異世界人襲撃事件〜こうして僕は戦場へ行った。

レコン

第1話 8月10日 異世界人襲撃

 

『私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います――自衛隊、服務の宣誓より』


 平成が終わり新しい時代となった年の夏――八月十日。この日、日本全体を揺るがす大事件が起こった。そしてこの事件は、僕達自衛官を戦いへと導いた。



 僕は陸上自衛隊○○駐屯地に所属する隊員だ。そして八月十日――事件が起こったその日、僕はちょうど駐屯地の食堂で昼食をたべていた。この日の昼食は僕の好きなメニューだった。こういうのがたまに食べれた時、僕は自衛隊に入隊してよかったと思う。けれどそれ以外は……うん、考えるのはやめよう、きっとどこに行ってどんな職場にいても良いことも悪いこともある。だからポジティブに気持ちを持とう。そう思いながら好きな料理を口に含んでゆっくりと昼食を味わっていた。すると突然食堂が騒がしくなった。


「大変だ、すぐにニュース番組に変えろ」


 食堂にいた他の隊員がそう叫ぶと、食堂に設置してあるテレビが一斉にニュース番組を映し出した。



『緊急ニュースです! 現在○○市の繁華街に正体不明で、剣のような刃物をもった武装集団が表れて人々を次々に襲っております、現場からの中継です、現場のリポーターの○○さん聞こえますか?』

『――はい、聞こえます、えー……見てください、現在私の後ろに見えますのが、例の武装集団です、よく見ると鎧でしょうか、ヨーロッパの騎士のような鎧を着た人物がよくみられます、ほかにも、あれは何でしょう、特殊メイクを施したような恐ろしい姿をした人間もいます!』

『えっ、○○さんの後ろに見えるって……大丈夫ですか!? すぐにその場を離れた方がよろしいんじゃないでしょうか』

『大丈夫です、距離はそれなりに離れているので見つかる心配はございません、それにしても私、先ほど衝撃的なシーンを目撃いたしました、あの装集集団がつい先ほどですね、逃げる住民を次々と刃物で切りつける様子を確認しました、それも何十人もの人々をです、それから……あっ見てください、上空に大きな羽の生えたドラゴンらしきものが飛んでおります、しかも背中に人を乗せています……えっ、背中の人が私に杖の様なものを向けて光が――』 

『――光がどうしたんですか○○さん……えー先ほど発光した映像のあと、リポーターと中継が繋がらなくなりました、えーと……当番組は引き続き状況を皆様にお伝えいたします』



 食堂で中継を見た人達は唖然とした。僕も唖然とした。


「あ~あ、言わんこっちゃねぇ、あんなところにいたら死ぬだろ普通」

「……マジかぁ、あのリポーターの子可愛かったのになぁ」

「おい、お前らそんな呑気なこと言ってる場合じゃねぇぞ! 今から非常呼集がかかるから急いで準備しろ!」


 一人の陸曹長がそう叫ぶと、全隊員がハッとして、自分達が今やるべ事をする為に色々慌ただしくなった。僕はこういう事は初めてなので、何が何だかさっぱり分からず、呆然としていた。


「おい、何時まで飯食ってる気だ、早く自分の部隊の指揮下に入りに行け!」


 僕を見かねた一人の年配の隊員言う。この人の着ている戦闘服の襟には陸曹の階級章が着いている。対して僕はその下の陸士長――所謂陸士という階級で肩の横に階級章ついている。という事はこの人は僕の上官に当たる人だ。すぐにこの人の言うとおりにしなければならない。


「は、はいわかりました……でも、まだご飯が――」

「馬鹿野郎! 緊急事態だ、残してさっさっと行け!」

「はい、わかりました!」


 僕は陸曹に敬礼すると、途中の食事を持って残飯入れに持っていき捨てた。


「ごちそうさまでしたっ! (あぁ、好きなメニューだったのになぁ、もっと早く食堂に来てたら残さずに食べきれたのになぁ)」


 僕は昼食を名残惜しんで、自分の所属する部隊へと向かった。そして部隊に戻ると、丁度同じ部隊の先輩がいた。この人はつい最近階級が上がり三等陸曹という階級になった。そして僕の営内班長――まぁ、要するに駐屯地で生活する僕の面倒見だ。


