これから働く人たちへ

むらさき毒きのこ

第1話 雇用されるとは

 私は高校一年の夏休み、ギターを買うためにラーメン屋でアルバイトをしました。それが、私の労働行為の始まりでした。時給は、当時の地元の最低賃金「650円」でした。人生の空き時間を、一時間当たり650円の金に換えたのです。別の言い方をすると、私の時間の価値は一時間650円だった。価値を決めるのは雇用者です。もしももっと高値で買い取ってもらえるのなら、別の職場を探したらいいのです。


 会社員時代の給料は、手取りで14万でした。手取りというのは、厚生年金や健康保険代、税金を引いた金額です。下宿をし始めた十九歳頃、生活費が足らないのでアルバイトを始めました。そちらは月に7万円。車の管理とか色々あって、お金がいくらあっても足らなかったです。若かったし、色んな人と会うには何かとお金が必要でした。働いても働いても楽にはならない。理由は単純で、私の時間の価値はそんなに高くなかったからです。専門職ではないし、誰にでもできる仕事だった。


 高校を出てすぐに働くというのは辛い。なにしろ安くしか売れない時間。働いても働いても楽になんかならない。そして無知だ。無知だといいように扱われる。文句も言えない。ただ、気持ちが荒む。そしてなぜ荒むのか分からないまま、本も読めないくらいに疲れて眠ってしまう。学生時代は「図書室の主」と図書の先生からも言われていたのだけど、肉体労働をしていると座ったら最後、眠ってしまうのだ。


 そんな時、楽しそうに綺麗な車に乗って出かける学生を見ると「死んでくれ」と思ってしまう自分がいた。その頃二十一歳。上司はセクハラするし、客からは店外で待ち伏せされたり、手をいきなり掴まれたり、ストレスで蕁麻疹(じんましん)が出た。事務所にて眩暈(めまい)で座り込んだとき、まあ何とかなるだろうと他のスタッフと自分に言い聞かせた。


 職場での、スタッフによる盗みが横行していた際、私は雇われ店長だったんだけど、商品を買わずに使用していたスタッフに「何やってるの」と注意したあと、オーナーに報告するかで迷った。そのスタッフは、オーナーの信頼が厚かったから。オーナーがどちらの言葉を信じるか考えた結果、私は黙って、勝手に使われた商品を破損扱いにして処理した。せめてもの良心的行為だった。あるスタッフは、金を盗んでクビになった。私は心配していたのだ。オーナーの要求で、そのスタッフが見る見る疲弊していくのを見ていたから。ただ、働き方を決めるのは結局は本人だ。私は、出来ない事は出来ないと言って断っているけど、多くの人は言われた事を素直に聞くのだ。そして疲弊し、壊れる。他にも、新オーナーと合わないと言って、古いスタッフが一気に辞めた。そして店は、とにかく汚くなった。オーナーは私を責めたが、事務所で酒飲んでるお前に言われたくはない、と心の中で思った。その場では、はいはい、と聞き流すのだ。大元がダメなんだから、誰が頑張ってもダメなものはダメなのだ。個人には限界がある。


 思うに、雇用される場合、契約書をちゃんと読んだ方がいい。無茶ぶりされた場合に断る際の、明確な根拠になるから。ただ「嫌です」というのとは全然違う。

「休憩時間は無給とあります。なので、待機させるのはどうかと思う」等、堂々と言えばいいのです、穏やかな調子で。会社員の場合は、休日に突如出勤を命ぜられたら……そもそも電話に出なくてよろしい。休日は待機時間では無い。あなたの人生は、契約している勤務時間以外は、あなただけのものです。雇用契約書に「休日出勤もやむなし」と書かれていないか、ちゃんと読んで下さい。悪魔と契約してはいけません。


 ということで、労働する事について、思った事を書いてみた次第であります。

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