街を作るためには柔らかい金属も必要なのだ。
他には、軍船を作る技術者などの提供も提案されている。
今後はイセリナたちの故郷であるカンバル諸島も守らなきゃいけないし、シンクーたちが国際貿易港を作って世界と交易しようとしているのでそれもありがたい話だ。
こちらから何も言わなくても、タダシ王国が欲しがる物はなんでもかき集めて贈ろうという誠意を見せてくれているのはありがたい。
あのフロントライン公国が、本当に信用できる隣国となるかはこれからの経過次第だろう。
島の女の子を
現在の公王が病気で床に臥せっていると聞いたので、タダシ王国からは増産しすぎて若干余っているエリクサーを送っておいた。
辺獄にできた新興の農業国が軍事強国との戦争に勝利した評判は瞬く間に広がり、公国のみならず多くの国々から商人や移住者などがやってきてタダシは毎日大忙しだ。
王などと言われて城の椅子に座っているより、井戸を掘って新しい畑を切り拓き、村や街を作っていく仕事の方がタダシにとっても楽しい。
「これで、とりあえず今日の仕事は片付いたかな」
多忙なタダシ王とて、つかの間の休憩に愛妻のマールが作ってくれた甘いクッキーをおやつに、コーヒーを飲むくらいの
ゆっくりとコーヒーを嗜んでいると、エリンがトコトコとやってきた。
「ご主人様ー」
「おー、どうしたエリン」
「いつやるのかなって思ってるんだけど」
「何がだ」
可愛らしい犬耳の勇者エリンがタダシに絡みついて、耳元に囁いてくる。
「結婚式」
タダシは、コーヒーを噴いた。
「ケホケホッ、エリンお前! 俺がコーヒーを口に含んだタイミング見計らって言っただろ!」
「アハハッ、でも冗談じゃないよ。ボクはいつでもいいよ」
「この前はまだ
「だって、マールが夜のタダシ様が強すぎて死んじゃいそうだから早く助けてって」
「え、マールがそんなこと言ってたの?」
これでも抑えているつもりなのに……。
「うそー」
「なんだよ」
ちょっと真面目に心配したじゃないか。
本当に、エリンにはからかわれてばっかりだ。
「でも、マールは本当に喜んでたよ。ちゃんとボクがコーネルの仇を討てたから、ようやく二人で島のお墓にも報告に行けたんだ」
「そうか」
マールの元旦那さんだった獣人の戦士コーネルは、エリンをかばって戦死したそうだ。
コーネルの仇を討ったあの日から、エリンがすごく自然体になったというか、無理してまでふざけて周りを明るくしようとするところがなくなった。
「だから、ボクもこれでご主人様のお嫁さんになれるよ」
それと結婚がどうつながるのかよくわからないが、エリンも何かしら吹っ切れたということなのだろうか。
「わかったから、そのご主人様っていうのは止めてくれよ」
「あれー、おかしいんだ。結婚するんなら、ご主人様でいいんじゃない」
「ふーむ、それもそうか。いや、なんか違うような……」
主人ならまだわかるけど、結婚相手をご主人様とか言うか?
島の風習とか言われたら納得してしまいがちだが、エリンだけは嘘まで吐いてからかってくるから信用できない。
「ボクの結婚式の時はさー、またみんなでお祭りやる?」
「ああ、そうだな」
こうして平和が楽しめるのも、神様たちのおかげだから、またきちっとお供えをして盛大に祭りをやろう。
「お祭り楽しいからなあ。美味しいケーキもあるし、楽しみだなあー」
「ハハ、エリンは食べることばっかりだな」
そんなに喜んでくれると、こっちも料理の作り甲斐があるってものだからな。
そこに猫耳と尻尾を揺らして、商人賢者シンクーがやってきた。
「あーこんなところにいらっしゃったんですかタダシ陛下。ご所望だったイチゴの種、手に入りましたよ」
「おおー、それはありがたい。じゃあ今度こそイチゴのショートケーキが作れるな」
「あーなんだあ、ご主人様はエッチだなあ。ボクが言わなくても、もう結婚の準備進めてたんじゃん!」
「いや、お前の言うことは人聞きが悪すぎるんだよ。違うぞ、俺は戦勝祝いを兼ねて純粋に神様の祭りの準備をだなぁ」
エリンとそんなことを言い合ってると、シンクーがムスッとして、タダシの腕を取った。
「なんかエリンさんとだけ仲良くてムカつきますニャ。タダシ陛下、うちとも結婚の約束したことをお忘れでないですかニャア?」
そう言って、腕を引っ張ってくる。
「ああ、わかってるよ。でもシンクーって何歳なんだ」
見た目が可愛らし過ぎるので、子供過ぎたらちょっと困るなと思って、タダシは尋ねる。
「ふふ、ケットシーは幼く見えますが、実際の歳は……」
耳元でゴニョゴニョと言われて、タダシはびっくりする。
「え、ケットシーってそんななのか!」
「さあて、本当か嘘かは、結婚した後の寝物語にお教えしますニャー」
それに嫉妬したらしい、エリンがもう片方の腕を引っ張る。
「新参者のケットシーがでかい顔するなよ! ボクはずっと前からご主人様に仕えてたし、もう島獣人はマールとシップとボクで三人もお嫁さんなんだぞ」
「ニャハハ、数で勝負とは獣人らしい浅はかさニャー。まっ、ケットシーは可愛いですからすぐ数でも抜き返すニャー」
「なんだと! じゃあこっちは、もっともっと獣人のお嫁さんを増やしてやるぞ」
「質でも量でも負けるつもりかニャア。そんな勝負挑んで大丈夫かニャ」
「いや、お前ら喧嘩すんなよ」
あと勝手に張り合って、人の嫁を増やそうとするのはやめろ。
両手に可愛い犬耳娘と猫耳娘、男としては
きっと、これからもこんな賑やかな日々が続いていくのだろう。
大野タダシは、このアヴェスターに転生してきて新しい人達と会い、新しい人生を送っている。
毎日慌ただしくて、目まぐるしく色んなことがあって。
最初に考えていた田舎でまったりとスローライフな日常とは全然違うけど、これはこれで悪くないか。
「ご主人様!」
「タダシ陛下!」
「ああ、わかったよ。やれやれ、これでまた仕事ができてしまったな。早速、結婚式の準備に取り掛かるとしよう」
約束は約束だからな。
エリンとシンクーに犬耳や猫耳の付いた嫁を増やされないうちに、さっさと結婚をしてしまうかとタダシは祭りの準備を急ぐのだった。
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