「おう、来たか、これから出動準備をするぞ!」

「わかりました班長……でも僕達自衛官に出動命令って今出ているんですか?」

「まだだぞ」

「えっ、だったら偉い人から出動命令がかかってから動いた方がいいんじゃないんですか?」

「はぁ? 馬鹿野郎、命令が出てから準備するようじゃ遅いんだよ、俺達は常に何か起こった時すぐに出動できなきゃ意味が無いんだ、俺達がモタモタしている間に被害が拡大する、だから急いでいつでも国民を助けに行けるようにするんだ! わかったな」


 僕はテレビニュースで見た光景を思い出した。ドラゴンに乗った謎の武装集団の一人が手に持った杖から放った光によって、リポータを襲う光景。あのようなことが多くの国民に対し容赦なく行われている。それはとてもおぞましいことで、きっと今国民は助けを求めているに違いない。


 (これ以上あいつらに好き勝手にさせてたまるか!)


 僕は怒りが沸き上がり居ても立っても居られなくなった。


「班長、出動準備をしてすぐに動けるようにしましょう、早く!」

「お、おう……、(なんだよ急に態度が変わりやがって)」


 こうして僕と班長は出動準備に取り掛かった。そして時間が経つにつれて多くの隊員が集まり始めて、やがて駐屯地に所属する全隊員が終結して、あっという間に僕の所属する部隊は、命令があればすぐに出動できる態勢となった。そして出動する為に乗り込んだ幌付きのトラックの荷台で銃を持ち頭の中でいろいろと思考を巡らせて出動待機していた。


(あの街に表れた武装集団は一体何なんだ、なぜ人々を襲うんだ……それとこれって、要するに僕はこれから実戦に赴くんだよな、大丈夫か、僕はちゃんと訓練通りに行動できるのか? 僕は実戦で何人敵を倒せるんだ、僕は、僕は……)


「全員車両から降りろ!」


 急にトラックの外から命令する声が響いた。それを聞いた隊員たちはぞろぞろとトラックの荷台から降り始めた。


「えっ、えっ? 班長、これから何が起こるんですか、僕隊はこれから現地に派遣されるんじゃなかったんですか?」

「さあな、いいからさっさと降りろ、これから俺達の隊長が命令を下すはずだ」


僕は言う通りにしてトラックから降りると、トラックの横に部隊とともに整列して並んだ。すると中隊長が前に表れた。全員が隊長に向けて敬礼すると、隊長は全員に答礼をし、その後状況の説明を始めた。


「全隊員に現在の状況を説明する、諸君らも知っても通り、現在○○県○○に表れた武装集団に対処するために政府は自衛隊を出動させることを決定した、それにより、~の駐屯地の部隊が出動することに決定した、よって我々の出動待機命令は解除、今日は解散する、しかしながら引き続き――」


 僕は一瞬、訳が分からなくなって呆然とした。僕達は出動しない。だったらこの一連の騒動は何だったんだ。班長の方を見ると、こういうことはよくあるといって、解散していった。



 夜になり、営内、(居住地)に戻ると。テレビを点けてニュースを見た。すると総理大臣がテレビの取材に向けて、自衛隊の部隊を武装集団がいる現地へ派遣して対処することを発表していた。しかも非常事態宣言をした。これはいよいよ大事になった。総理大臣が言うには、武装勢力は自らを『マギユース国』と名乗り、日本政府に宣戦を布告したという。そして彼らが表れた場所、○○県○○を占領し、領土とすることを宣言したと発表した。それから総理大臣は記者会見を開いた。


 ――総理大臣記者会見――。


『国民に対し私総理は重大な事を申し上げます、現在日本政府はマギユース国――以下マ国と述べます勢力に宣戦を布告されました、しかし宣戦布告した彼らを調べたところ、どこにも国土を持っておらず、しかも地球上に存在しない国を名乗っているため、政府としての見解は彼らマ国は武装したテロリスト集団としてみます』

