第22話「資材と燃料の追加」☆
タダシは、絡みついてくるイセリナの手足を押しのけて這々の体で平屋から出た。
「うう……」
あんまり良く眠れなかったが、もうすでに日も高い。
偉そうにイセリナに一緒に寝ようなんて言うんじゃなかった。
「ご主人様おつかれー、はいお水」
エリンは、笑顔でタダシに水を渡してくる。
「イセリナの寝相すごいな」
「いっつも相手してるのボクなんだよ。ボクが勇者じゃなかったら死んでるよ」
細かくは思い出したくもないが、危うく強制的に繁殖させられるかと思った。
そういうのはもっとちゃんとしてからと思ってたんだが、あのたわわな胸は凶悪すぎる。
まるでおっぱい自体が意思をもったかのように絡みついてくる。
なぜあんなに大きいのに、あんな張りを維持できるんだ。
エルフと人間では身体の作りが違うのか?
忍耐力には自信があると思っていたんだが、これではタダシとしても
そのうち責任を取らなきゃならないことになるかもしれない。
そんなことをタダシが考えていると、フラフラとリサが出てきた。
「あ、リサ……」
こちらも、相当激しくやられたのか黒髪がボサボサになってしまっている。
「はい、リサもおつかれ。お水だよー」
「エリン様、すみません」
「リサも大変だったな」
「慣れてますので……」
勇者とか兵士とか、体力がないとイセリナと一緒に眠ることはできないってことか。
「ま、まあ今日も頑張るか」
「はい」
クルルに朝飯を食わせていたらようやくイセリナが起きてきた。
「す、すみませんタダシ様!」
「ああいいよ。イセリナ。畑の植え付けはあらかた終わったから、今日は酒造りの準備をしてみたい」
「はい!」
顔を真っ赤にして頭を下げるイセリナに、タダシは手を振って答えた。
さて、今日も忙しくなる。
イセリナに紹介してもらった、酒造りを専門にするマールさんは犬獣人の女性だった。
同じような分野を専門とする人だと、話が通じやすくていい。
「……というわけなんだけど」
「なるほど、王様の言うとおりの方法でお酒造りの準備をしてみます」
農業の加護☆を持つマールさんは、年の頃は二十八歳くらいか。
茶色の髪で獣人にしては優しそうな印象で落ち着いてみえる女性だ。
農業の神様を信仰する人は、みんな穏やかな性格なのかもしれないな。
同じ農業の加護を受けている仲間ということもあり、気安さもあって親しく話をする。
酒造りの話になると、楽しいのかゆったり長い尻尾を揺らす。
犬獣人ってわかりやすいからいいな。
「酒の材料はあと一日で収穫できる。早急に準備を整えないといけない。酒樽とかは、作ってみたのがあるが使えるかな」
「これなら酒蔵に十分使えますよ。準備しておきます」
「それは助かる。俺は道具作りをしてくるから、必要な道具があったら鍛冶場に来てくれ」
「わかりました」
今度は慌ただしく鍛冶場に向かう。
すると、鍛冶の加護☆のガラス職人のアーシャと数人が作業中だった。
「タダシ様。あ、いえ国王陛下!」
タダシが入ってきたことでみんなが作業の手を止めてしまった。
「いや、タダシで良いよ。みんな忙しいんだから作業の手も止めなくていい。それより、釘を作ってたのか」
「その他にも、みんなが張り切って仕事したおかげで、壊れてしまった道具を修理中です」
それで鍛冶の加護を持つアーシャが駆り出されたわけか。
今は村の各所で作業が急ピッチで進められているところだから、そりゃ道具も壊れる。
しかし、鉄を溶かして造り直すなんていかにも効率が悪そうだ。
道具は丈夫な魔鋼鉄製がいいと思えるのだが、俺が持ってきた魔鉱石も魔木も切れつつある。
こんな大規模作業、するつもりはなかったのでしょうがない。
「わかった、資材と燃料を山ほど持ってきてやる。おーい、クルル!」
俺が呼ぶと、相変わらず砂浜で飽きずに伊勢海老採りをしていたクルルがやってくる。
「クルル……」
「すまんがクルル。ひとっ走り北の森まで行ってくれないか。お前の足が必要だ」
「クルルル!」
クルルはよしわかったと鳴いて、俺をひょいっと背中に乗せて走り始めた。
まるでスーパーカーに乗っているような凄まじいスピードだ。
これなら十分で北の森まで着くぞ。
「クルル、川沿いを走ってくれ!」
「クルルルルル!」
この際だ。水も補給しておけと、マジックバッグを開いて川の水を底が見えるくらい根こそぎにする。
デビルサーモンも一緒に採れてお得だ。
「よーし。ありがとう」
最初に作った掘っ立て小屋の地点に戻った俺は、作った森と畑を
ズボボボボボボボッと、地中に疾風が走り森と畑の作物がひっくり返る。
少々乱暴だが、それをマジックバッグで全部吸い込む。
「よし、次!」
魔鋼鉄の
ザクッザクッ、ザクザクサクザクグシャァアアア!
地中に衝撃波が走って、北の森の魔木が大量にひっくり返った。
それらをマジックバッグで吸い込んでいく。
「よし、次! クルル一番近くの山に行ってくれ!」
「クルルル!」
この勢いは笑ってしまうな。
今日はもう、自分の限界に挑戦する。
黒い岩肌、この辺りの山は全て魔鉱石でできているのだ。
「喰らえ! 全力のディグアップショット!」
タダシの振り回す
辺りに魔鉱石が大量に散乱する。
「よーし! このまま吸い込んでいく!」
これマジックバッグの方がチートかもしれないな。
今度やろうと思っている祭りの時には、知恵の女神様にもお礼をしないとな。
なんだか吸い込まれたのが、黒い魔鉱石だけではなかったような気がするがともかく今は急いでるので全部吸い込む。
さすがのマジックバッグも、おそらく限界。もうパンパンだ。
興奮したクルルが吠えた。
「クルルル!」
「よーしよし。これで用事は終わりだ、村に戻ろう!」
タダシを乗せて疾走するクルルは、またたく間に村へと戻る。
「あ、おかりなさいタダシ様」
「アーシャ。資材と燃料持ってきたぞ」
マジックバッグをひっくり返すと、砂浜にドシャーン! ドシャーン! ドシャーン! と抜かれた樹木と、抜かれた魔木と、大量の魔鉱石の山ができた。
「うあああああ! す、凄い。何事ですか!」
ありゃ、アーシャたちまでひっくり返っている。
「北の森から取ってきたんだよ。資材と燃料。もしかして、足らないか?」
「足りないどころか。この量は多すぎて、とても使いきれません。多すぎです!」
「雑な仕事で悪いが、椎の木とかは実も採れるから食糧にもなるし、足りないよりはいいだろ。今から細かく切り刻むから」
早速、木材を細かく割っていく作業を開始したタダシを見て、アーシャは叫ぶ。
「私達だけじゃ手が足りない。もっと応援呼んできて! 早く、タダシ様がやっちゃったから!」
タダシがやっちゃったので、応援が呼ばれて総出で資材の山の回収が始まるのだった。
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