第53話 どっちがいい?

No53

どっちがいい?





 ジュリーさんのお店でワンピースとそれに合わせるインナーを買ってから、次の店に向かった。


 向かう店には、細工師のお店で主に女性向けの飾りを取り扱ってるお店だと、フローラさんは話してくれた。


 今年の花風季になって新しくできた店で、まだ訪れた事がなく近々行ってみたかったそうだ。女性ギルド職員の話の中でたまに話の話題にもなっていて興味をもったそうだ。


「なら、買ったワンピースに合うような飾りがあるといいですね」

「そうね、花柄や動物、キラキラした可愛いのもいいわね」


「きっとありますよ。飾り物はいくつ合っても良いですし気分や季節ごとに代えるのもたのしいですからね」


「....妙に詳しいわね? それに、買い物慣れもしてる感じするし、セイジロウさんは女性の扱いが上手いのね?」


「そんな事ないですよ、普通です。それにフローラさんとの買い物は楽しいですからね」

「そう? なら、良いけど....あの店よ、いきましょう!」


 お店は見た感じ大きくはないな....ニ階建てか、パッと見は普通だな....もっと飾りがついてたり女性のお店という雰囲気がないな....


 ドアベルを鳴らしながらお店の中に入ると、壁沿いにはいくつもの装飾品が飾られていた。その数に驚きながら店内を見渡す。

「いらっしゃいませ。ようこそ、フレイの飾り屋へ」


 店内のカウンターの奥から一人の女性が現れた。

 濃紺の髪を腰ぐらいまで伸ばした大人しそうな女性だ。中学生のまま歳を重ねた童顔で年齢が見た目では分からないな....


 少したれ目で愛嬌がある顔だな。もし、向こうの世界でアイドルとかしたら有名人の仲間入りも難しくないぐらいの可愛さだ。


「こんにちわ、職場で噂になっていたから寄ってみたの。わたしは、フローラで」

「私が、セイジロウです。えっと...」


「申し遅れました。飾り屋の店主でフレイと言います。店名と同じ名前なんですよ」


 と、ニコリと笑う笑顔がまた...ほんわかした女性だな。余所見とかして、電柱にぶつかったり、看板にぶつかったしそうなタイプに見えるけど...


「あら、良い名前ですわよ! それに、少し見ただけだけど飾りも綺麗ね...少し見ても良いかしら?」

「はい、ゆっくり見て下さいね。どれも自慢の品ですから」


 フレイさんと挨拶を交わしたあとは、店内に並べ飾られてる細工品を見ていく。


 細工品は、革で作られたブレスレット、アンクレットや銀細工て作られた指輪やネックレス。小さな魔石が嵌まってるブローチや髪飾り。他には、ベルトや小箱などがあった。


 女性が好みそうな小物が中心だった。中には、短剣の鞘に被せるカバーや装飾された手持ちの手提げカバンもあったりもする。


「セイジロウさん、これなんてどうかしら?」

 フローラさんが見せてくれたのは、銀細工に小さな魔石を嵌め込んだブローチと、何かの花をモチーフにしたブローチだ。


「へぇ、どちらも手が込んでますね。この銀細工の台座は、繊細で嵌め込まれた魔石の色が綺麗で目をひきますね」


 そこにフレイさんがやって来て詳しく説明してくれた。


「そちらは、ピレインの蔦をイメージして、魔石は青魔石を嵌め込んだ物ですね。ピレインとは、植物の名で花風季から火水季まで青色の実をつける植物です。それに、似せたブローチですよ」


「ああ、アレに似せてるのね。季節的な感じでいいわね」

「フローラさんはピレインという植物を知ってるんですか?」


 なんだろ? 有名な植物なのかな....やっぱり女性は花とか植物には詳しいんだろうな。前の世界でも花言葉がたくさんあって、その花言葉に習った花をプレゼントすると喜んでくれたりしたよな...


「セイジロウさんは、知らないないの? ピレインの花は可愛らしくて、その青い実を潰すと爽やかな匂いがするのよ。ピレインの実を使った香水や石鹸もあったりして女性には人気なのよ!」


 ほほぉ! 植物の実を使った日用品か....前の世界にもあったよな。部屋に飾って良し、実を潰して香りを楽しむのも良し、匂い付けに使って良しの三拍子か....そりゃ、喜ぶよな。


「ハハハ....面目ありません。そちらにはまだ疎くて.....こっちのブローチは何ですか?」


 もう一つのブローチの説明をフレイさんに、聞こうとした時にドアベルがなった。


「今日はどんな物があるかしらっ!?」

「わたしは、髪飾りがほしいなぁ!」

と、ニ人の女性が店内に入ってきた。ニ人の内の一人は知ってる顔だった。もう一人は知らないが....


