序章 四角い世界 2

 ──むかしむかし。

 と言っても、そこまで昔でもない昔。

 まだ、この世界の人間が金属の武器を握りしめて殺し合いをしていた頃のお話。

 ある日、この世界に女神たちがやって来ました。

 女神たちは、この世界の人間がいまだ持ち得ない、たくさんの知識、素晴らしい技術、そして見たこともないような美貌を持ち、瞬く間に人々をとりこにしてしまいました。

 希望、幸福、勇気、知恵、幸運、愛、調和、そして歌。

 八つの権能を持つ彼女たちは人々にたくさんの贈り物をしましたが、その中でもひときわ彼らを熱狂させたもの……それは、彼女たちが〝ガチャ〟と呼ぶ四角い箱でした。

 いわく、この箱には世界のありとあらゆる〝素晴らしい〟が詰まっている。

 富、名声、美貌、強さ、恋、夢。その他、人々の望む全て。

 そしてその言葉通り、その中からは、万の軍勢を討ち滅ぼす無敵の兵や、無数の知識が刻まれた本、永遠に尽きない酒や空を飛ぶ乗り物など、女神の祝福が詰め込まれた素晴らしい宝たちが飛び出してきたのです。

 それらは、四角いカードに封じられてガチャから排出され、人々はそれを合言葉とともに開放して自分のものとすることができました。

 そうして人々はこぞってガチャに群がりました。熱狂し、奪い合うようにそれを回し、それは本当の奪い合いに発展し……やがて、人々はそれを使って戦争を始めました。

 ガチャから飛び出してくる兵たちは人の何万倍も強く、人の身ではなしえない、世界の法則を無視したかのような不可思議な力を持ちます。

 そのような存在を使って争ううちに世界は荒れ果て、大きく様変わりしてしまいましたが、人々は気にもとめませんでした。

 なぜなら、いかに世界が荒れ果てようともガチャを回せば沢山の幸福が飛び出してくるからです。

 こうして、それが世界に現れた日から、世界はそれを中心に回り始めたのです。


 ──これは、そんな四角いカードの中に閉じ込められたある世界のお話。

 これから世界がどうなるかは、まだ誰にもわからない。

 そう……それが、たとえ運命をつかさどる女神だったとしても。

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