第108話 祝賀会

No108

祝賀会




 冒険者ギルドでの話し合いが午前に終わり、午後からはより詳しい話し合いが持たれた。


 とりあえず、俺からの条件は通った。

 カモンネーズとタルタルソース、パンケーキの調味料レシピと料理レシピを買い取ってもらい、十日事に一定の金額をギルド口座に振り込んでもらう事になった。


 これで、安定した収入が定期的に入る事になった。


 それと、エールサーバーの方もどうやら発案者として優遇してくれる事がアンリエッタさんから伝えられた。こちらも、十日事に一定の金額をギルド口座に振り込んでもらう事になった。


 それから、冒険者ギルドの食事処の改装工事が始まる事になった。鉄板焼きとエールサーバーをメインにした食事処になる予定だ。


 料理を行う為の人員は冒険者ギルドが手配し、その料理人にマレルさんを推薦した。マレルさんには、鉄板焼きの他に唐揚げや天ぷらの作り方まで教えてある。即戦力としては十分だ。


 冒険者ギルドのギルドマスターのサーシャさんは大いに喜んでくれた。これで、改装が済み次第ギルドの食事処をオープン出来ると。


 各ギルドとアンリエッタさん、俺の細々した契約が決まり気づけば陽が傾き始めていた。俺はアンリエッタさんに話して祝賀会を開催してはどうかと提案した。魔導具エールサーバーを知らないアキナイさんやレンギさんにお披露目も含めてどうかと。


 アンリエッタさんは快く提案を受け入れてくれて、夕食はアンリエッタ邸の裏庭で鉄板焼きが開催される事になった。


△▽△△▽△△▽


 陽が沈み、アンリエッタ邸の裏庭は鉄板焼きが出来る調理場にカウンター席、そして、周りには篝火と灯火の魔導具が配置され、南国リゾートビーチ的な雰囲気を感じた。


 実際は裏庭で、南国的な雰囲気を感じてるのは多分俺だけだけど.....


 鉄板焼きの料理を提供してくれるのは、マレルさんとアンリエッタ邸の料理人だ。今回、俺は食べる側に回った。


「では皆様、ささやかですが祝賀会を開きましょう。すでに、冷たいエール、果実酒はお手元にありますね。それでは....」


「「「「「「乾杯っ!」」」」」」


 ングッングッングッ......

 プハアァァァァァーー!

 くぅー、やっぱり冷たいエールは最高だぜ!! それに、唐揚げ、天ぷら、フライドポテト、湯豆、貝、エビ焼きなんかの料理もあるからさらに、進んじゃうよな!


「ほっほーっ! これはっ! わたしは、湯豆と唐揚げのセットが好きですなー。湯豆の絶妙な塩加減に冷たいエール! そしてアツアツの唐揚げにカモンネーズを付けて食べるっ! からの~、エールっ! どうです? この黄金コンビっ!」


 商業ギルドのアキナイさんはすでに自分のお気に入りのセットを見つけ出し、エールと料理を楽しみだしていた。


「わたしは、天ぷらと貝が一番ですね。天ぷらのサクッとした歯応えに適度な塩味、それと、貝のバター焼きが堪りませんね!冷たいエールに天ぷらと貝のバター焼きが黄金コンビだと思います!」


 錬金術ギルドのレンギさんは、天ぷらと貝のバターが黄金コンビだと主張し、アキナイに張り合っている。


 「あなた達はまだまだねっ! エビフライとタルタルソースが最強に決まってるじゃないっ! エビフライのサクッと、プリっとした食感にこのタルタルソースを付けて食べてみなさい! これこそが最強よ!」


 冒険者ギルドのギルドマスターのサーシャさんが、エールとエビフライとタルタルソースを最強だと力説し、アキナイさんとレンギさんの話しに参戦してる。


「それは早計では無いでしょうか? やはりここはステーキ肉だとわたしは思いますよ。厚く切り出したステーキ肉の両面を焼き、塩と胡椒を振りかけさらに、赤ワインで香りと味をつける。そのステーキ肉を一口食べれば、旨味ある肉汁と芳醇な香りが口の中に広がる。そして、噛みしめた肉は蕩けるように無くなり冷やされたエールを飲む。どうですか、これが王道です」


 冒険者ギルドの受付嬢シンディさんか、各ギルドの役職者相手に割って入っていた。確かに、ステーキ肉に冷やされたエールは間違いなく王道だと俺も思う。シンディさんは肉食系か?


「ふふふ、皆さんは何を当たり前の事を言ってるの? そんなのはすでに分かりきった事ですよ。わたしは、パンケーキに果実酒が至高のコンビだと思いますけど? この幾重にも重ねたパンケーキにハチミツと果実を一緒に食べて下さい。パンケーキとハチミツの甘さが口の中に広がると同時に、果実の酸味が味を引き締める。そして、冷やした果実酒で喉を潤した後に残るのは仄かな甘味と果実の香り。これこそが至高です」


 アンリエッタ邸の当主、アンリエッタさんはすでにパンケーキに手を出していた。女性は甘味が好きだと言うが、みんながまだ鉄板焼きを楽しんでる序盤にデザートから食してるとは.....恐るべしアンリエッタ嬢。


 俺はみんなの姿を傍目に見ながら、マダラと食事を楽しんでいた。

『どうだマダラ? 楽しんでるか?』


『ふむ、ワレは貝のバター焼きと魚の塩焼きが一番じゃと思うがの? よいか、セイジロウ。このホタンのバター焼きは二度楽しめるのじゃ。まず、ホタンの身だけを貝から取り出して塩と胡椒で食べる通常の塩焼きと、貝に身を付けたままバターを添えて焼くバター焼き。これに冷やしたエールが良く合う』


 えっ? お前も参戦してるの? それに、ちゃっかりエールまで飲んでるの?


『次に魚の塩焼きじゃ。これは、香草で一緒に焼いても旨いがワレはやはりシンプルイズベストは塩焼きじゃ。丁寧に魚の腸を取り出し、鱗やヒレを処理していく。そして、軽く塩を刷り込み適温で丁寧にヤイテいくのじゃ。そして....ガブリッ! 魚肉とは思えん食感に適度な塩味と溢れる出る肉汁が溜まらんっ! これが、至宝じゃ!!』


 いや、意味わかんねぇよ....確かに、旨いけどそんなにか? それに、いつからそんなグルメになったのお前?


 そして、ワイワイと楽しい時間が過ぎていきほろ酔い気分で解散となった。


 商業ギルドのアキナイさんは確かな手応えをこの祝賀会で感じたように見えた。錬金術ギルドのレンギさんは、魔導具エールサーバーに感心しアンリエッタさんに作製方法を聞いていたが、アンリエッタさんは口を割らなかった。


 そりゃ、素材にウェットグレイトードを使ってるんだ。さすがに人前では話せないだろう。それに、もし話して素材がバレたら......アンリエッタさん、本当に秘密は厳守して下さいね....


 こうして長かった案件が良うやく一段落して肩の荷がおりた。今日は良い夢が見れそうだ。

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