第37話 話し合い・後編

No37

話し合い・後編





 食事の休憩も終わり話し合いが再開された。

 午後の議題は、召喚魔法についてだ。ひとまず、俺の嫌疑は棚上げにされた。

「さっきの休憩中に召喚魔法について、スミスに話を聞いた。それによると、セイジロウがしたような召喚方法は初耳だった」


「わたしもそうです、ギルドマスター。わたしがセイジロウさんに魔法の講義をしたときもそのような方法は話してません」

「そうですね、私もですね。フローラさんから教えてはもらってませんし、独学で調べてもそんな方法は記されてませんでした」

 と、フローラさんと俺が答えた。


 スミスさんが話を進める。

「従来の召喚魔法は、召喚陣を描き召喚者の魔力を糧に召喚する存在を呼び出して、互いの合意の上で契約を結び、使役します。基本はそうなっています。なので、召喚者以上の力を持った存在は出現しませんし、仮に出現しても契約も出来ず使役もできません。契約が成立しなかった存在は呼び出された場所へと戻ります」


「スミスさん、契約中に召喚者が召喚した存在に危害を加える事はありますか?」

「召喚陣内でなければありません。召喚陣は喚び出すだけでなく、身を守る為でもあるんです。なので召喚陣の外から魔法を発動するのです」


 やっぱりー。俺は、マダラを喚んだ時は召喚陣内にいたよー。でも、すぐに外に逃げたけどね。


「それが、召喚魔法のやり方なら確かに私のやり方は違いましたね。私は詠唱もしなければ、魔力を使ったわけでもないですし....」


 ただ、前の世界のやり方を考えると心当たりはあるが....


 スミスさんの話を他の三人は黙って聞いている。時折、頷いたりしながら。

「基本はそうです。ですが、違う方法もあります。自身の魔力を魔石に溜めそれを媒介にして魔法を発動させます。ですが、それは禁忌となっていてすでに失われつつあります。現在の召喚師は使わないですし、教えてもいません。廃れた方法です。知る者はいるでしょうが、メリットはありませんし、デメリットばかりですからね」


 やっぱりかぁ....俺もマダラが喚ばれるまではその方法を試そうと魔石に魔力を補充してたんだよな....まさか、禁忌だったとは...どうしよう魔石....売れるかな?


 俺はスミスさんに聞いてみた。

「その禁忌を犯した者はどうなるんですか? それと、デメリットとは?」

「禁忌とされているものを破りし者は、処罰されます。例外なく死罪です。召喚魔法に限らず、禁忌と名の付くものはすべてに該当します。それが、国王だろうとです」


 マジで!! 俺って禁忌を犯しそうになってたの.....セーフだよな....魔力を補充してただけだし.....


「そして、その召喚魔法のデメリットは、呼び出された存在に殺される可能が高いからです。召喚陣は召喚者の魔力が力の源です。自身の魔力を補充した魔石を媒介に使用して、喚ばれた存在は召喚者よりも力が上です。自身の力より上の存在は、自分を自由にしようと力を使います。それが、物理か魔法かは喚ばれた存在によりますが.....そして、防げるものではありません。例え、召喚陣があったとしても自分以上の力の存在には抵抗出来ないのです」


「....最悪、死に至ると?」

「だけならまだマシです。死より辛いことは無数にあります。死ねるだけマシなだけですよ、セイジロウさん」


 スミスさんは俺の顔を見ながら苦笑いしながら言った。確かに、この世界ではそれが普通だと知っている。


 窃盗、強盗、強姦、拷問などが当たり前に存在する世界だ。街の中にいても平気で起こるし、街の外で見つからなければ、知られなければ何でもありだ。死が常に隣合わせですべては自己責任だ。


「少し脅かし過ぎましたね。召喚魔法については分かってもらえましたね?」

 そう言ってスミスさんは話の説明をおえた。

 俺は、頷きを返事とした。


「ですが、セイジロウさんはわたしたちが知らない方法でマダラを喚びました。マダラの言葉を信じるならその方法は我々には出来ないと言いました。セイジロウさんだけに出来る方法だと.....」

 と、アンナさんが話した。


『あれは特殊だと考えればよいぞ。話を聞くと世界が違えばやり方も異なる。さらに、思想や考え方も違うのだ。それに、やり方を知ってるのはおぬし達だけじゃ。あとはおぬし達で判断すれば良いのじゃ』