『でしたら総理質問します、今回の出来事は戦争になりますか、それとも事件ですか?』

『戦争ではなく事件です、戦後何十年と続いた平和を私は戦争で打ち壊しはしません』 

『事件ということでしたら、今回の出来事を警察で対処するということでしょうか』

『その通りです、現在現地に警察の対テロ特殊部隊を向かわせております』

『なるほど……しかし仮に警察で対処できなかった場合はどうするんですか?』

『その場合に備えて、一部自衛隊の部隊を現場に配置しておりますのでご安心を』

『ということは警察と自衛隊の合同でマ国と名乗るテロリストに対処するという認識でよろしいでしょうか、総理』

『はい今回の事件は警察と自衛隊の合同作戦により解決させます、それでは最後に一言申し上げます、私総理大臣はマ国なる組織を壊滅し、その組織の首謀者たる犯人を逮捕し、事件を解決することに全身全霊をかけて臨むことを国民に誓います……私はテロリスト集団には屈しない!』


 総理はそういうと記者会見をあとにした。



「あーもう大変なことになってるじゃないか、なのに今僕はこんなところで平和にテレビを見てていいのか!?」


 僕は部屋のソファに腰かけて今後どうなるか考えた。現在、僕の所属する駐屯地は、××県に所在する。そして武装テロ集団――マ国は僕達のいる場所は○○県であり、××県と○○県は隣どうしだ。そして大きな目でみれば○○方面隊という管区で、要するに○○県で起きた事は××県の部隊でも何かしらの行動に出る筈なのだ。なのに何故か××県の部隊は動かない――いや、正確には動いているのだが、なぜか僕がいる部隊だけ動いていないのだ。こうして頭を悩ませていると、部屋のドアが開いて、外から人が入ってきた。


「あー、大変だった、今日は中々ハードな一日だったぜ」

「あっ、川崎お帰り」


 部屋に入ってきたのは川崎士長――彼は僕と同じ営内班で部屋が一緒だ。そして新隊員から一緒に居た同期だ。


「畜生、マ国とかいう馬鹿どものせいで俺の休暇が台無しだ、どうしてくれる」

「ははっ、それを僕に言っても仕方ないよ」

「なんだと? お前おれがどんだけ苦労してここに戻ってきたと思ってやがる、俺の実家は県外でしかも地方もこことは違うんだぞ、往復するのにどれだけの時間と、どれだけの金がかかると思ってるんだ!」

「まぁまぁ、落ち着いてよ、ここの部隊に来るこに決めたのは川崎なんだからこのくらい覚悟してたでしょ、僕だって川崎ほど離れてるわ訳じゃけど県外なんだから、結局今回の事件のせいで僕も家に帰れなくなったし……」


 今回の事件当日、丁度お盆休暇だったため、僕達自衛官も特別に休暇を取って実家に僅かな日数だけ帰省していた。しかし僕と川崎のような県外出身の隊員達は行きと帰りだけで、下手をすればそれだけで一日かかるので実際に実家に帰って休養を取る日数は二日ほどだ。なので僕達はこの二日という貴重な時間を失ってしまったことに意気消沈した。


「けど帰れなくても、に比べれば俺達はまだマシなほうかもしれねぇな」

?」

「あいつだよホラ、最近はうちに来た新隊員のあいつ」

「あぁ、新谷一士いっし ね……確か彼の実家は今回起きた事件の場所だっけ」


 新谷一士、(※一士は一等陸士という階級の略)は、○○県○○出身の隊員で、まさに今、マ国の被害にあっている地域の出身だ。彼が自分の実家が被害にあったと知った時、率先して出動準備に取り掛かっていた。しかし何故か僕達の部隊が出動取りやめとなり解散となった時、彼は直接隊長に抗議しようとして周りから全力で止められた。それもそうだ、階級社会の自衛隊の中でたかが一等陸士と隊長とじゃ階級が違いすぎて直接抗議なんてもっての他、論外だ。けれども新谷一士が抗議しようとした気持ちもわかる。今、実家周辺がテロリストに占領されて、それにより自分の家族が被害を受けて、最悪な場合殺されているかもしれない状態なのだ。普通なら冷静でいられないはずだし、すぐに助けに向かいたいと思うはずだ。


