第98話 逆転する主従関係
No98
逆転する主従関係
アンリエッタさんとビールサーバーについて話をしたあとに、冒険者ギルドに向かいシンディさんに言って資料室に案内してもらった。
「--それで、調べたい魔物って何ですか?」
「実は、ウェットグレイトードって言う魔物なんですよ。その魔物のある素材が欲しくて...って、どうしましたシンディさん?」
シンディさんは俺が話した魔物の名前を聞くと顔色が悪くなり、同時に自分の腕で自分の体を抱きしめて小刻みに震えていた。
「セイジロウさんは....アレと戦う.....戦うのですか....」
えっ....?なに? どうしたのさ...そんなにヤバい魔物なの?
「シンディさん、大丈夫ですか? 落ち着きましょう、何か飲み物を買って来ますから」
冒険者ギルドから出て、果実水を近くの露店で買いギルド内に併設されているテーブルにシンディさんを案内して果実水を渡した。
「コクッ......コクッ.....ふぅ...セイジロウさん、ありがとうございます。落ち着きました」
「それは良かったです。それで、どうしてあんな風になったのですか?」
俺はシンディさんに事情を聞くと、どうやらウェットグレイトードという魔物は凄く外見が悪く、女性の大半が生理的嫌悪感を抱き精神的に受けつけない魔物だそうだ。さらに、男性冒険者も好んで討伐する魔物でもないし、討伐しても旨味がない魔物だと説明してくれた。
その魔物の外見は、無数のイボイボで覆われて体表はヌルヌルベトベトしているそうだ。体長も大きく、さらに二本の長い舌で攻撃してきて捕まると舐めまわされると....
女性冒険者が嫌悪する魔物ワースト五以内にランクインするほどの魔物だとシンディさんは嫌悪感を示しながら話してくれた。
「....知らずとはいえ、嫌な思いをさせてしまいました。シンディさん、すみませんでした」
「いえ、セイジロウさんは悪くありませんから......それでどうしてその魔物を調べているんですか?」
どうしよう? その魔物の舌を使った魔導具を作るなんて言ったら......絶対、売れないよな....
「実は、ある人との話でその魔物の話になりまして、話の結果討伐しようとなったんです。それで、私はその魔物を知らないのでまずは調べようと思ったんですよ」
「そうでしたか...そうですね、アレは存在してはならない魔物です。ぜひセイジロウさんには根絶やしにしてもらいたいですっ!」
根絶やし....そこまで言っちゃうほど嫌いなんですね....ビールサーバーを本当に作っても大丈夫か?
「では、わたしが知る限りの情報をセイジロウさんに教えましょう。セイジロウさんがアレを倒してくれるなら、わたしは全力でセイジロウさんの手助けをしましょうっ!!」
ありがたいんだけど.....その魔物の舌がビールサーバーに必要な素材なんて.....うん、秘密は墓まで持っていこう....マダラにもちゃんと言っておかなきゃ。
この後、シンディさんと一緒に資料室へと戻りウェットグレイトードに関する情報と生息地域に倒し方、注意点などをみっちりと教えてもらった。
教えてもらった後は昼食をメイン通りで済まし、アンリエッタ邸へと戻り再度アンリエッタさんと制作魔導具について話をした。
話し合いの結果、ビールサーバーに必要な管の素材の秘密は互いに門外不出として、固く約束をした。さらに、制作が上手くいった場合は、アンリエッタさんの名義でビールサーバーの売上の一割りをアイデア料として、冒険者ギルドの個人口座に振り込んでもらう契約を交わした。
話し合いの後はアンリエッタさんがマダラと触れ合いたいと言うので、マダラとアンリエッタさんは裏庭に、俺はアンリエッタ邸の調理場で試作料理の助言を請け負った。
夕食はアンリエッタ邸でいただき宿へと帰った。
△▽△▽△△▽△
翌日は朝早くに起き、"餌付け亭" の朝食を食べてすぐに出発した。街門に向かいつつ露店で食料の調達をし、第二西門からウェットグレイトードの生息地へとマダラに跨がり地図片手に駆けていった。
「マダラ、今回は対象の魔物の殲滅だ。ただし、そいつの舌が必要だから舌はなるべく傷つけないでくれ」
『そのでかいカエルの舌が、ビールサーバーなる物に必要なんじゃな?』
「そうだけど、絶対に舌がビールサーバーに使われてるって言っちゃダメだからなっ! そんな事が広まったらビールサーバーが売れなくなっちゃうから」
『セイジロウはなかなかに鬼畜じゃな。皆に嫌われてる魔物の素材を飲食の魔導具にしようとは.....祟られるぞ?』
「しょっ、しょうがないだろっ! それが必要なんだから! ちゃんと綺麗に処理するし加工もするから.......黙ってれば大丈夫だって....なっ?」
『ふん、どうだかな。せいぜい祈っておくのだな。ワレは祟られたくないのでな、すべてセイジロウのせいにさせてもらうぞ』
「それは、ちょっとズルくないですかね、マダラさん? 主と従魔は一心同体、以心伝心、一蓮托生ではないですかー」
『バカも休み休み言わんか.....ワレはセイジロウに従わされているのじゃぞ? すべての責はセイジロウにあるのじゃ。せめての情けでフローラには黙っていてやる。感謝するんじゃな』
「ちょっ、おまっ! ズルいぞっ! そういう時だけ従魔を強調するなんてっ! それに、フローラさんには絶対に秘密だからなっ! 本当にお願いしまーすっ!!」
そんな二人の主従が逆転したあと、いよいよウェットグレイトードとの決戦が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます