第4話 タクシー

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足を切ってからと言うものの、痛くて会話に全く集中できない。


どのくらい切ってるかな。


傷を見るにはテーブルの下を覗かなければいけないため、ヒカルくんに心配かけまいと気にしているのを隠して、覗かないでいた。


でも多分傷深い。


結構痛いもん。


どうか立った時に傷が誰にもバレませんように。


その後何とか痛みに耐え続けた。


まだ帰りたくないと駄々をこねるユズコに仕方なく付き合い、

店の閉店と同時にヒカルくんとバイバイする。


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店の前で止まっていた一台のタクシーに泥酔状態のユズコを乗せ、彼女の住所を運転手に告げた。


多くの飲み屋の閉店時間だからなのか、

タクシーはもう他にいなかった。


タクシーを呼ぼうと電話をするが、どこの会社も繋がらない。


仕方なくタクシーが居そうな所までひとり歩くことにした。


少し歩いたところでふとズキズキと痛みを感じる足に目を向けると、

左足のふくらはぎの半分から下が真っ赤に染まっていた。


あー、これは痛い。


傷口を見た瞬間、痛みが激しく感じられてきた。


歩くたびに血が滲み出してくるのを感じる。


これが手首だったらなあ、死ねたのかなあ。


そんな事を考え始めて、どんどん酔いも気分も冷めてきた。


携帯の時計を見る。光が眩しい。


まだ2時か。


急に歩く気が失せ、ママの待つ家に帰る気も起こらず、

ストンと歩道の縁石に座り込んだ。


私の足を見てなにか言いながら通り過ぎていく人たち。


笑ってないで、助けてよ。


なんて不憫なことを心の中で唱えたりする。


あの人達みんな、いいなあ、行く場所、帰る場所があって。


私に行く宛はない。


こんなだったら、怪我のことヒカルくんに正直に言ってればよかったかな。


まあもう今更。


体育座りをして膝の上におでこを乗せ、目を閉じた。


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どれくらいそうしていただろう。


目の前の車道で車が止まる音が聞こえたが、確認する気は起こらず、俯いている顔はあげなかった。


すると、車の窓が開く音と、


「なにしてんの」


と言う声が聞こえた。


こんな夜中に一人で座ってる変な女にも声かけてくる人いるんだなあ。


そんなことを思いながらゆっくり顔を上げると、一台のタクシー。


乗っていたのは


"ハル"だった。


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「..えっ」


驚きを隠せない私に、


「なにしてんの」


とまた同じ言葉を繰り返すハル。


「....何も..」


「ふーん..」


「.....」


彼が何を考えているのか分からなくてただ見つめ返した。


すると想像の範疇を超えたひとことをハルが紡いだ。


「のんなよ」


「...!」


「はやく」


「.....」


少しの沈黙の後、ハルの綺麗な瞳にまるで引き寄せられるようにタクシーに乗り込んだ。


「いえどこ」


タクシーのドアが閉まると同時にハルが私に尋ねた。


「御崎駅の近くです」


「御崎駅まで」


タクシーの運転手にそう告げたハルは、目を瞑ってドアにもたれ掛かった。


お互いに駅に着くまで何も話さなかったが、不思議と居心地は良かった。


「あの..お金..」


タクシーが停止し、私がそう発した瞬間、ハルはゆっくり目を開けて私を見た。


「いらない」


有無を言わさないそのシンプルな言葉に、ありがとうございます、と一言お礼を言ってタクシーを降りた。


タクシーはすぐに出発し、赤いテールランプはすぐに見えなくなった。


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帰るつもりは無かったのに、家に着いた。


懸念していたことは起こらず、ママはもう寝ていた。


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その夜


ハルの低い声と、印象的な瞳、甘い香水の匂いが


何故か染み付いて離れなかった。


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