「さっき部屋に戻る前に新谷の様子を見たんだが、あいつ泣きそうな顔しながらずっとスマホで家族に電話をかけてたよ……けど、誰もあいつの電話に出なくて連絡が取れねぇみたいだ」

「そうなんだ……だとしたら何か僕達でした方がいいのかな」

「いや、何もしなくていいしできねぇよ、だいたいこれもお前が言った覚悟ってやつだろ、俺達自衛官はいつでも家族と居られるわけじゃねえんだしよ、今俺達がすべきことは上の命令を聞きながら、あとは国民の為に尽くすことだろ、だから家族なんて二の次だ」

「……川崎」


 川崎は冷たく言うが、顔は悔しそうにしている。きっと本心では新谷一士に何かしてあげたいのに何をしていいのかわからないのだ。けれどこれは仕方ないことだ。僕達は命令がないと何もできないのだから……。


「――おい、入るぞ」

「「はいっ!」」


 ドアのノックが鳴った。そしてドアを開けた人物は僕達の営内班長だった。その瞬間僕と川崎はソファやらベットから飛び上がって、一瞬で気を付けの姿勢をして敬礼した。


「「お疲れ様です!!」」

「おう、休んでソファにでも腰かけろ」


 僕達は班長の言通りにした。部屋にはソファが二つあり、丁度向かい合うように設置してある。こうして僕達は営内班長と向かい合うようにソファに腰かけた。この時、僕と川崎は緊張と恐怖で息苦しくなった。というのも、営内班長は今は三等陸曹という階級だが、僕達が新隊員の時は、営内班長は僕達と同じ陸士で『最先任陸士長、(※六年~十年陸士を続けている陸士長で、一般的に分かりやすくいうとバイトリーダみたいな存在)』という肩書をもった存在だった。その為、場合によっては他の陸曹より先輩なので勝手をよく知る。そして僕達はこの人に散々どえらい目に合わされた過去を持つ――けれどその話はまた今度にしよう。とにかく苦手な人なのだ。


「あの~班長、急にいらしてどうされたんですか?」

「あぁ~? 川崎ぃ、お前なんか俺が来るのが嫌そうだな」

「いえいえ、そんなことありません!」

「ふんっ、まあいい……ところでおまえら、明日からしたいか?」


 僕と川崎は外出という単語を聞いた瞬間、キビキビと行動した。


「班長、今お茶をお入れいたします」

「僕はお菓子をご用意いたします」

「うむ、お前らいい心がけだな」


 僕達自衛官は自由に駐屯地の外へ外出できない。そして普段外出するときは、班長から許可をもらって外出する。なので僕らは班長に媚びをうって外出の許可をもらいやすくするのだ。こうまでするほど僕達は外出に必死なのだ。こうして僅かなひと時の自由を得ている。


「さてと、お前らに外出の許可をやる……だからしっかり休んでこい」

「ええっ! 俺達休みを貰っていいんですか!?」


 班長は僕達の用意した飲み物と食べ物を一服すると、破格の待遇を示してくれた。僕は心の中でガッツポーズをした。


「但しよく聞け――」

「――えっ?」



「……じゃあな」

「あぁ、じゃあな川崎」


 次の日、この日の仕事を終えた僕は川崎と別れて駐屯地の外へ出た。迷彩服を脱ぎ、私服に着替えて街外を適当に歩く。たったこれだけなのに僕は街の住人に溶け込んだ気持ちになる。けれど、すぐに何度も僕が肌身離さず持っている自衛官の身分証が、ご丁寧にその気持ちは勘違いであることを僕に教える。 


 『お前は一般人ではない、自衛官だ』


 わかってるよそんな事。さてと、休暇一日目は街にでかけよう。こうして僕は駐屯地を後にして、バスと電車に乗りながら街へと向かった。

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