第4話 天才
ゾフィー兄様の婚約者、エレナ様に
突如、メイドが引きこもり中の私の部屋に入ってきた。
「失礼します、アンナ様。お父様がお呼びになっています。お支度をして一緒に応接間にいらして下さい」
メイドは険しい顔をしている。
まずい、まずいぞ⋯⋯。
きっとあの手紙がバレたんだ。叱られる。
それに、ゾフィー兄様に嫌われたかもしれない。
今更ながら、あんな手紙を書くなんて、自分自身に呆れる。
婚約者のエレナ様からしたら、あの手紙は恐ろしかったはず。
冷静になればなるほど、自分のした過ちに後悔の念がぐるぐる頭の中を回る。
応接間に入ると、同じく険しい表情をしたお父様とゾフィー兄様がいる。
「ご、ごごごごきげんよう。お父様、ゾフィー兄様」
私は声が裏返りながら挨拶した。
お父様もゾフィー兄様も私に挨拶すると、ゾフィー兄様があの手紙、私がエレナ様に送った手紙をテーブルに置いた。
「これは、アンナが書いたのかい?」
とお父様が静かに言う。
「⋯⋯はい」
「アンナ1人で書いたのかい?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい」
私が返事をした瞬間、お父様とゾフィー兄様の目が大きく見開き私を凝視した。
「ご、ご」めんなさいと私が謝ろうとした瞬間、お父様は今まで聞いたことがないような大きな声を発した。
「ブラボー!!! なんて素晴らしいだ! あぁ、うちのアンナは天才だ!」
「ほんとうだね、お父様。6歳なのにこんな文章を書けるなんてアンナは、天才以外何者でもない!」
ゾフィー兄様まで天を仰ぎながら嬉しそうに私を褒めた。
あ、あれ。
私はてっきり叱られるかと思っていた。
結婚が破談になったらどうするんだとか。
アンナには失望したとか⋯⋯。
そんな
なんで、天才なんだろう?
もう一度、私が悲しみに任せて書いた手紙を見る。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
う、うん!
わかってしまった。
なるほど、そうだよね。
6歳児が、こんな大人みたいな文章書くはずが、いや書けるはずがない。
きっと、6歳児なら⋯⋯。
ーーーーーーーーーーーー
えれなさま。
わたしはあんなです。
おにいさまとけっこんしないでください。
あんなより
ーーーーーーーーーーーー
こんな文章になるよね。きっと。
あぁ、前世の記憶というか知識があるせいで、なんてことを仕出かしてしまったんだ。
私のバカー。
なぜか私はこっちの世界の言葉の聞く、話すは、生まれた時から理解できた。
ただ、字を書いたり読んだりするのはできなかった。
でも私は学ぶことは前世の頃から好きだったので、すぐにこっちの語学に夢中になり家中の本を読み漁った。
しかし魔法に関する魔術書だけは本を開くことができなかった。
どうやら魔術書と呼ばれる本は魔力がないと、開くことができないらしい。
私にとって魔術書は1番読みたい本なのに。
そんな私が書いた手紙を受け取ったエレナ様は怒りより
すぐにエレナ様がゾフィー兄様に連絡を取り、今に至る。
「アンナ、エレナもたいそう驚いていたよ。すごい子だって褒めてたよ。それで、エレナがね、アンナを宮廷学校に入学させた方がいいって言ってくれたんだ」
「ありがたい申し出だ。宮廷学校は首都の城下にある。とても素晴らしい学校だし城下町は楽しいよ。どうだろアンナ、行ってみるかい?」
「え⋯⋯、でも私は魔力がないですし⋯⋯」
「あぁ、それなら問題ない。この腕輪をつければいい。この腕輪はね、魔力を一定期間貯めておくことができるんだよ。これを使えば日常生活は困ることはなくなる」
ゾフィー兄様が私の腕に銀の綺麗な腕輪をはめながら説明してくれた。
この腕輪はつい最近、開発されたもので、魔力を保持できる魔法道具らしい。
前世で言う、予備バッテリーみたいなものだ。
また、その腕輪だけで魔力が必要なライトの点灯、ドアの開け閉めなどができる。
予備バッテリーにリモコンがくっ付いた品物だ。
特に首都は魔力が必要な魔法道具が充実しており、田舎などではドアの開け閉めは手動だが、首都では魔力による自動ドアだ。
そのため魔力がないと自動ドアは開かない。
ただ私がその腕輪をしたからと言って魔法も使えないし、精霊ももちろん見ることができない。
予備バッテリー兼リモコンの腕輪が対応してない魔法道具はごまんとある。
しかし私が読みたかった魔術書はその腕輪を使って開くことができるらしい。
まぁ、上級の魔術書は無理らしいけど。
「アンナ、宮廷学校に入学するんだったら、コルベーナ侯爵邸から通えるよ」
「え、それって、つまりゾフィー兄様と一緒にいられるの!」
私は嬉しさいっぱいで答えた。
一瞬にして地獄から天国に私の気分がうららかに上昇した。
「そうだよ」
お父様とゾフィー兄様が同時に言う。
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