第66話 キスと朝日
No66
キスと朝日
フローラさんと夕食をした日から一週間が経ち、俺とマダラはルインマスの街に向けての準備をしていた。
あの翌日に改めてフローラさんに相談したが現状の改善案は出なかった。が、悩み過ぎるのも良くないと言われてた。
すでに季節は花風季半ばを過ぎ気温も暖かくなっている事もあり、海があるルインマスの街に気分転換も兼ねて行ってみたらどうかと....
ルインマスの街は、海上貿易を行う街でアーガニウム国の南にあるグルガニウム国とも海上貿易をしていて、ハルジオンの街とはまた違った感じだという。
人と物が集まれば情報も集まり知見聞が広がる。マダラの存在が急に現れハルジオンの街中は驚きや戸惑い、不安といった目に見えないものから距離を置くのも一つ手だと.....
世界は広く人や街はたくさんある。マダラを受け入れてくれる街は必ずあると....フローラさんは言ってくれた。
俺は旅を決意した。笑顔が溢れる街を探す旅を!!
「....ロウ!! おいっ! セイジロウっ!」
「えっ?」
「えっ? 、じゃねぇよ! 早くエールとピザとフライドポテトを運べよ! 客がまってるだろっ!」
「はやくぅーセイジロウさんっ! 次はワイン割りとチーズの盛り合わせだよー!」
と、現実はすぐには変わらない。実際ギルドの食事処の人手不足は解決してなく、こうして給仕をしてるわけだ。
ビルドさんには旅に出ると伝えると『お前が決めたんだ、好きにすれば良い』 と、言ってくれた。人手不足を解決出来ないまま旅に出てしまうが、俺とマダラがいなくなればビルドさんの依頼を受けてくれる人がいるかもしれない。
冒険者ギルドの方にも旅に出ることをギルドマスターのダンさんにも伝えてある。そして、総合部のアンナさんにはプリン販売に関する契約の話をした。
作り手である俺が居なくなれば販売の収入が無くなり、さらにプリンが食べれなくなる女性の暴動? も考えられなくもなく、プリンとハチミツプリンのレシピを譲渡する代わりに、冒険者ギルド経由での販売許可と売り上げの一割りを貰う契約を再度行った。ちなみに、フレンチトーストは手札の一つとして手元においた。
これで、女性職員の反乱? 暴動? は起こらずにすんだ....と思う。
あとは馴染みの店や知り合った人達に挨拶周りをした。少し慌ただしく日々が過ぎたが、とりあえずの形は整ったわけで出発前日までいつも通りに給仕の依頼を受けてるわけだ。
「おーい、追加だ! エールを四つにフライドポテト二つだ!」
「こっちは、ピザを二つにエールを四つだ!」
「セイジロウさーん! エール樽を持ってきてくださーい! 終わりました!」
この忙しい時間もあと少しで終わってしまうと思うと寂しいな。この食事処ではずいぶんと世話になったもんだ。最初と比べて今では他の料理店に負けない売り上げだ。
「エール樽を持ってきましたよ!」
「セイジロウっ! そこのピザとフライドポテトを運べっ!」
「はい!......お待たせしましたー!」
そして客がいなくなりリーナさんとエリナさんに旅の挨拶をして夜も深まった頃、ビルドさんが作ったフライドポテトにピザ、オーク肉をマダラの影に次々に作って保管していく。
「まったく、便利な能力だな!」
「ですよね、私も思いますよ。マダラの影の中ではそのままの状態が保たれるんですから」
「そうだなっと、ホラっ! これで終わりだ! もう材料がねぇよ.....」
「ありがとうございます。これで、しばらく? 大丈夫でしょう」
「足りなくなれば作って貰えば良いだろ。お前が冒険者ギルドと契約したんだから」
そう、フライドポテトとピザのレシピを冒険者ギルドに譲渡するかわりに、冒険者ギルド経由で売られたフライドポテトとピザの売り上げの一割りをビルドさんと俺で折半し、口座に振り込んでもらうようにしてもらった。
これで、冒険者ギルドはプリン、ハチミツプリン、ピザにフライドポテトのレシピと独占販売権を手に入れたわけだ。
ここからどのようにレシピを使って販売するかは冒険者ギルドの腕にかかっている。販売に関するデータは食事処で十分に取れてるはずだから十分な利益が見込めるだろう。
その十分な利益のちょっと端っこだけを貰うわけだ。小金を稼がなきゃ!
「そうですね、近いうちに大陸中さらに、世界中に知れ渡るかもしれませんからね」
「で、たまには帰ってくるのか?」
「どうでしょう? すぐには無理かと....」
「....まぁ、達者でやれや! 俺で良ければ出来る事なら力を貸してやるから!」
「ありがとうございます!」
そして、旅の挨拶を済ませて自宅へとマダラと一緒に帰った。
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翌朝、陽の上がる少し前に貸家の自宅を出る。すでに自宅にあった荷物はマダラの影の中に保管されてる。自宅の鍵は、玄関近くの棚の中にしまっておく。あとで、セブル不動産の人が回収にくる手筈になってるから。
「一年も居なかったけど、わりと住みやすい街だったな」
『セイジロウがそう思うならそうなんじゃろ』
「なんだよ ?ちょっと冷たくないか? お前だってこっち喚ばれて初めての街だったろ?」
『街は街じゃ。物珍しいのは認めるが、それだけじゃよ』
「まったく....次の街はどんな街かなっ! 旨い物があるといいな、マダラ!」
『そうじゃな、次は海の近くのじゃからのぅ。魚の干物に貝もいいのぅ.........ふむ、フローラが待ってたようじゃ、手短にのぅ』
マダラはそう言うと影に潜った。辺りを見回すと、薄いローブを着たフローラさんを見つけた。
「フローラさんっ! どうしたんですか、こんな朝早くに....」
「なによ.....見送りに来たのにとんだ言い草ね?」
「へっ?...あっ、すいません。まさか、フローラさんが来るとは...」
「来るわよ、あなたの顔がしばらく見れなくなるんだから.....それに...言ったでしょ力になるって。わたしがあなたの力に、支えになるわ! だがら、辛くなったり泣きたくなったらわたしに会いにきなさい! べつに、ソレ以外でもいいわよっ!.........とにかく、わたしはあなたと--」
俺は、フローラさんの唇を俺の唇でふさいだ。フローラさんと初めてするキスは、柔らかくて暖かくてどこか、優しさと甘さが感じられるキスだった。
そして朝日が上がると共に街門が開き、温かい光が重なりあう俺たちを照らした。
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