猫が大好きアメショー君
たぬきぐま
猫が大好きアメショー君
俺は猫が嫌いだ。
雨森翔太略してアメショー。そんな名前のせいで小さい頃から散々猫いじりをされてきた。更に幼い頃には猫のしっぽを踏み怒りを買って引っ掻かれたりと、猫は俺の苦い記憶を思い出させる装置になっている。
今俺の目の前にはふてぶてしい顔をした白黒の猫が鎮座している。なんとなく行く気になれなくて学校をサボった俺は、結局暇を持て余して公園まで来て弁当を食べていた。そしていつの間にかこの猫は現れ、わざわざ目の前に座ってこっちを見ているのだ。
「食べ物なんか持ってないぞ、あっちいけ。」
言葉が伝わるわけもなく、猫は未だにこっちを見ている。俺は早々に諦め弁当に目を移す。
「母さんはいつも弁当に入れてくるが、ゆでたまごは俺の嫌いな食べ物第1位だ。これならくれてやる。」
伝わらないであろう説明をしてゆでたまごを見せつけると、ニャーンと猫もまたこちらに伝わらない言語で話しかけてくる。
「ふてぶてしい顔してる割には感謝はできるんだな、ほら食え。」
勝手に猫語を感謝と解釈しつつ、ゆでたまごを猫の目の前に置く。白昼の公園に猫と一緒に飯を食べる制服男子、なんとも奇妙な光景だ。
弁当を食べ終わると、それを待っていたかのようにニャオンと猫が話しかけてきた。当然伝わらない。
「なんだ?お礼でもしてくれるのか?それともまだ寄越せってか?」
ニャオーーン。
さっきより長めに鳴いてきた。なるほど、わからない。
風がどこからか金木犀の匂いを運んでくる。秋の訪れを感じながら俺は住宅街の道を歩いていた。理由はもちろん俺の前を歩くこの猫だ。
時を遡り15分前。白黒猫がやっと動き出し公園から立ち去るのかと思わせて数歩歩く、すぐ振り向いて鳴く。その繰り返しをしてくるので流石に言葉は通じなくても意図は伝わりついていくことにした。
しかしこの猫は一体どこへ連れて行こうというのか。どこかの映画なら俺はこれから猫の国へ迷い込むことになるのだろうが、それは勘弁していただきたい。想像するだけでも蕁麻疹が出てきそうだ。
そんなことを考えていると、桐山商店街と書かれたアーチが出迎える商店街に辿りついた。相変わらず猫は俺のことを気にしつつ進んでいる。桐山とは俺の住んでいる隣の駅であり、現在通っている高校の最寄りだ。商店街に入ると多くの人が声を掛けてきた。
「あら、今日はデートなのかい。」
「この時間に来るなんて珍しいねぇ。」
「ほら、いつものやつあげるよ。」
無論俺にではなく猫に向けての言葉だ。どうやらこの商店街では人気者らしい。魚屋から餌をもらうとさっきと同じようにニャーンと鳴いた。
「君もなにか食べるかい?」
突然話しかけられ猫から隣の店へと視線を移すと、そこはたい焼き屋のようで元気そうなおじさんが鉄板の前に立っている。
「えっと、じゃあ粒あんを一つ。」
思わず頼んでしまったが仕方ない。何を隠そう俺は無類のあんこ好きなのだ。
「その制服桐高だろ?学校は?」
どストレートに痛いところをついてくるおじさん。プライバシーだかデリカシーみたいなものに配慮していただきたいね。
「実は、サボっちゃって暇を持て余してるところなんです。」
少し恥ずかしいが嘘をついても仕方ないので正直に答えると、おじさんは大きく笑った。
「いいね、いいよ若くて!それじゃこれは将来有望な若者へサービスだ!」
そう言ってたい焼きを袋に2つ入れて渡してくる。何が有望なのかは聞かないでおこう。
「そんな、いいんですか?」
「いいのいいの、その代わりまた来てくれよな!」
そういってまた大きく笑うおじさんに感謝をして、また猫に目を移すと餌を食べ終え俺の方を見ていた。そして話し終えたタイミングを見計らったようにまた歩き始めた。
商店街を抜けると川沿いの道に出た。この川に沿って上って行くと俺の通う桐山高校がある。
「まさか俺を高校に連れてくんじゃないよな?」
そう問うも返事をせずのしのし歩く白黒の毛玉。
しばらくすると猫は河川敷へ降りる階段を1つ降り座った。俺もその隣に座り袋に入ったたい焼きを1つ取り出し頭から食べ始める。10分くらい経ったはずなのにまだ温かい、あのとき食べてたら火傷したんじゃないかと思うくらいだ。
そして二口目を食べようとすると突然声がした。猫語ではなく日本語の。
「パンダちゃんここにいたのか〜!」
そしてもちろんパンダちゃんとは俺ではない。
ニャーン
さっきまでよりも少し明るいトーンで猫が応える。
声の主を見ると心臓が高鳴った。そこにいたのはクラスメイトの新田桜だった。明るくクラスをまとめる学級委員で、俺が密かに憧れている人だ。まさか学校じゃないところで会えるなんて。
「と、あれ?アメショーくん?今日学校休みじゃなかった?」
「体調不良でね。布団で寝てて起きたら川辺で猫と戯れながらたいやき食べてたけど。」
ニャオーン
否定するような声で猫が鳴いてくる。やめろ、余計なこと言うんじゃない。
「サボったんでしょ。」
「はい。」
鋭い指摘に観念して答えると桜は笑う。
「でもなんでパンダちゃんと一緒にいるの?」
「公園で一緒にご飯食べたら仲良くなってね。」
ニャーン
今度は同意してくれたパンダちゃん。桜はまた嬉しそうに笑う。
まさか猫にゆで玉子を上げたことで、こんな恩返しが待ってるなんて思ってもいなかった。
「アメショーくんも猫好きだったんだ!私も好きなんだよね。」
桜の問いかけに迷わず俺は答える。
「大好き、あだ名もアメショーだし。」
猫が大好きアメショー君 たぬきぐま @araiguma_3sei
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