第5話 幻
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あの日から1週間が経った。
私は時折ハルと呼ばれたあの男を思い出す。
どうして私を助けてくれたんだろう。
他人に興味が無さそうだったのに。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
また相変わらずの日常が続いていて、
ハルが隣に居たあの時間は幻みたいに思える。
いや、本当に幻だったんじゃないかな。
そんな事を考えながら玄関のドアを開けて家に入る。
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ママの靴がある。
もう帰ってきてるんだ。
そっと足音を立てないようにしてリビングに向かうとドラマを見ているママが居た。
おそるおそる話しかける。
「ママ、ただいま」
「おかえり〜」
そう言ってまた顔をテレビに向けるママ。
あ、よかった、今日は機嫌がいいみたい。
リビングを後にして自分の部屋に入る。
携帯の通知を見るとセフレからのライン。
[やっほーユリア今夜暇?]
[うん暇だよ]
と返事を返す。
すぐに返事が返ってきた。
[久しぶりに俺んち来ない?]
[じゃあ21時くらいに、]
[おっけー、待ってるわ]
今夜の予定が決まった。
彼と会ってすることは1つしかない。
こんな私を軽蔑する人だっているかもしれない、
でも、今の私には1人は寂しすぎる。
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「久しぶり、ユリア」
「久しぶりだね、」
カズマだったか、カズヤだったか。
名前があやふやで彼の名前を呼べなかった。
ナイトクラブでナンパしてきた男。
会うのはきっと3回目くらいだと思う。
必要以上に干渉してこないところが気に入っている。
2人で映画を見ていると私の身体に伸びてくる彼の手。
「...んッ..」
甘い声を出す。
私から出るその声に応えるように行為を進めていく彼。
いっときの快感。
彼を冷めた気持ちで見つめながら行為を終えた。
「ありがとユリア」
そう言われて複雑な気持ちになる。
ありがとうだなんて、なんか、風俗嬢みたいで笑える。
私は一体男に何を求めているんだろう。
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午前4時。
寝ている彼の横をそっと通り過ぎ
彼の家を出て歩く。
私を襲うのは強い虚無感。
音楽を聴く気分にもなれない。
駅を出るとこれから出勤するのであろうサラリーマンたちとすれ違う。
皆、何が楽しくって、生活してるのかな。
この虚無が毎回訪れることは分かってるけど、関係をやめられない。
なんてしょうもない女なんだろう私。
これから先、人を好きになることなんてあるのかな。
誰がこんな私を理解してくれるんだろう。
ふと、ハルのことまた思い出した、が、
忘れよう、
彼とは住んでる世界が違うし、
もう二度と会わないだろうから。
そう心に決め考える事をやめた。
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