  フレイさんがすぐに近より挨拶をした。ニ人は店内を見回すようにしながら、俺と視線があった。


「あーっ! セイジロウさんっ!...それな、フローラさんじゃないですか?!」

「やぁ、アリーナさん。こんにちは」


 ニ人の内一人は冒険者ギルドの受付嬢のアリーナさんだった。


「どうして....ははぁん! そういう事だったんですね.....フローラさんも言ってくれればいいのにぃ!」

「なっ! なによっ! ちょっとした買い物よ。変な勘違いはやめなさいよっ」

「だって、フローラさん。一昨日は『急な予定が入ったから休むわ。』なんて、いきなり休みの届けだして、しかもその後は鼻歌--」


「わぁっ! ちょっと、いい加減にしなさいよ! 査定を下げるわよっ!」

「えぇっ! それは横暴じゃないですかっ! 職権乱用ですよ、フローラさんっ!」


 と、アリーナさんとフローラさんは何やら騒ぎながら話を始めた。俺は、もう一人の方に挨拶をした。


「なんか騒がしくなりましたね。私は、セイジロウです。冒険者ですね」

「わっ、わたしは、レイシェルです !冒険者ギルドで働いてます。セイジロウさん事はそれなりに話を聞いてますよっ!! プリンとかフレンチトーストとか!! あとは....(フローラさんのいい人)とか....」


 最後の方は聞こえなかったけど、冒険者ギルドの職員なのはわかった。あと、甘味好きなのも....


 レイシェルさんは、アリーナさんと同じくらいの見た目で若そうだ。顔は可愛く目がクリっとしてるのが印象的だな。男性女性問わず色んな人に受けが良さそうだな。背丈も少し低くて庇護良くをくすぐる感じだ。


「同僚というか、職員の方でしたか....でもギルド内では見かけませんでしたが...」

「わたしは、総合部の方ですから。アンナさんの下で働いてます。なので、セイジロウさんとは初対面ですけど話は色々と聞いてますよ。アンナさんがたまに愚痴を言ってたり....」


「そっ、そうですか....迷惑かけてます。すいません」

「いえいえっ! そんな事ないですよっ!迷惑以上に利益の方が多いですから! 人気の無い低ランクの依頼を受けてくれたり、甘味を販売してくれたり、緊急討伐の時の活躍も凄いですっ!! 言葉使いも丁寧で物腰も柔らかくて紳士的だし--」


「はいっ!! そこまでよっ!

今日は、わたしの休日に付き合って貰ってるんだからね!」

「フローラさーん、大人げなーい!!」


 アリーナさんとフローラさんが話に割り込んで来たのは良いけど、店内では騒がないでよ....フレイさんが苦笑いしてるよ....


「ところで、お二人は買い物をしに来たのでは? フローラさんも欲しいものは決まりました?」

 と、騒ぎの矛先を買い物へと向ける質問をした。


「そうだったわね...一応どちらかで迷ってたんだわ」


「レイシェル、わたし達も買い物だったねっ! フレイさん、何か新作とか可愛いのありますか?!」

「そう、買い物でしたっ! セイジロウさん、また今度お話しましょうね! プリンとか食べに行きますからっ!」


 どうやら誘導はうまく行ったらしい、アリーナさんとレイシェルさんはフレイさんに案内されて一緒に装飾品を見に行った。


「フローラさんにはどっちも似合いますよ。好きな方で良いのではないですか?」

「そ、そぅ? まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけど...ねぇ?」


 あー、これはあれだな...買い物あるあるの『どっちがいい?』ってやつだな....


 まだ、難問な....実際の約九割りは決まってるんだが、あとの決定権の一割りを選んでもらいたいやつだ。


 ハズレを選べば自分が選んでいた物を否定されて落ち込み、当たりを選べば価値観が共有されて喜ぶ。ハズレを選んだ場合の説明をどう言い繕うのが悩ましく、さらに、今後の価値観にも影響し下手すれば、関係にもヒビが入る......女性と買い物するときのベスト3に入るヤツ。


 さて、ファイナルアンサーはどっちだ?


「フローラさんが最初に選んだのはどっちですか?」

「えっ? それは、こっちのピレインの銀細工ね。青い魔石は印象的だけど、この銀細工が素敵なの。ここまで、繊細にするにはそれなりの熟練した腕と経験が必要よ。それに、部屋にもピレインを飾ってるしね」


「そうなんですか....で、次に気になったのがそっちですね?」

「そうね、こっちは花風季にしか咲かない花ね。サクランの花を象ったブローチよ。これも可愛くて季節物だから....細工の仕方が柔らかい感じがしたのよ」


「で、どちらも捨てがたく迷ってると...」

「そうなよねぇ」


 ふむ.....ならここは男の甲斐性を見せますか....たまには男らしく良いとこを見せなきゃな。


「なら、そちらのサクランのブローチは私がプレゼントしましょう。どうやら、無理に休みの都合をつけてもらったそうですしね」


「あれはっ....別に無理した訳じゃないわよ。まぁ、休みの届けは急だったとはわたしも思うけど...」

「私にも責任がありますから、急に誘いましたからね...それに、どちらも似合うと謂ったのは私ですから。プレゼントさせてください」


「あ、あぅ....ありがとう、セイジロウさん」

 うん、両方買えば問題ないよな。これぞ、第三の選択だ! 大抵はこれでうまく行くのは、経験済みだしね。


「あのぅ、失礼だと思いますけど! 店内ラブラブオーラは禁止でーす! レイシェルが顔を真っ赤にしてますし、フレイさんはクネクネしてますよー!!」

 と、アリーナさんからの言葉を聞いて、手早く会計を済ましてお店を出た。


 お互いに足早に歩きつつ、ふっとフローラさんと目が合いどこともなく笑いながら次の店に向かった。

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