 と、マダラが影から顔を出して四人に思念を飛ばして助け船を出してくれた。



 そして、ダンさんが話し出した。

「....スミス、それでいいだろ。詳しい話はあとですればいい。話がズレるといつまで経っても終わらん。次はマダラについてだが.....従魔の印を渡してそれで終わりでいいじゃねぇか? と、俺は、思うんだがなあ....」


「マダラですか......正直それしかないと思います。力では勝つ自信も無いですし、かといってセイジロウを縛りつけて敵意を抱かれでもしたら......まぁ、ギルドマスターか言うなら従いますよ」


「なら、従魔の印を用意しよう。他に何かあるか?」

 ギルドマスターのダンさんがみんなの顔を見たが誰も発言はしなかった。


「無いなら話は終わりだ。セイジロウは、冒険者としてこの街で今まで通り暮らせばいいさ。マダラはしっかりと躾ておけよ。アンナは、スミスと一緒に報告用の書類作成をしておけ。フローラは引き続きセイジロウの相談役だ。以上だ」

 最後は、ギルドマスターの決定で終わった。


 やって長い話し合いが終わり解散となった。時刻は午後のティータイムの時間を指していた。ずいぶんと長い時間を話しあっていた。


 そのあとは自宅へと帰宅してダラダラと過ごした。物凄く精神的に疲れた一日だった。


 ちなみに、異世界人としての話し合いや報告書の作成でギルドマスター達は頭を痛くしたのはセイジロウは知らなかった。

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 冒険者ギルドでの話し合いから一週間が経ち、一日のサイクルが通常に戻った。

 朝起きて、冒険者ギルドに行き依頼を受け、プリン販売用の仕込みとフレンチトーストの仕込みをして販売する。


 販売してる間は、マダラを俺の影から外に出してギルドの食事処内で大人しくしてもらってる。


 マダラと話し合いをして、ハルジオンの街の人達にマダラが従魔だと知ってもらう為にあえて外に出す行為をしてる。いきなり街中で連れ歩くには、マダラは恐すぎるからな。


 なので、まずはギルド内限定で今はマダラの行動を自主的に制限してる。マダラにとっては嫌な思いをさせてしまってるから、プリンとフレンチトーストをおやつに用意する事と夕食にピザやフライドポテト、オーク肉のステーキなどの食事処で出される料理を出す事で合意した。


 初めてマダラをギルド内で出した時は軽い騒動になりかけたが、ギルド職員の呼び掛けで大事にはならなかった。もちろん、冒険者ギルド発行の従魔の印を首から下げている。


 マダラの騒動も二、三日すると静かになり冒険者達の中で話が広まりマダラに害がないと知られていった。さらには、冒険者にとって初めて見る姿らしく一目見ようとやってくる者達もいる。


 度胸試しだとバカな事を考える冒険者もいて、武器は抜かないがマダラをバカにする態度や挑発するヤツも中にはいる。


 そんなヤツらは、マダラの威圧一発で腰を抜かしたり気を失ったり、失禁するヤツもいた。マダラには手を出さなければいいと伝えてある。

 忠告を聞かない人には威圧ぐらいはしょうがないよな。


 フレンチトーストの販売が終われば、夕方までは魔法の訓練をする。その間はマダラはギルドの訓練所で寝転がったりしてゴロゴロしてる。俺もマダラと一緒に寝転がったりする日もある。


 マダラの体はふわふわモフモフでとても寝心地がいい。この一時の時間はマダラに感謝を心の中で唱えている。


 夕方には依頼を受けて帰ってきた冒険者がギルドの食事処に来るから、給仕の依頼をこなす。マダラは隅で寝転がって大人しくしてる。たまに、冒険者が餌付けしようと料理をマダラに与えてるのを見る。マダラは素直に出された餌を食べて尻尾を揺らしながら、喉を鳴らす。


 喉の音にビクつく冒険者もいるが、威圧を放ってないと分かると他の冒険者も興味津々と自分達の料理を餌代わりに与え始める。


 そして今では、ある程度の冒険者達にマダラの存在は知られつつあった。もう少ししたら街中をマダラと一緒に歩いても大丈夫かと思ってる。

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